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第三章
その頃のサラマンダーは 12
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レーテーと豚のキスシーンを最後に映像は途切れた。
なんつーもん見せてくれてんだ、こいつは...。
このキスシーン見せる必要ないだろ....悪趣味女と豚のキスシーンなんて需要ねぇよ。
つーか、よく豚なんかとキスできたな....。
小さい頃の豚はまだ今ほど太っておらず、少しふっくらしているくらいだったが、それでもあの顔面兵器とキスできるレーテーは素直に凄いと思う。
「随分と豚のことを気に入っているようだな」
「.....そうじゃな。前までは、な....。今はもうただの食料としか見ておらぬ」
「へぇー?キスまでしたのにか?」
「ふっ...キスくらい誰とでも出来る。まあ、あれじゃ....堕落した人間に興味などない、と言ったところじゃ」
いつも飄々としているレーテーが珍しく本音を吐き出した。
その瞳には悲しみと後悔....それから優しさに似た感情が窺える。
悪趣味女でもこんな表情するんだな...。
「......それにこやつはどうせすぐ死ぬ。解呪したということは恐らくダミアンは自分を呪った犯人が豚....ブラウンであることを分かっているのであろう?」
「ああ。怒り狂ってたぞ」
「やはりな....。死に行く人間に興味など微塵も湧かぬわ」
そう言うわりには表情が曇っているように見えるけどな。
正直になれば良いのに変な意地張りやがって...。
「俺は別に豚が死のうがどうでも良いし、興味もない。だけど、レーテー...お前は違うんだろ?」
「っ....!そんなわけ....妾だってこんな豚が死のうがどうでも......どうでもっ....!」
「良くないんだろ?『どうでも良い』とハッキリ言えない時点でレーテー、お前の負けだ」
「っ....!!」
本当はこの豚のこと救ってやりたいんだろ?堕落した豚を目の前にしても『どうでも良い』と切り捨てられないくらい大切なんだろ?
なら、救ってやれ。守ってやれ。
お前なりにそいつを幸せにしてやれ。
「わ、妾は.....!」
「レーテー、後悔しない生き方をしろ」
「こう、かい....?」
お前は豚の話になるといつも後悔を滲ませたような苦しそうな表情をする。
ダミアンを呪うよう提案したことやブラウンから全ての記憶を奪ったことをずっと後悔していたんじゃないか?
「.....だが、妾は悪魔だ...。妾がこやつにしてやれることなど...」
「悪魔だからどうしたって話だろ。悪魔だって心を持つ生物だ。誰かを幸せにしてやりたいと思うことだってあるし、誰かを救いたいと思うことだってあるだろ。悪魔だから幸せに出来ないなんてことねぇーと思うぞ、俺は」
レーテー、お前はただ単に自信がなかっただけだろ?
こいつを幸せに出来る自信が。
だから、中途半端に力を貸して....結果、こんな事態を招いた。
お前が一歩踏み出せていれば、その豚も少しはマシな頭してたかもしれねぇーのによ。
「.....妾にこやつを幸せに出来ると思うか?」
「知らねぇーよ。やってみなきゃ分かんねぇーだろーが」
「ふっ....ふはははっ!まあ、確かにそうじゃな!やってみなくては分からぬ」
自信がなさそうな暗い表情から一変。レーテーは以前のように緩やかに笑ってみせた。
やっと、立ち直ったか悪趣味女。
「ふぅ。妾としたことがサラマンダーなんぞに慰められるとはな....」
「悪かったな、俺で」
「ふはははっ!そう気を悪くするでない」
この女は『ありがとう』も言えないのかよ。
性格ひねくれすぎだろ....。
一瞬だけ豚が憐れに思った。
こんな悪趣味女に好かれるなんて可哀想な豚だな。
レーテーは一頻り笑い終えるとスッと表情を真剣なものにした。
「妾はブラウンを連れて、この国を出る。誰も居らぬ土地でこやつと二人で過ごすことにしよう」
「そうか」
「良いのか?」
「何がだ?」
「そなたの大切な姫に危害を加えようとした奴じゃぞ?ブラウンは。このまま生かしておいて良いのか?」
フッと思わず笑みが溢れた。
生かしておいて良い訳ねぇーだろ。
出来るなら今すぐその喉元を引き裂いてやりたいさ。
だけど....ディアナはそれを望んじゃいない。
ディアナが望まないことをして何になる?
