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本編

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 オーケストラの奏でる美しい音色がこの場を支配する中、パーティーの参加者たちは私をジロジロと見始めた。
その遠慮の欠けらも無い視線に、内心溜め息を零す。

 まあ、卒業パーティーにパートナーも連れず現れれば、不思議に思うわよね······。
しかも、私はノア・アレクサンダー公爵令息の婚約者だし······。
これで注目されない方がおかしい。

「ねぇ、何でアリス様はお一人なのかしら?」

「さあ?」

「ノア殿と喧嘩でもしたのか?ほら、あの二人って仲が悪いだろ?」

「そう言えば、最近のノア殿は他のご令嬢に夢中だって聞いたことがあるぜ」

「まあ、何にせよ、パーティーにパートナーも引き連れず現れるなんて非常識だよな」

 しばらく私の様子を見守っていた貴族達はヒソヒソと小声で会話を始める。
そのどれもが聞くに堪えない内容ばかりだったが、彼らの考察はほとんど当たっていた。
 居た堪れない気持ちになりながらも、パーティー会場を立ち去る訳にも行かず、壁の花に徹する。

 ────と、その時。

「────ノア・アレクサンダー公爵令息とクレア・スカーレット男爵令嬢のご入場です!」

 衛兵が叫んだ二つの名前に、思わず言葉を失う。
脳裏に最悪のシナリオが過ぎる中、私は恐る恐る扉の方へ視線を向けた。

 そこには────身を寄せ合って歩く、仲睦まじい男女の姿が······。

 そんなっ······!!嘘でしょう!?まだ婚約は解消されていないのに、他の女性とパーティーに参加するだなんて·······!!
失礼どころの話じゃないわ!!

「お、おい······あれって、ノア殿とクレア嬢だよな······?」

「あ、ああ·······」

「何で婚約者でもない女性とノア殿が一緒に居るんだ······?ノア殿の婚約者はアリス嬢だよな······?」

「じゃあ、ノア様とアリス様の婚約は解消されたってこと······?」

「そう考えるのが妥当だけど、もしそうなら事前に知らせがある筈じゃない?アレクサンダー公爵もベネット伯爵もそういうところはしっかりしてるし······」

 会場内が混乱に陥る中、私は震える拳をギュッと握り締めた。

 この男は·······どれだけ私をコケにすれば気が済むの?
 一人で会場に入場するだけでも屈辱なのに、そのうえ自分は他の女性と入場?ハッ!笑わせないでよ······!!
私が一体どんな気持ちでここに居ると思ってるの!?貴方の身勝手な行動のせいで私のプライドはもうボロボロよ!!本当に最悪だわ!!

 私は騒然とするパーティーの参加者を押しのけ、ノア様とクレア様の前に現れた。

「ノア様!これは一体どういう······」

「───ご来場の皆様、静粛に願います。リアム国王陛下のご入場です」

 衛兵の声に反応し、会場内のざわめきが一瞬にしてピタッと収まる。

 本当は今すぐこの男を怒鳴りつけたいところだが、国王陛下の入場を蔑ろに扱う訳にはいかない·······ここは一旦冷静になろう。

 喉まで出かかった言葉を何とか呑み込み、私は淑女の礼を取った。
────その直後、扉の向こうからリアム国王陛下の姿が現れる。
 王家の直系を意味する金髪と赤い瞳を持つ男性は30代後半とは思えないほど、若々しい容姿をしていた。
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