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第一章

婚約破棄 1

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「スターリ国に入国してから登校初日に至るまで一度も私に挨拶もしに来なかった無礼者であるディアナ・マルティネス公爵令嬢!貴様との婚約は今この場を持って破棄する!!」

 公衆の面前で“全く知らない”男性から婚約破棄を言い渡された私はフェンガロフォス国の筆頭公爵家の長女であるディアナ・マルティネス。
 私は莫大な量の魔力と精霊に深く愛され守られていることを高く評価され、スターリ国との交換留学生に選ばれた。
 そして、今日からスターリ国国立貴族学校に通うことになったのですが....何故か公衆の面前で全く知らない男性から婚約破棄を言い渡されました。

「婚約破棄?そもそも、貴方誰ですか?」

 疑問を真っ正面からぶつけてみれば、男性の顔はみるみる真っ赤に....。
 私、何か気に触ることでも言ってしまったかしら?
 男性は傷んだ金髪を風に靡かせながら、拳を強く握った。綺麗な空色の瞳は怒りのあまり血走っている。
 え?え?私、本当に何かしました!?そんなに怒られるようなことした覚えはないのですが...!?

「私はスターリ国第三王子ブラウンであるぞ!何故知らないのだ!」

 スターリ国第三王子のブラウン様...?
 あぁ、態度がデカく横暴が過ぎるところがあるため、なかなか表舞台に出てこない....いいえ、出てこれないブラウン王子でしたか。
 ブラウン王子の悪評は我がフェンガロフォス国にまで轟いていますが、外見などの特徴は知りませんでしたので...。
 初対面な上に外見の特徴も何も知らないブラウン王子に『何故知らないのだ!』と言われましても...。
 いや、その前に何で私はブラウン王子に婚約破棄されているのでしょう?
 私は精霊に愛され過ぎて、精霊達から結婚や婚約をずっと拒まれてきた。

『人間なんかと結婚なんてダメよ!ディアナ!』
 
『ディアナと人間達が一緒に居るだけでも反吐が出そうなのに!』

『その上、結婚なんて絶対に許さないんだから!』

『どうしても結婚したいなら私達精霊の中から旦那様を選んで!』

 と、まあこんな感じのことを言われた。
 精霊は人族の上位互換であり、神に近しい存在だ。そんな精霊達に小さい頃から無条件で愛されて育った私を妻にと目論む者は多かったが、精霊達の脅迫によって皆思い止まってきたのだ。あの王家ですら迂闊に私に手を出せない状態。
 そんな私とブラウン王子が婚約?
 過去の記憶を幾ら巡ってもブラウン王子と婚約した記憶はない。
 私のど忘れでしょうか?
 それともブラウン王子の方が何か勘違いを?
 んー、と首を捻る私と怒りでピクピク震えるブラウン王子。
 なかなかシュールな絵面だが、それを笑う者は居なかった。
 むしろ、他の生徒達は顔を真っ青にして慌てふためく。

「でぃ、ディアナ様になんて失礼な態度を...!」

「こっ、このままでは精霊達の怒りを買ってしまう!」

「この国はもう終わりだぁぁぁあ!!」

 皆さん、青ざめたり叫んだり泣いたりと忙しそうですね。
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