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Episode5
井川猛の依頼
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◇◆◇◆
────久世彰というタチの悪い祓い屋についての説明を受けた三日後。
俺は男子高校生から『我が家を調査してほしい』との依頼をもらい、緋山町へ繰り出した。
無論、弟子の悟史や及川兄弟も一緒である。
『なんだかんだ、車移動が一番楽だからな』と思案する中、待ち合わせ場所のファミレスに到着。
そこで依頼人の男子高校生と合流した。
「わ、わざわざお越しいただいてすみません」
向かい側の席に腰掛けて縮こまる男子高校生は、落ち着かない様子で視線をさまよわせる。
こんな風に仕事を依頼する経験が、なかったからだろう……もしくは、イタズラのつもりで依頼していて今になって後悔しているか。
メールの文面を見る限り、本気で怪奇現象に遭ってそうだが……なんせ、相手は学生だからな。
しかも、高校生なんて一番命知らず……というか、血気盛んだから度胸試しついでにこのようなイタズラを仕掛けてきてもおかしくない。
『実際、何度かそういうことがあったしな』と思い返しつつ、俺はテーブルに頬杖を突いた。
「念のため確認しておきますが、依頼は本当なんですよね?」
「えっ?あっ、はい!それはもちろん……!」
『こんな嘘つきませんよ!』とハッキリ言い、男子高校生は手に持ったグラスを強く握り締めた。
かと思えば、明るめの茶髪を指先で軽くいじる。
「あ、あの……今更ですけど、俺────井川猛って言います。見ての通り、学生で……今回はお年玉貯金を切り崩して、貴方に依頼しました」
「そうですか。で、依頼の詳細は?」
『メールでも聞きましたが、もう一度説明してください』と促すと、井川猛は案外すんなり応じた。
俺と悟史に見えるようスマホをテーブルへ置き、彼は画面をタップする。
「俺が今回頼みたいのは大まかに言うと、我が家の……いや、家族の異常を突き止めて解決することです」
『これ、家族の写真です』と言って、井川猛は四人の男女が写った画像を見せた。
「ウチは写真の通り四人家族で、父ちゃんの井川學と母ちゃんの井川美里、妹の井川珠里が居ます。それで、その……」
言いづらそうに視線を落とし、井川猛はゆらゆらと瞳を揺らす。
が、意を決したように顔を上げた。
「俺以外の家族は霊媒体質なんです。一応、俺も幽霊や妖の気配を感じ取ることは出来るんですが……他の家族ほどじゃなくて。でも、最近はそんな俺でも『おかしいな』って感じるくらい家の雰囲気……というか、空気が異様なんです。でも……」
そこで一度言葉を切り、井川猛は悩ましげに眉を顰めた。
「父ちゃんや母ちゃんにそのことを話しても、『気のせいじゃないか?』って言われて……絶対、そんな訳ないのに。だけど、俺は視えないから……」
「ふーん?妹さんの方はなんて?」
『その子も視える体質なんでしょ』と指摘する悟史に、井川猛は困ったような表情を浮かべる。
「妹とは、ここ最近まともに話せていないんです……」
「反抗期ですか?」
見せてもらった写真からして、恐らく妹の井川珠里は中学生。
一番難しい年頃と言ってもいい。
反抗期の延長で、兄を避けたり無視したりしてもおかしくはないだろう。
「いえ、珠里は本当にいい子で……ただ、その……難病を患っていて、一ヶ月前いきなり病状が悪化したんです。それから入退院を繰り返していて、帰ってきてもずっと自室に籠りっぱなしで……俺も話がしたいとは思っているんですけど、病人に無茶をさせる訳にはいかないし……」
『父ちゃんや母ちゃんにも近づくなって、言われているんで』と言い、井川猛はそっと眉尻を下げた。
彼が大金を叩いてまで、俺に依頼した理由にはきっと妹のことも含まれているのだろう。
ただでさえ病気で大変なのに、怪奇現象で気力を削がれたら大変だ、と。
「これはあくまで俺の勘ですが、両親は家の異常に一枚噛んでいると思います。少なくとも、気づいていて放置しているのは確実です。ですから、視える体質である小鳥遊さんにことの真相を暴いてもらいたい。それで、父ちゃんや母ちゃんが間違った道へ進もうとしているなら、止めてほしいんです」
『最近、本当に嫌な予感しかしなくて……』と不安を零し、井川猛はじっとこちらの反応を窺った。
いまいち要領を得ない話だから、信じてくれるのか……また、依頼を引き受けてくるのか心配なのだろう。
こいつの話には、明確な根拠がないから。単に『なんか、おかしいな』と感じているだけ。
でも、人間のそういう勘は侮れない。
