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第五章

呼び声

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 泣いている場合じゃないのにっ....!
 泣きたいのはジェフやノームの筈なのにっ....!
 私が泣く資格なんてないのにっ....!
 泣くな泣くなと自分に言い聞かせるものの、涙は止めどなく溢れだし私の頬を濡らし続けた。

「....ディ、アナ...な、かな、いで...」

 一番苦しいのは....泣きたいのはジェフの筈なのに彼は私を元気付けるようにぎこちない笑みを浮かべた。
 その姿がどうしようもなく痛々しく見える。
 怪我人であるジェフに慰められるなんて...私はなんて情けないのっ....!!
 涙を流す私と痛みに耐えるジェフとノームの横でフィル王子とウンディーネの戦いが繰り広げられていた。

「下等生物である人間には地べたがお似合いですよ。ふふっ」

「かはっ....!私がそう簡単に膝をつくとでも?」
 
「ふふふっ。根性だけはあるようですね。ですが....根性だけでどうにかなる力の差ではありません」

「根性....ははっ!そうですね。根性だけではどうにも出来ない...。ですがっ!私はディアナ様のために精霊を倒す義務があります!ここで倒れるわけにはいきません!」

「ディアナのため?ふふふっ。面白いことを言うんですね?私達精霊の側に居ることが“ディアナのため”になるんですよ」

 フィル王子はウンディーネの血流操作で吐血しつつも、しっかりとその二本の足で立っている。
 ウンディーネはそんなフィル王子を興味深そうに観察していた。
 ウンディーネはこの状況を確実に楽しんでいる....だって、ウンディーネが本気を出せばフィル王子を殺すことなど容易いもの。
 敢えて殺さずに生かしているのはフィル王子の苦痛に歪む顔が見たいから....。
 フィル王子をいつ殺すかはウンディーネの裁量次第。
 フィル王子はジェフやノームを傷つけたけれど、殺したいほど憎んでいる訳ではない。もちろん一生許す気なんてありませんし、もう二度と口も聞きたくありません。でも....それでも殺したいとはどうしても思えないのっ....!!
 血で血を洗う戦いなんて....もう嫌なのっ....!
 私のせいで誰かが死んだり、傷ついたりするのはもう嫌....嫌だよっ...!!

「.....ディアナ...サラマ、ンダーを呼んで...きっと君の呼び声には応え、てくれるから...」

 ノーム....?何を言って....?
 サラマンダーと私は別に主従契約を交わした訳でもないし、テレパシーで繋がっている訳でもない。
 要するに私が呼んだところでその呼び声がサラマンダーの届く筈がないのだ。

「私の呼び声が届く訳な...」

「大丈夫....ディア、ナの呼び声なら届くか、ら...」

 『届く訳がない』と言い切る前に言葉を遮られ、ノームに『ディアナなら大丈夫』とよく分からない説得をされた。
 ノームは横腹を押さえながら、苦しそうに呼吸を繰り返す。
 サラマンダーを呼ぶことが出来ればこの状況は好転するだろう。
 フィル王子の言うとおり、サラマンダーの使った呪術魔法が使用されているのならきっとサラマンダーが解呪方法を知っている筈。
 私の手の平の上でいつの間にか気を失っていたジェフを見て、決意した。
 出来るかどうかなんて知らない。分からない。
 でも、それしか方法がないのならやるしかないだろう。
 もしも、この世に“奇跡”というものがあるのなら、どうかお願いします。今、ここで奇跡を起こしてください....!!
 私はスゥーと肺一杯に酸素を取り込むと...令嬢とは思えないほど大きな口を開け....はしたなく大声をあげた。

「────サラマンダァァァァアア!!」

 ───お願い、助けてっ....!
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