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最終章

恋情

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 私───ウンディーネは執務室で珍しく酒を煽っていた。
 嗚呼....嗚呼....思い出せない。
 ただ...人間の少女だったのは覚えている。
 でも、その少女の名前や顔、声に至るまで何一つ思い出せないんだ。
 誰にも渡したくなかった女の子。
 どこにも行かせたくなかった女の子。
 何としてでも繋ぎ止めておきたかった女の子。
 でも、その少女は僕の手の平から溢れ落ちてしまった。
 彼女を逃がさないために頑丈な鳥籠を用意したのに....それでも少女は飛び立ってしまった。
 嗚呼....こんなことなら、彼女の美しい羽根をもぎ取ってしまえば良かった。
 もう二度と空を飛べないように....してしまえば良かった。
 少女の顔も名前も思い出せないのに....彼女への執着心だけはきちんと残っている。
 貴方が似合うと言った眼鏡、服、髪型....それらを身に纏い貴方に極上の笑みを浮かべても、貴方は私を想ってくれなかった。
 僅かに残った記憶の断片には貴方に恋い焦がれる私が居る。
 
「こんなにも愛しているのに....何一つ貴方には届かなかった....」

 好きで好きで堪らなくて....閉じ込めたくて....私だけを見てほしくて....。
 欲張り...ですよね。
 どんなに欲しがっても、私の一番欲しいものは手に入らなかった。

「このまま忘れてしまった方が....楽になれるんでしょうか?」

 ....いや、それは無理でしょう。
 まず、忘れるなんて出来ない。
 こんなにも激しい感情を知ってしまった今、それを忘れるなんて出来っこない。
 いっそ記憶の欠片も残さず忘れさせてくれたら、良かったのに.....。
 顔も名前も忘れてしまったあの少女を想う気持ちだけ残るなんて....なんて残酷なんだ。
 顔も名前も分からないのに....恐らくもう二度と会えないのに....なのにっ!あの少女を恋慕う気持ちが膨れ上がっていく。
 嗚呼....嗚呼....辛い。苦しい。会いたい。話がしたい。触れたい。愛したい。
 
「もう閉じ込めたりもしません....貴方の愛を欲したりもしません....」

 ────だから

「側に居てくださいっ.....!!」

 側に居てくれるだけで良い。
 それだけで満足ですから....もう高望みなんてしませんから...。
 だから、私を.....私を見捨てないでくださいっ....!
 酒のせいか、いつもより感情が昂り私はついに泣き出してしまった。
 ポロポロと大粒の涙が止めどなく溢れ出す。
 涙なんて久々に流しましたね....。
 私は涙をそのままにまた酒を煽った。

 私達の記憶から消えた貴方は今、幸せですか?
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