「殺したいくらい憎いけど、生憎うちのお姫様はそれを望んでいない。だから、勝手にしろ。俺的にはそいつがディアナに近付かなければ何だって良い。この国を出てってくれるなら、むしろ有り難いくらいだ」
「ほう?自分の感情よりも姫の感情を優先するとは....随分と丸くなったではないか、サラマンダーよ」
「....そうかもな」
俺のくだらない感情なんかよりもディアナの気持ちの方がずっと大切だからな。
まあ、本質的なものは何も変わっちゃいないが。
「無駄話はさておき....。サラマンダーよ、何か願いはないか?もちろん、妾が叶えられる範囲内のことでだが...」
「一体どういう風の吹き回しだ?」
「ただのお礼じゃよ、妾の背中を押してくれたことに対する。貸しは作りたくないからのぉ」
お礼、か....。
お礼をしたいと自ら言ってくるってことは一応俺に感謝はしているんだな。
「はよ決めんか。妾はあまり暇ではない」
「分かってるから、あまり急かすな」
顎に手を当てて考え込む俺を尻目にレーテーは部屋の荷物をまとめ始めた。
いつでもここを出られるように準備をしているんだろう。
にしても....お礼か...。
レーテーと言えば、やはり記憶関係のことだよな?
記憶か....記憶.....。
そこでハッと1つの案が頭に浮かんだ。
出来れば、そういう事態にならないでほしいがもし万が一そうなった場合レーテーの力は非常に役立つ。
「レーテー、お礼に関してなんだが────」
願わくば、レーテーの力を使わずに済みますように。
そう願いながら俺はあることを口にした。
なんつーもん見せてくれてんだ、こいつは...。
このキスシーン見せる必要ないだろ....悪趣味女と豚のキスシーンなんて需要ねぇよ。
つーか、よく豚なんかとキスできたな....。
小さい頃の豚はまだ今ほど太っておらず、少しふっくらしているくらいだったが、それでもあの顔面兵器とキスできるレーテーは素直に凄いと思う。
「随分と豚のことを気に入っているようだな」
「.....そうじゃな。前までは、な....。今はもうただの食料としか見ておらぬ」
「へぇー?キスまでしたのにか?」
「ふっ...キスくらい誰とでも出来る。まあ、あれじゃ....堕落した人間に興味などない、と言ったところじゃ」
いつも飄々としているレーテーが珍しく本音を吐き出した。
その瞳には悲しみと後悔....それから優しさに似た感情が窺える。
悪趣味女でもこんな表情するんだな...。
「......それにこやつはどうせすぐ死ぬ。解呪したということは恐らくダミアンは自分を呪った犯人が豚....ブラウンであることを分かっているのであろう?」
「ああ。怒り狂ってたぞ」
「やはりな....。死に行く人間に興味など微塵も湧かぬわ」
そう言うわりには表情が曇っているように見えるけどな。
正直になれば良いのに変な意地張りやがって...。
「俺は別に豚が死のうがどうでも良いし、興味もない。だけど、レーテー...お前は違うんだろ?」
「っ....!そんなわけ....妾だってこんな豚が死のうがどうでも......どうでもっ....!」
「良くないんだろ?『どうでも良い』とハッキリ言えない時点でレーテー、お前の負けだ」
「っ....!!」
本当はこの豚のこと救ってやりたいんだろ?堕落した豚を目の前にしても『どうでも良い』と切り捨てられないくらい大切なんだろ?
