婚約破棄に全力感謝

第二章

愚か者

 私────ライアンは必死になって父上に訴えかけるが、全く相手にされなかった。昨日は殴られたりもしたが、会話はしてくれていた。なのに今日はどこか呆れたような表情で私を見つめると、すぐに帰っていってしまった。
 何故！？何故だ！？
 何故、父上は私の言うことを理解して下さらないんだ！？
 私は何も間違ったことを言っていないし、していない。あの女との婚約破棄も国外追放も間違った選択ではない。あんな女に頼らずとも誇り高きフェガロフォス国はやっていける。
 なのに何故、誰もそれに気づかない？私の考えを理解しようとしない？正しいのは私なのに。
 あの女は世界最強の魔導師だと持て囃され、調子に乗っているのだ。大体、魔法が使えるから何だと言うのだ！この世は金と権力が全ての世界だ！魔法など二の次に過ぎない！
 例え、あの女が居なくなったことによりフェガロフォス国に何かあったとしても優秀な私の頭脳があれば全て解決できる！
 そうか！良いことを思い付いたぞ！あの女が去ったことにより発生した問題を私が解決すれば良いのだ！そうすれば、父上や母上はもちろん他の貴族や国民までもが私に深く感謝し、敬うことだろう！
 そして、父上は『王座はお前にこそ相応しい』と言って快く王座を引き渡してくれる筈！
 あぁ！！なんて完璧な作戦なんだ！
 さすがは優秀な頭脳を持つ私！
 はっはっはっ！ルーナ・マルティネス！今に見ていろ！
 魔法だけが全てじゃないとこの私が証明してやる！あとで泣きついてきても知らないからな！
 まあ、私は心が広いかな....側妃くらいにならしてやらんこともないぞ。あいつ、見た目だけは良いからな！見た目だけは！
 だが、まずはこの牢屋から出なければな。
 ここからでは国の状勢が分からない。
 牢屋を出してもらうにはどうすれば....。
 きっと、私の考えを訴えても父上や皆は耳を貸さない。となると....心底嫌だが、ルーナ・マルティネスと婚約破棄し、国外追放したことを謝罪するしかない。そうすれば、ここから出してくれる筈だ。
 正しいことをしただけなのに謝るのは癪だが、この際なりふり構っていられないからな。
 牢屋の小窓から覗く青空を見上げた。

 「フッ...。私がフェガロフォス国国王となる日も近いな」

 この言葉は誰の耳に入ることもなかった。