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Episode2
ちょっと変わった降霊術
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「えっと……では、まず自己紹介から。私は高宮二郎と言います。都内で普通にサラリーマンをやっています。依頼内容はほぼメールに書いた通りなのですが……」
そう前置きしてから、高宮二郎はゆっくりと詳細を語り出す。
「ある日、オカルト好きの友人からちょっと変わった降霊術を教えてもらったんです。自分は基本そういうことに興味ないんですが、家に帰ってお風呂から上がった時ふとそのことを思い出して……面白半分にやってみたんです」
ギョッと震える指先を握り込み、高宮二郎は恐怖に顔を歪めた。
恐らく、当時のことを思い出しているのだろう。
「そ、そしたら……突然黒くてネバネバした塊のようなものが現れて、俺を……あ、頭から食べたんです。それで気がついたら、洗面台の前に倒れていて……」
風呂場のある方向を振り返り、高宮二郎は若干言い淀んだ。
が、何とか声を振り絞る。
「最初は残業で疲れて眠ってしまったんだ、と……アレは夢だったんだ、と思ってました。いや、思い込もうとしていたんです。でも、次の日からおかしなことが頻発するようになって……」
「おかしな事というのは?」
『具体的に教えてください』と申し出ると、高宮二郎は一瞬渋るような動作を見せた。
でも、このままじゃ埒が明かないことは彼自身よく分かっているため、勇気を振り絞る。
「ば……化け物に食べられる夢を何度も見たり、家具が突然倒れてきたり、電話やインターホンに出たらノイズの掛かったような声で『寄越せ』と言われたり……」
「あー、だからインターホン越しじゃなくて直接来客を確認しに来たのか」
ポンッと手を叩いて納得する悟史は、『なるほどね~』と大きく頷いた。
謎が解けて満足している彼を他所に、俺は自身の顎を撫でる。
「他は?思いつく限り、言ってみてください」
「えっと……あとは気がついたら変な泥を食べていたり、職場で黒い液体を吐いたり、体に変な痣のようなものが出来たり……」
「その痣、見せてもらえますか?」
憑いているものの痕跡を見れば何か分かるかもしれないため、俺はそう申し出た。
すると、高宮二郎はパーカーの袖を捲って両腕を見せる。
そこには、赤黒い痣が複数あった。
「……これは急いだ方がいいかもな」
『今日は一先ず様子見のつもりだったんだが』と嘆息しつつ、俺は前髪を掻き上げる。
と同時に、天井を仰ぎ見た。
どうやってお祓いしようか思い悩む中、俺はふとあることを思い出す。
「あっ、そうだ。『ちょっと変わった降霊術』って、何なんですか?解決のヒントになるかもしれないので、教えてください」
さっき聞きそびれてしまったことを尋ねると、高宮二郎は
「は、はい。えっと、こういう風に……」
と、身振り手振りで教えようとする。
変なところで無防備な彼を前に、俺はやれやれと頭を振った。
「いえ、実演は結構です。また降霊術に成功したら、困るんで。口頭で説明をお願いします」
「わ、分かりました」
慌てて手を下ろし、ピンッと背筋を伸ばす高宮二郎はこちらに目を向ける。
と同時に、おずおずと口を開いた。
「友人から教えてもらった降霊術は、一言で言うとお辞儀です」
「お辞儀?」
「はい。鏡の前で瞼、鼻先、唇、耳朶、手のひらに触れて二回柏手を打ち、一礼するんです」
「……えっ?それだけ?」
もっと細かい手順などがあるものだろうと思っていた俺は、ついタメ口で聞き返してしまった。
パチパチと瞬きを繰り返す俺の前で、高宮二郎は小首を傾げる。
「はい、それだけです。少なくとも、私の試した方法はこれですね」
「そうですか……ちなみに道具などは?」
「使っていません。強いて言うなら、鏡くらいですかね……?」
「……なるほど」
めちゃくちゃ単純な手法に面食らいつつ、俺はガシガシと頭を搔く。
だって、普通はこんな方法じゃこの世ならざるものを呼び出せないから。
最もポピュラーな降霊術であるコックリさんですら、紙と十円玉を用意する必要があるのだ。
余程、運が良くなければ……いや、この場合は悪いと言うべきか。
まあ、とにかくこの降霊術ではプロの祓い屋でもこの世ならざるものを呼び出せない。
ただ、もし偶然じゃないのであれば────。
「悟史、さっきの香り袋を出せ。というか、寄越せ。また新しいやつ作ってやるから」
「えっ?まあ、別にいいけど……何で?」
「ちょっと確かめたいことがある」
そう言って悟史から白い袋を受け取ると、俺は高宮二郎へ向き直った。
「これに────軽く貴方の霊力を流してください」