なら、救ってやれ。守ってやれ。
お前なりにそいつを幸せにしてやれ。
「わ、妾は.....!」
「レーテー、後悔しない生き方をしろ」
「こう、かい....?」
お前は豚の話になるといつも後悔を滲ませたような苦しそうな表情をする。
ダミアンを呪うよう提案したことやブラウンから全ての記憶を奪ったことをずっと後悔していたんじゃないか?
「.....だが、妾は悪魔だ...。妾がこやつにしてやれることなど...」
「悪魔だからどうしたって話だろ。悪魔だって心を持つ生物だ。誰かを幸せにしてやりたいと思うことだってあるし、誰かを救いたいと思うことだってあるだろ。悪魔だから幸せに出来ないなんてことねぇーと思うぞ、俺は」
レーテー、お前はただ単に自信がなかっただけだろ?
こいつを幸せに出来る自信が。
だから、中途半端に力を貸して....結果、こんな事態を招いた。
お前が一歩踏み出せていれば、その豚も少しはマシな頭してたかもしれねぇーのによ。
「.....妾にこやつを幸せに出来ると思うか?」
「知らねぇーよ。やってみなきゃ分かんねぇーだろーが」
「ふっ....ふはははっ!まあ、確かにそうじゃな!やってみなくては分からぬ」
自信がなさそうな暗い表情から一変。レーテーは以前のように緩やかに笑ってみせた。
やっと、立ち直ったか悪趣味女。
「ふぅ。妾としたことがサラマンダーなんぞに慰められるとはな....」
「悪かったな、俺で」
「ふはははっ!そう気を悪くするでない」
この女は『ありがとう』も言えないのかよ。
性格ひねくれすぎだろ....。
一瞬だけ豚が憐れに思った。
こんな悪趣味女に好かれるなんて可哀想な豚だな。
レーテーは一頻り笑い終えるとスッと表情を真剣なものにした。
「妾はブラウンを連れて、この国を出る。誰も居らぬ土地でこやつと二人で過ごすことにしよう」
「そうか」
「良いのか?」
「何がだ?」
「そなたの大切な姫に危害を加えようとした奴じゃぞ?ブラウンは。このまま生かしておいて良いのか?」
フッと思わず笑みが溢れた。
生かしておいて良い訳ねぇーだろ。
出来るなら今すぐその喉元を引き裂いてやりたいさ。
だけど....ディアナはそれを望んじゃいない。
ディアナが望まないことをして何になる?
「殺したいくらい憎いけど、生憎うちのお姫様はそれを望んでいない。だから、勝手にしろ。俺的にはそいつがディアナに近付かなければ何だって良い。この国を出てってくれるなら、むしろ有り難いくらいだ」
「ほう?自分の感情よりも姫の感情を優先するとは....随分と丸くなったではないか、サラマンダーよ」
「....そうかもな」
俺のくだらない感情なんかよりもディアナの気持ちの方がずっと大切だからな。
まあ、本質的なものは何も変わっちゃいないが。
「無駄話はさておき....。サラマンダーよ、何か願いはないか?もちろん、妾が叶えられる範囲内のことでだが...」
「一体どういう風の吹き回しだ?」
「ただのお礼じゃよ、妾の背中を押してくれたことに対する。貸しは作りたくないからのぉ」
お礼、か....。
お礼をしたいと自ら言ってくるってことは一応俺に感謝はしているんだな。
「はよ決めんか。妾はあまり暇ではない」
「分かってるから、あまり急かすな」
顎に手を当てて考え込む俺を尻目にレーテーは部屋の荷物をまとめ始めた。
いつでもここを出られるように準備をしているんだろう。
にしても....お礼か...。
レーテーと言えば、やはり記憶関係のことだよな?
記憶か....記憶.....。
そこでハッと1つの案が頭に浮かんだ。
出来れば、そういう事態にならないでほしいがもし万が一そうなった場合レーテーの力は非常に役立つ。
「レーテー、お礼に関してなんだが────」
願わくば、レーテーの力を使わずに済みますように。
そう願いながら俺はあることを口にした。
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