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第四章

異変

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 一体何がどうなってやがる....!?
 俺───サラマンダーは一時的に精霊国へ帰国していた。
 理由はただ一つ....俺の治める地域──火山地帯で過ごしていた精霊が一人行方不明になったから。
 一晩帰らなかったくらいで何騒いでんだと思ったが、拐われたのがジェフなら話は別。
 ジェフは気性が荒い者が多い炎の精霊の中で唯一落ち着いた性格をしている精霊だ。ついでに人見知りで怖がり。
 そんな奴が一晩帰ってこないなんて絶対におかしい。他の奴ならともかくジェフは絶対にあり得ない。何かあったに決まってる。
 大慌てで帰国した俺は火山地帯へと急いだ。

「サラマンダー!」

 火山の頂上へ辿り着くと俺が居ない間の代理を任せていたエフリートが焦った様子でこちらに駆け寄ってきた。
 その額には尋常じゃないほどの脂汗が浮き出ている。
 いつもはわりと冷静なこいつがこんなに取り乱すなんて.....。

「大変だ!ジェフが人間に拐われた可能性が出てきた!」

「なんだと!?」

 人間に拐われた?
 それは明らかに可笑しいだろ。
 だって、精霊国に人間は入れない。
 ジェフと接触なんて....。

「リーンの話によると、ジェフはディアナのために小さなブーケを作ってあげたいからと花を摘みに精霊国の結界付近に赴いたらしい...もしかしたら、そのときに拐われたのかもしれない....ジェフは一つの事に夢中になると周りが見えなくなるから、それで....」

 それで誤って結界から出てしまったかもしれないと....。
 そして、人間達に拐われた....。
 あり得なくはない話だな。
 ジェフは花が大好きなディアナのためにいつも精霊国付近にしか咲いていない花をプレゼントしていたから....。
 この前俺が野暮用で一時帰国したときなんて花冠と押し花をディアナに届けてほしいと頼まれたしな。
 ディアナの喜ぶ顔を想像しながら楽しそうにプレゼントを拵えるジェフは本当に幸せそうだった。

「でも、何でいきなり精霊を誘拐なんて...」

 確かにな。
 精霊を誘拐したところで待っているのは報復のみ。
 精霊からの報復は神からの天罰よりもずっと残酷で残虐だ。
 情けなど俺達の辞書にはないからな。

「とりあえず、捜索隊を組んで精霊国の結界周辺を隈無く探せ。残り香の使用も許可する」

「分かった。全力で捜索にあたる」

「ああ、頼んだ」

 俺はエフリートに指示を出し、ドラゴンに化けると空高く舞い上がる。
 俺もジェフの捜索に加わりたいところではあるが、ディアナのところに戻らなくちゃいけないからな。
 ジェフの捜索はエフリートに一任し、俺はディアナの待つスターリ国へと急いだ。
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