精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど

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 精霊は人の心を覗き見ることが出来る。
と言っても、人の感情を色で識別しているだけだが·····。
 でも、人間の嘘や秘密を暴くには十分な能力だった。

 少しは反省していると思ってたのに······自分勝手で自己中な彼には無理だったか。

「ん、んー!」

「はいはい、嘘はもう十分だから少し静かにしててね。うるさいのはあまり好きじゃないんだ······って、これはさっきも言ったね」

 『僕も歳かな?』と若々しい美貌を振り撒いて零すサナトスは不意に人差し指を上に向けた。
すると────ノア様、リアム国王陛下、クレア様の体が宙に浮く。
 戸惑う彼らを見て、サナトスは愉快げに笑った。

「ふふふっ。安心してよ。君達は殺さないから。僕、楽しみは後に取っておくタイプなんだ」

 そう言うが早いか、サナトスは会場内に“闇”を放った。
真っ黒なそれはサナトスの足元から、どんどん広がって行き、やがて会場全体を包み込む。
逃げ惑う貴族達が扉へ手を伸ばしたが、その手が扉に届くことはなかった。
 会場が明かり一つない暗闇に包み込まれたが、不思議と目が見える。
そのおかげか、会場内に閉じ込められた者達がぶつかったり、転んだりすることはなかった。

「ど、どうなってるの······!?何で真っ暗なのよ!?」

「お、俺たち殺されるのか······!?」

「そんなっ!絶対に嫌よ!私達は何も悪いことしてないじゃない!」

「何で無関係の私達まで死なないといけないんだ······!?」

 無関係ですって······?さんざん私をバカにした挙句、ノア様の言い分を鵜呑みにした貴方達が······?
情報の真偽を確かめる前に非難の視線を私に向けて来たのに·······?

「っ······!!ふざけないでちょうだい!!」

 怒りで震える拳を握り締め、私は周囲に居る人々を順番に睨みつけた。

「何故、私がノア様個人ではなく、『ここに居る者達』と指定したのか本当に分かっていないの?私に命を狙われる心当たりはないわけ?」

「「「·······」」」

 私の発言に、周囲の人々は押し黙る。
この沈黙が何より明確な答えだった。

「貴方達はいつも私を馬鹿にしていたわよね?婚約者に愛されない哀れな女とか、公爵家の権力にのさばるハイエナとか······さんざん陰口を叩いていたじゃない!それも私の耳に入るように大きく!」

「そ、それは······!」

「わ、わざとでは無く······!」

「ほんの出来心で·······!!」

 慌てて弁解を述べる彼らだったが、出てくる言葉は言い訳ばかり·······。
肝心の謝罪はどれだけ耳を澄ましても聞こえて来なかった。

「今回の件だって、そう······『庇え』とまでは言わないけど、情報の真偽を確かめもせず、私を非難してきたわよね?何故、中立の立場であろうとしなかったの?」

「そ、それはその······」

「ノア様が言ったことなので正しいと思って······」

「ほ、ほら!ノア様って、公爵家の跡取りで陛下の甥っ子さんだし······!発言力と影響力が凄いっていうか·······!」

 二言目には責任転嫁·······本当に救いようのない人達ね。
素直に自分の非を認めることは出来ないのかしら······?

「少しでも誠意を見せてくれれば、何人かは見逃してあげようと思ったけど······情けは必要なかったみたいね」

「えっ!?あのっ······!」

「い、今までのこときちんと謝ります!」

「だから、命だけは······!!」

 今更謝られてももう遅いわよ。貴方達は最後のチャンスを棒に振ったのだから。

 私は涙目で懇願してくる貴族達を一瞥し、黄金の瞳と目を合わせた。

「もう気は済んだかい?」

「······正直まだ言いたいことはあるけど、もういいわ。彼らに何を言ったって、返って来るのは嘘だけだもの······」

「そうだね。彼らの言葉は嘘だらけだ。聞くだけ無駄だよ」

 銀髪金眼の美青年は両手で私の耳を塞ぎ、口元に弧を描く。

「汚い嘘は聞かなくていいよ。アリスは僕の声だけ聞いていればいい」

 そんな甘い言葉が聞こえたかと思えば、突然聴覚を奪われる。
無音の世界で周囲を見渡せば、闇に飲み込まれていく貴族達の姿が目に入った。
彼らは私と目が合うなり、必死の形相で何か叫んでいる。
でも、耳が聞こえない私には彼らが何を言っているのか分からない。

 サナトスなりの気遣いなんだろうけど、耳が聞こえないのはちょっと不便ね。

「サナト·····」

「────大丈夫だよ。彼らの処理が終わったら、元に戻してあげるから。まあ、アリスが僕の声だけ聞いていたいって言うなら、話は別だけどね」

 悪戯っ子みたいに笑う彼は私の耳たぶを親指の腹で撫でる。
 どうやら、彼は宣言通り、自分の声だけは聞こえるように調整したらしい。
本当に器用な奴である。

 彼らの悲鳴が聞けないのは残念だけど、視覚だけで楽しむのも悪くないわね。
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