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Episode7

身体検査

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 血で描かれたと思われるソレを前に、俺は慌てて御札を取り出した。
と同時に、久世彰が何かを唱える────ものの、悟史に殴られたことで中断。
これで何とか事なきを得た────と思いきや、呪文なしで呪詛を発動する。
その瞬間、俺と悟史の体は急激に怠くなった。
まるで三徹した時のような体調の悪さである。

 呪文なし……それも、瞬発的な呪詛でコレかよ。
マジでヤバいな、こいつ。

 猛烈な吐き気を覚えつつも、俺は何とか御札を使用。
呪詛の穢れを祓い、無効化した。

「悟史、そいつ腹パンして眠らせろ」

 薬を飲ませる手間すら惜しんで、俺は『早く無力化しろ』と指示した。
すると、悟史よりも先に久世彰が動きを見せる。
『ここで捕まる訳にはいかない』とでも言うように身を捩り、ここから飛び降りようとした。
が、悟史に襟首を掴まれて逃亡出来ず……懐に手を突っ込む。
恐らく、何か道具でも取り出すつもりなんだろう。
でも────

「もう無駄な抵抗はやめてくれる?」

 ────悟史がソレを見逃す筈なかった。
適当に久世彰の手を捻り上げ、鳩尾に膝をめり込ませる彼は『腹パンじゃなくて、腹キックになっちゃった』と呟く。
と同時に、久世彰は白目を剥いて倒れた。

「壱成、こいつの身体検査をお願いしてもいい?僕じゃ、祓い屋系のヤバイものとか見分けつかないし」

 『うっかり危ないものに触ってしまったら』と危機感を抱く悟史に、俺はコクリと頷いた。
元より、そのつもりだったため。

「でも、その前にこいつを室内へ運んでくれ。さすがにベランダでやるのは、不味いだろ」

 人目を気にしてそう指示すると、悟史は『それもそうだね』と言って久世彰の首根っこを掴んだ。
かと思えば、そのままズルズルと引き摺って行く。
相変わらず容赦ない……というか遠慮のない彼に、俺は苦笑を漏らした。

「念のため、ちょっと離れていろ」

「はーい」

 素直に壁際まで下がる悟史に、俺は『それでいい』と頷き、早速久世彰の身体検査を始める。
と言っても、身ぐるみ剥いでいるだけだが。

 持ち物の確認は後からでも出来るからな。今はとにかく、道具から引き離すことだけ考えねぇーと。

 あっという間にパンツとYシャツだけになった久世彰を見つめ、俺は『下着も脱がせるか?』と悩む。
────と、ここで悟史が僅かに身を乗り出した。

「ねぇ、胸ポケットのところ……なんか、盛り上がってない?」

「ん?あぁ、確かに」

 よく見ると何かを縫いつけたような跡があり、俺は『Yシャツの内側になんか付けたのか?』と頭を捻る。
とりあえず全てのボタンを外し、俺はペラリと布を捲った。
と同時に、息を呑む。
だって、そこにあったのは木の……いや、御神木の枝だったから。

 『あの神社のやつだ』と確信しつつ、俺はソレを手に取る。
でも、しっかりYシャツに縫い付けられているため取れなかった。
『ハサミで糸を切るしかないか』と考えていると、不意に────呪詛の気配を感じ取る。
それも、久世彰の方から。
思わず身構える俺の前で、久世彰はパチッと目を覚まし、俺を突き飛ばした。

「壱成……!」

「いいから、あいつをもう一度眠らせろ!」

 ただ尻餅をついただけなので、俺は悟史に久世彰の対応を任せた。
慌てて立ち上がる俺を他所に、悟史は久世彰へ殴り掛かる。
が、呪詛でも掛けられたのか口元を押さえて蹲った。
『っ……!』と声にならない声を上げる彼の前で、久世彰は再びベランダに出た。
かと思えば、一も二もなく飛び降りる。

 チッ……!ヤケでも起こしたか……!

 悟史の呪詛を祓いつつベランダに駆け込んだ俺は、急いで地上を見下ろした。
が、久世彰の姿はどこにもない。
『はっ?消えた?』と困惑する中、右斜め下から人の足音が聞こえてきた。
何の気なしにそちらへ視線を向けると、非常階段で下に降りていく久世彰の姿が……。

 そうか、非常階段……!

 『飛び移ったのか』と納得し、俺は額に手を当てた。
今から追い掛けても、きっと追いつけないであろうことを見越して。

 とはいえ、あっちはパンツ&Yシャツ姿。おまけに財布やスマホもない。
余程親切な人に助けられない限りは、にっちもさっちも行かないだろう。
警察に捕まるのが、オチだからな。

 『一応、桔梗に連絡して協力を仰ぐか』と考えながら、俺はスマホを取り出す。
悟史も同じように自身のスマホを操作し、どこかに連絡を取っていた。
恐らく、組やリンに居場所を特定するよう頼むのだろう。
沖縄限定かつホテル周辺となれば、直ぐに足取りを掴めそうだから。

「……ねぇ、壱成」

「なんだ?」

「ごめんね……」

 普段のおちゃらけた雰囲気はどこへやら……悟史は珍しく、落ち込んだ様子で謝罪してきた。
恐らく、久世彰を取り逃した責任は自分にあると思っているのだろう。

「僕がもっと強く鳩尾を決めていたら……しっかり気絶させられていたら、こんなことにはならなかった」
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