「……へっ?」
素っ頓狂な声を上げて固まる高宮二郎に、俺は一つ息を吐く。
まさかバレるとは思ってなかったみたいだな、と思いながら。
そう前置きしてから、高宮二郎はゆっくりと詳細を語り出す。
「ある日、オカルト好きの友人からちょっと変わった降霊術を教えてもらったんです。自分は基本そういうことに興味ないんですが、家に帰ってお風呂から上がった時ふとそのことを思い出して……面白半分にやってみたんです」
ギョッと震える指先を握り込み、高宮二郎は恐怖に顔を歪めた。
恐らく、当時のことを思い出しているのだろう。
「そ、そしたら……突然黒くてネバネバした塊のようなものが現れて、俺を……あ、頭から食べたんです。それで気がついたら、洗面台の前に倒れていて……」
風呂場のある方向を振り返り、高宮二郎は若干言い淀んだ。
が、何とか声を振り絞る。
「最初は残業で疲れて眠ってしまったんだ、と……アレは夢だったんだ、と思ってました。いや、思い込もうとしていたんです。でも、次の日からおかしなことが頻発するようになって……」
「おかしな事というのは?」
『具体的に教えてください』と申し出ると、高宮二郎は一瞬渋るような動作を見せた。
でも、このままじゃ埒が明かないことは彼自身よく分かっているため、勇気を振り絞る。
「ば……化け物に食べられる夢を何度も見たり、家具が突然倒れてきたり、電話やインターホンに出たらノイズの掛かったような声で『寄越せ』と言われたり……」
「あー、だからインターホン越しじゃなくて直接来客を確認しに来たのか」
ポンッと手を叩いて納得する悟史は、『なるほどね~』と大きく頷いた。
謎が解けて満足している彼を他所に、俺は自身の顎を撫でる。
「他は?思いつく限り、言ってみてください」
「えっと……あとは気がついたら変な泥を食べていたり、職場で黒い液体を吐いたり、体に変な痣のようなものが出来たり……」
「その痣、見せてもらえますか?」
憑いているものの痕跡を見れば何か分かるかもしれないため、俺はそう申し出た。
すると、高宮二郎はパーカーの袖を捲って両腕を見せる。
そこには、赤黒い痣が複数あった。
「……これは急いだ方がいいかもな」
『今日は一先ず様子見のつもりだったんだが』と嘆息しつつ、俺は前髪を掻き上げる。
と同時に、天井を仰ぎ見た。
どうやってお祓いしようか思い悩む中、俺はふとあることを思い出す。
「あっ、そうだ。『ちょっと変わった降霊術』って、何なんですか?解決のヒントになるかもしれないので、教えてください」
さっき聞きそびれてしまったことを尋ねると、高宮二郎は
「は、はい。えっと、こういう風に……」
と、身振り手振りで教えようとする。
変なところで無防備な彼を前に、俺はやれやれと頭を振った。
「いえ、実演は結構です。また降霊術に成功したら、困るんで。口頭で説明をお願いします」
「わ、分かりました」
慌てて手を下ろし、ピンッと背筋を伸ばす高宮二郎はこちらに目を向ける。
と同時に、おずおずと口を開いた。
「友人から教えてもらった降霊術は、一言で言うとお辞儀です」
「お辞儀?」
「はい。鏡の前で瞼、鼻先、唇、耳朶、手のひらに触れて二回柏手を打ち、一礼するんです」
「……えっ?それだけ?」
もっと細かい手順などがあるものだろうと思っていた俺は、ついタメ口で聞き返してしまった。
パチパチと瞬きを繰り返す俺の前で、高宮二郎は小首を傾げる。
「はい、それだけです。少なくとも、私の試した方法はこれですね」
「そうですか……ちなみに道具などは?」
「使っていません。強いて言うなら、鏡くらいですかね……?」
「……なるほど」
めちゃくちゃ単純な手法に面食らいつつ、俺はガシガシと頭を搔く。
だって、普通はこんな方法じゃこの世ならざるものを呼び出せないから。
最もポピュラーな降霊術であるコックリさんですら、紙と十円玉を用意する必要があるのだ。
余程、運が良くなければ……いや、この場合は悪いと言うべきか。
まあ、とにかくこの降霊術ではプロの祓い屋でもこの世ならざるものを呼び出せない。
ただ、もし偶然じゃないのであれば────。
「悟史、さっきの香り袋を出せ。というか、寄越せ。また新しいやつ作ってやるから」
「えっ?まあ、別にいいけど……何で?」
「ちょっと確かめたいことがある」
そう言って悟史から白い袋を受け取ると、俺は高宮二郎へ向き直った。
「これに────軽く貴方の霊力を流してください」
「……へっ?」
素っ頓狂な声を上げて固まる高宮二郎に、俺は一つ息を吐く。
まさかバレるとは思ってなかったみたいだな、と思いながら。
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