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第二章
ディアナの心
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あの国王大丈夫だろうか?と俺───サラマンダーはすやすやと気持ち良さそうに眠っているディアナの横で考えていた。
ダミアン....だったか?
あいつは確実に呪われていた。
首もとに呪印(じゅいん)が見えたんだ、間違いない。
今朝校門前で会ったとき、すぐに国王が何者かに呪われていることに気がついた。
ディアナを始めとする人間達は皆気づいていなかったようだし、不可視の魔法でもかけられているのだろう。
俺は精霊の中でも珍しい魔眼を持っていたため、気づくことが出来たが...。
呪印のくすみ具合から随分前から呪いにかけられていることが分かった。
あの呪印から考えるにかけられた呪いは恐らく古代呪術魔法の類いと思われる。
呪術魔法は専門外なのであまり詳しくはないが、あの呪いは恐らく運気を下げるものでも死をもたらすものでもない。
どちらかと言えば、愛に近いものだ。
執着....とも考えられるが。
何かに対して物凄い執着心を抱かせる呪い...と言ったところか?
でも、何でそんな呪いを.....?わざわざ古代呪術魔法なんてものを用いてまで.....。
解呪することは可能だが、そんなことをする義理もなければメリットもない。
放っておくのが一番だろう。
面倒なことは御免だ。もちろん、ディアナが関わっているなら話は別だがな。
「ねぇ、サラマンダー。今日、何があったの?ディアナ、凄く疲れてたみたいだけど...。登校初日だからってこんなにも疲れる?」
ディアナと一緒に眠っていた筈のシルフが俺にそう問いかけた。
狸寝入りだったか...。
シルフは薄墨色の瞳をキラリと光らせた。
これは本当のことを教えたら、駄目なやつだな。
こいつのことだから、ぶちギレてこの国ごと滅ぼすに決まっている。
別にこの国の連中がどうなろうとどうでも良いが、ディアナが悲しむ姿は見たくない。
過去に幾度となく俺たち精霊は『ディアナのためだ』と何十人もの人間を殺してきたが、ディアナはその度に悲しんできた。
俺達の前では平然としているが、一人なるといつも泣いているんだ。
『私のせいでまた精霊達に人殺しをさせてしまった』
『私のせいでまた誰か死んでしまった』
『私はなんて疫病神なんだろう....?』
と自分を責めるディアナを見て以来、俺は怒りに任せて人を殺すことをやめた。
ディアナが見限った人間のみ殺すことに決めたんだ。もちろん、どんなに忠告しても聞かない奴や殺す以外でディアナを救う道はないとなれば、話は別だが。
出来るだけ、ディアナの意見を聞き入れ、ディアナの意思を優先させてやりたい俺はフッとシルフから目を逸らした。
「さあな。気になるなら、ディアナ本人に聞け。俺は知らねぇーよ」
「っ....!ディアナは絶対に言ってくれないから、聞いてるんじゃん!」
「なら、それがディアナの答えだろ。何もすんなってディアナは言ってんだよ」
「そんなのっ....!そんなの分かってるよ!!ディアナが何も話さないのは僕達に何もさせないためだってことくらい!でも、何かあってからじゃっ!」
「ゴチャゴチャうるせぇーんだよ。何かあったら俺達が対処すれば良いだけの話だ。あと、静かにしろ。ディアナが起きる」
シルフの言い分は十分分かる。
俺だってちょっと前まではその考えだった。
でも、殺しなんかじゃディアナの笑顔は守れないんだと知ったんだ。
俺達....いや、俺が守りたいのはディアナの体だけじゃない。心も守りたい。
そのためには多少のリスクも覚悟の上だ。
シルフは何か言いたげな目をしていたが、何を言っても無駄だと悟ったのか口を閉ざす。
シルフ....お前もいつか気づくときが来る筈だ。
ディアナの心の奥底にある悲しみや罪悪感に。
そして、理解するだろう。
“大切にする”ってことの難しさを。
ダミアン....だったか?
あいつは確実に呪われていた。
首もとに呪印(じゅいん)が見えたんだ、間違いない。
今朝校門前で会ったとき、すぐに国王が何者かに呪われていることに気がついた。
ディアナを始めとする人間達は皆気づいていなかったようだし、不可視の魔法でもかけられているのだろう。
俺は精霊の中でも珍しい魔眼を持っていたため、気づくことが出来たが...。
呪印のくすみ具合から随分前から呪いにかけられていることが分かった。
あの呪印から考えるにかけられた呪いは恐らく古代呪術魔法の類いと思われる。
呪術魔法は専門外なのであまり詳しくはないが、あの呪いは恐らく運気を下げるものでも死をもたらすものでもない。
どちらかと言えば、愛に近いものだ。
執着....とも考えられるが。
何かに対して物凄い執着心を抱かせる呪い...と言ったところか?
でも、何でそんな呪いを.....?わざわざ古代呪術魔法なんてものを用いてまで.....。
解呪することは可能だが、そんなことをする義理もなければメリットもない。
放っておくのが一番だろう。
面倒なことは御免だ。もちろん、ディアナが関わっているなら話は別だがな。
「ねぇ、サラマンダー。今日、何があったの?ディアナ、凄く疲れてたみたいだけど...。登校初日だからってこんなにも疲れる?」
ディアナと一緒に眠っていた筈のシルフが俺にそう問いかけた。
狸寝入りだったか...。
シルフは薄墨色の瞳をキラリと光らせた。
これは本当のことを教えたら、駄目なやつだな。
こいつのことだから、ぶちギレてこの国ごと滅ぼすに決まっている。
別にこの国の連中がどうなろうとどうでも良いが、ディアナが悲しむ姿は見たくない。
過去に幾度となく俺たち精霊は『ディアナのためだ』と何十人もの人間を殺してきたが、ディアナはその度に悲しんできた。
俺達の前では平然としているが、一人なるといつも泣いているんだ。
『私のせいでまた精霊達に人殺しをさせてしまった』
『私のせいでまた誰か死んでしまった』
『私はなんて疫病神なんだろう....?』
と自分を責めるディアナを見て以来、俺は怒りに任せて人を殺すことをやめた。
ディアナが見限った人間のみ殺すことに決めたんだ。もちろん、どんなに忠告しても聞かない奴や殺す以外でディアナを救う道はないとなれば、話は別だが。
出来るだけ、ディアナの意見を聞き入れ、ディアナの意思を優先させてやりたい俺はフッとシルフから目を逸らした。
「さあな。気になるなら、ディアナ本人に聞け。俺は知らねぇーよ」
「っ....!ディアナは絶対に言ってくれないから、聞いてるんじゃん!」
「なら、それがディアナの答えだろ。何もすんなってディアナは言ってんだよ」
「そんなのっ....!そんなの分かってるよ!!ディアナが何も話さないのは僕達に何もさせないためだってことくらい!でも、何かあってからじゃっ!」
「ゴチャゴチャうるせぇーんだよ。何かあったら俺達が対処すれば良いだけの話だ。あと、静かにしろ。ディアナが起きる」
シルフの言い分は十分分かる。
俺だってちょっと前まではその考えだった。
でも、殺しなんかじゃディアナの笑顔は守れないんだと知ったんだ。
俺達....いや、俺が守りたいのはディアナの体だけじゃない。心も守りたい。
そのためには多少のリスクも覚悟の上だ。
シルフは何か言いたげな目をしていたが、何を言っても無駄だと悟ったのか口を閉ざす。
シルフ....お前もいつか気づくときが来る筈だ。
ディアナの心の奥底にある悲しみや罪悪感に。
そして、理解するだろう。
“大切にする”ってことの難しさを。
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