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Episode5

井川家

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「分かりました。とりあえず、実際に貴方の家を見せてください」

 ────と、申し出た一時間後。
俺と悟史は井川猛の通う高校と同じ制服に着替えてから、家へ向かった。
というのも、両親に内緒で調査しないといけなかったため。
堂々と祓い屋であることを明かせば、警戒される恐れがあった。

 最悪、締め出しを食らって調査不可能になるし。まあ、それにしたって……

「……これはないだろ」

 もういい大人にも拘わらず学ランを着る羽目になり、俺はほとほと嫌気が差す。
なんだか、コスプレしているようで落ち着かないのだ。
『てか、どうやって手に入れたんだよ……』と考え、俺は調達してきた張本人である悟史を軽く睨んだ。

 クソが……こいつ、無駄にチャラいから似合うな。
マジで全然違和感ねぇ……。

 妙にノリノリの悟史を見て半分引きつつ、俺は大きく息を吐く。
────と、ここで家の鍵を開けていた井川猛がこちらを振り返った。

「じゃあ、打ち合わせ通りにお願いします」

 そう言って、井川猛はガラガラガラと引き戸を開ける。
と同時に、何とも言えない妙な気配が漂ってきた。

「この家、マジでなんかおかしいな」

「だね。邪気や穢れとは違うけど、こう……異質な感じ」

 上手く言葉に出来ないといった様子で言い淀み、悟史は悶々とした。
『何の気配なんだろ、これ』と呟く彼を他所に、井川猛は玄関へ入る。

「ただいまー!今日は学校の友達連れてきたから、後でお菓子持ってきてー!」

 『二階、行っているからー!』と声を掛け、井川猛は靴を脱いだ。
どうぞどうぞと促してくる彼を前に、俺と悟史も中へ足を踏み入れる。
お邪魔します、と挨拶しながら。
『なんだか、妙に緊張するな』と思案する中、玄関の正面にある扉が開いた。
と同時に、小綺麗な女性が姿を現す。
恐らく、井川猛の母親である井川美里だろう。

「ちょっと、猛。事前に連絡もなく、友達を連れてくるなんて何を考えているの?」

 眉間に深い皺を刻み、井川美里はこちらへ詰め寄ってくる。
恐らく、俺達が視える体質であることを悟って警戒しているのだろう。

「も、もうすぐテストだから一緒に勉強しようと思ったんだよ。連絡しなかったのは悪かったけど、そんなに怒ることないじゃん」

 『母ちゃんらしくないな』とボヤきつつ、井川猛はさっさと階段を上がる。
ボロを出す前に退散しようとする彼の前で、井川美里は大きな溜め息を零した。

「……夜までには、帰ってもらいなさいよ」

「それはまあ……もちろん。小鳥遊さ……くん達にも、予定とかあるだろうし。親御さんも心配すると思うから」

 『そこら辺はきちんとするって』と述べる井川猛に、井川美里は小さく相槌を打つ。

「そう。なら、いいわ。お母さんはちょっとスーパーに行ってくるから、お茶菓子は自分で用意しなさい」

 『騒ぎ過ぎないようにね』と釘を刺しつつ、井川美里は玄関へ足を向ける。
そのまま俺達の横を通り過ぎていき、開けっ放しの玄関から出ていった。
徐々に遠ざかっていく足音を前に、悟史は一先ず引き戸を閉める。

「ねぇ、家からスーパーって往復何分?」

「えっと……一番近いところでも、三十分くらいはすると思います」

「そっか。じゃあ、今のうちに家の中を案内してくれる?」

 カモフラージュのリュックを玄関脇に置き、悟史はさっさと家へ上がった。
勝手にスリッパまで出してズカズカ中へ入っていく彼を前に、井川猛は一瞬呆気に取られる。
が、慌てて二階建ての我が家を案内してくれた。

「────今のところ特に変わった点はない、か」

 お風呂やトイレまで見て回ったが、幽霊や妖の類いは見当たらない。
家中に漂う妙な気配を除けば、これと言っておかしな点はなかった。

「残るは、井川珠里の自室と井川夫妻の寝室だけだね」

 リビングのダーニングテーブルに寄り掛かり、悟史は『その二箇所で何か見つかればいいけど』と零す。
と同時に、掛け時計へ視線を移した。

「急いだ方が良さそうだね。どっち先に行く?」

「あ、あの……そのことなんですけど」

 おずおずといった様子で手を挙げる井川猛は、困ったように眉尻を下げる。

「妹の部屋はさておき、父ちゃんと母ちゃんの寝室には鍵が掛けられているんです。だから、中を確認出来るかどうか……」

 『無理やりこじ開けたら親にバレるし……』と悩む井川猛に、悟史はパチパチと瞬きを繰り返す。

「それって、カードやダイヤル式?」

「いえ、普通にキーを差し込んで開けるタイプですけど……」

「なら、問題ないね」

 学ランの内ポケットから針金を取り出し、悟史は得意げに笑った。

「鍵穴のタイプにもよるけど、五分くらいで空けられると思うよ」

「五分か……ちょっと長いな」

 残り時間が十分を切っていることもあり、俺は少し迷う。
井川夫妻の寝室だけ確認を諦めようか、と。
『もしくは後日に持ち越すか』と思案する中、悟史はおもむろに体を起こす。

「じゃあ、一旦二手に分かれる?壱成と猛は妹の部屋を確認。その間、僕が井川夫妻の寝室の扉を開ける。で、解錠でき次第二人に来てもらう」
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