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第三章

婚約破棄

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 翌日、私───ブラウンの婚約者だと名乗る人物が王宮を訪ねてきた。
 使用人に追い返せと命じた筈なのに私の目の前には今、そばかす女が居る。ついでにその母親も。

「お久し振りです、ブラウン王子。貴方の婚約者のジェイミー・ドローレンスです。本日は婚約破棄の手続きをしていただきたく、参上させて頂きました」

 こんなブスが私の婚約者だと?あり得ない。高貴な私にはもっと美しい女が似合うに決まっておる!
 最低でもディアナくらい可愛くなくてはな!
 ディアナを脳裏に思い浮かべるとそこからサラマンダーが連想され、どうしようもなく右腕が疼く。
 いや....正確には右腕の付け根が、だが。
 右腕は再生不可能だと国内随一の治癒魔導師たちに言われた。
 幸い、私は左利きだったためそこまで不自由な生活は送っていないが、それでも右腕がなくなったのは辛い。
 失くなった右腕を見る度に脳裏に甦るのはあのときの記憶。
 殺意が見え隠れする冷えきった瞳と圧倒的存在感と威圧感....。
 思い出すだけでも恐ろしい....。
 サラマンダー.....あいつだけは敵に回してはならない。
 多分....いや、確実に次は殺される....。
 死の恐怖に震える左手をギュッと強く握った。

「ブラウン王子も私との婚約は本意ではないと思います。ですので...」

「うるさいっ!黙れ!雌豚!」

「ぐっ!?」

 わざわざ私の近くまで来て婚約破棄について熱く語る豚の飛び出している腹に拳を叩き込んだ。
 強化魔法をかけていなかったので体が吹っ飛ぶことはなかったが、豚はその場で激しく咳き込んだ。

「げほげほっ....」

「ジェイミー!大丈夫!?怪我は!?」

 慌ててこの豚の母親が駆け寄って来るが、私は気にせず豚の髪を鷲掴みにし無理矢理上を向かせた。
 そばかすだらけの薄汚い豚だな。
 このデカい鼻なんて豚そっくりだ。
 やはり、こんな豚が私の婚約者なんてあり得ない。

「おい、豚。殺されたくなければ今すぐここから出ていけ。あと、もう2度とこの私の婚約者などと嘘をつくな」

「けほけほっ....ですが、私があなた様の婚約者なのは事実で...っ....!?」

 まだ言うか。
 しつこい豚だな。
 私は髪を掴んでいた手を今度は豚の首元に持っていった。
 ここで風魔法の1つでも出せば、こいつの首から上は一生胴体とおさらばだな。
 豚ごときにこの私が直接手を下すのだ、有り難く思え。

「生命の息吹を司りし風神よ 今一度 我の声に耳を傾け...」

「そこまでだ、ブラウン」

 バンッとノックもなしに私の部屋へ乗り込んできたのは不敵に笑うフィルお兄様だった。
 何故、フィルお兄様がここに!?
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