何より、その話が嘘であろうと誠であろうと、俺のやることは変わらなかった。
「分かりました。とりあえず、実際に貴方の家を見せてください」
────久世彰というタチの悪い祓い屋についての説明を受けた三日後。
俺は男子高校生から『我が家を調査してほしい』との依頼をもらい、緋山町へ繰り出した。
無論、弟子の悟史や及川兄弟も一緒である。
『なんだかんだ、車移動が一番楽だからな』と思案する中、待ち合わせ場所のファミレスに到着。
そこで依頼人の男子高校生と合流した。
「わ、わざわざお越しいただいてすみません」
向かい側の席に腰掛けて縮こまる男子高校生は、落ち着かない様子で視線をさまよわせる。
こんな風に仕事を依頼する経験が、なかったからだろう……もしくは、イタズラのつもりで依頼していて今になって後悔しているか。
メールの文面を見る限り、本気で怪奇現象に遭ってそうだが……なんせ、相手は学生だからな。
しかも、高校生なんて一番命知らず……というか、血気盛んだから度胸試しついでにこのようなイタズラを仕掛けてきてもおかしくない。
『実際、何度かそういうことがあったしな』と思い返しつつ、俺はテーブルに頬杖を突いた。
「念のため確認しておきますが、依頼は本当なんですよね?」
「えっ?あっ、はい!それはもちろん……!」
『こんな嘘つきませんよ!』とハッキリ言い、男子高校生は手に持ったグラスを強く握り締めた。
かと思えば、明るめの茶髪を指先で軽くいじる。
「あ、あの……今更ですけど、俺────井川猛って言います。見ての通り、学生で……今回はお年玉貯金を切り崩して、貴方に依頼しました」
「そうですか。で、依頼の詳細は?」
『メールでも聞きましたが、もう一度説明してください』と促すと、井川猛は案外すんなり応じた。
俺と悟史に見えるようスマホをテーブルへ置き、彼は画面をタップする。
「俺が今回頼みたいのは大まかに言うと、我が家の……いや、家族の異常を突き止めて解決することです」
『これ、家族の写真です』と言って、井川猛は四人の男女が写った画像を見せた。
「ウチは写真の通り四人家族で、父ちゃんの井川學と母ちゃんの井川美里、妹の井川珠里が居ます。それで、その……」
言いづらそうに視線を落とし、井川猛はゆらゆらと瞳を揺らす。
が、意を決したように顔を上げた。
「俺以外の家族は霊媒体質なんです。一応、俺も幽霊や妖の気配を感じ取ることは出来るんですが……他の家族ほどじゃなくて。でも、最近はそんな俺でも『おかしいな』って感じるくらい家の雰囲気……というか、空気が異様なんです。でも……」
そこで一度言葉を切り、井川猛は悩ましげに眉を顰めた。
「父ちゃんや母ちゃんにそのことを話しても、『気のせいじゃないか?』って言われて……絶対、そんな訳ないのに。だけど、俺は視えないから……」
「ふーん?妹さんの方はなんて?」
『その子も視える体質なんでしょ』と指摘する悟史に、井川猛は困ったような表情を浮かべる。
「妹とは、ここ最近まともに話せていないんです……」
「反抗期ですか?」
見せてもらった写真からして、恐らく妹の井川珠里は中学生。
一番難しい年頃と言ってもいい。
反抗期の延長で、兄を避けたり無視したりしてもおかしくはないだろう。
「いえ、珠里は本当にいい子で……ただ、その……難病を患っていて、一ヶ月前いきなり病状が悪化したんです。それから入退院を繰り返していて、帰ってきてもずっと自室に籠りっぱなしで……俺も話がしたいとは思っているんですけど、病人に無茶をさせる訳にはいかないし……」
『父ちゃんや母ちゃんにも近づくなって、言われているんで』と言い、井川猛はそっと眉尻を下げた。
彼が大金を叩いてまで、俺に依頼した理由にはきっと妹のことも含まれているのだろう。
ただでさえ病気で大変なのに、怪奇現象で気力を削がれたら大変だ、と。
「これはあくまで俺の勘ですが、両親は家の異常に一枚噛んでいると思います。少なくとも、気づいていて放置しているのは確実です。ですから、視える体質である小鳥遊さんにことの真相を暴いてもらいたい。それで、父ちゃんや母ちゃんが間違った道へ進もうとしているなら、止めてほしいんです」
『最近、本当に嫌な予感しかしなくて……』と不安を零し、井川猛はじっとこちらの反応を窺った。
いまいち要領を得ない話だから、信じてくれるのか……また、依頼を引き受けてくるのか心配なのだろう。
こいつの話には、明確な根拠がないから。単に『なんか、おかしいな』と感じているだけ。
でも、人間のそういう勘は侮れない。
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