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Episode4

風来凛斗の依頼

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◇◆◇◆

 ────東雲柚子の依頼から、一週間ほど経過した頃。
俺は突如として、幼馴染みの風来凛斗に呼び出された。
それも、風来家の本邸に。
いつもは大体通話一本で済ませるか、外の料亭などを貸し切りにして会っているのに。
『余程重要な案件なのか』と身構えながら、俺は縁側に腰掛けリンの話に耳を傾ける。

「はぁ……それはまたなんというか、きな臭い案件だな」

「そうなんだよね。だから、とても困っているんだ」

 そう言って、隣に座る白髪の男はカチャリと眼鏡を押し上げた。
レンズ越しに見える金色がかった瞳を怪しく細めながら。

「という訳で、セイちょっと頼まれてくれるかい?」

「何が『という訳で』なのか分からんが、お断りだ」

 『絶対ろくなことにならない』と吐き捨て、俺はリンの頼みを突っぱねた。

 幸い、今はお金に困っていないからな。リンの依頼を無理して、引き受ける必要はない。
まあ、いつも世話になっている身としては少々心苦しいが……でも、この業界は同情心でやっていけるほど甘くないから。
仏心を出したばかりに、命を落とした……なんてケースはザラにある。

 『安請け合いはしないに限る』と考え、俺は縁側から立ち上がった。
と同時に、リンが口を開く。

「百万」

「……はっ?」

 思わず呆然と立ち尽くしてしまう俺に対し、リンは不敵な笑みを浮かべた。

「ついでに行方不明になった・・・・・・・・ウチの部下・・・・・を一人連れて帰ってくるごとに、十万上乗せしよう」

「……」

 基本ケチなリンが七桁の報酬金額を提示したことは、今までない。
つまり、それだけヤバい案件ということ。
ますます引き受けたくなくなるが……七桁の金額を放棄するのは、ちょっと惜しい。

 つい金に目が眩んでしまう俺は、顎に手を当てて悶々と考え込む。
『百万あれば、寿司を食える……』と悩み、小さく唸った。
すると、リンがスッと目を細める。

「風来家は今回の件を全面的にバックアップする。物資の提供や貸し出しはもちろん、送迎だって行おう。本当にヤバそうなら、僕も出張るし」

「……お前が?」

「ああ。セイでも無理なら、それこそ次期当主たる僕くらいしか解決出来ないだろう?」

 『他の奴じゃ、歯が立たない』と言ってのけ、リンは和服の裾に手を入れた。
かと思えば、白い布袋を取り出す。

「僕お手製のお守りだよ。本当にどうしようもなくなったら、これを使うといい」

「……サンキュ────って、俺はまだ一言も『やる』なんて言ってないんだけど!?」

 何故か承諾する方向へ話が進んでおり、俺は思わず受け取ったお守りを握り締めた。
その際、ちょっと硬い感触が。

「何入ってんだよ、これ」

「それは開けてからのお楽しみ。それより、送迎はどうする?」

 もはや行くことは決定事項のようで、リンは交通手段について問うてきた。

 なんだか釈然としないが……まあ、いい。
ここまで食い下がってくるなら、引き受けてやる。

「途中まででいいから、送ってくれ。帰りは、まあ……自分で何とかする。いつまで掛かるか、分かんねぇーからな。あと────報酬金額は二百万にしろ。絶対、百万じゃ割に合わねぇ」

 と、宣言した数時間後。
俺は林道沿いにある山間の集落の近くで、車を下りた。
送ってくれた風来家の人間に軽く礼を言い、目的地の集落へ足を向ける。
と同時に、肩を叩かれた。

「ねぇ、僕のことを置いていくなんて酷くない?壱成」

 そう言って、振り返った俺の頬をつついたのは弟子の悟史だった。
後ろには、及川兄弟の姿もある。
どうやら、ここまで付いてきたらしい。

「何でお前らが居る……」

 今回の案件は色んな意味で未知数のため、敢えて声を掛けなかったのだが……バッチリ顔を揃えている。
『リンから話が行ったのか?』と首を傾げる中、悟史は大きく胸を張った。

「壱成のスマホに仕掛けた追跡アプリで、付いてきたんだよ」

「堂々と言うことじゃねぇ……てか、いつの間にそんなの……」

 慌ててスマホの中を確認する俺に対し、悟史は何故か得意げに笑う。
『アプリを隠すアプリまで入れてあるから、バレないよ~』と口にしながら。

「いやね?最初は『風来家からの帰り道に、どこか寄っていくのかな?』と思ったんだよ。でも、どんどん自宅から遠ざかっていくからさ。これは確実に何かあるなって思って、仕事を抜け出してきちゃった」

「『きちゃった』じゃねぇーよ、仕事しろ」

 『可愛く言っても無駄だ』と叱りつけ、俺は目頭を押さえる。
と同時に、深い深い溜め息を零した。

「とにかく、今回ばかりは同行を許可出来ない。あの風来家ですら、手を焼く案件なんだよ。だから、大人しく帰れ」
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