上 下
165 / 177
第二章

お茶会《エレン side》②

しおりを挟む
「とりあえず、体調不良の原因である毒は薬で打ち消したのですが……他二人に比べて摂取量が多かったからか、それとも耐性の問題か凄い効き目で……解毒する頃には、もう脳や心臓まで影響を受けていまして……」

 『こうなっては、どうしようもありません……』と零し、宮廷医師の男性は額に手を当てた。

「イライザ皇后陛下の体力や衰弱具合からして、恐らく今夜が峠でしょう」

 『明日あすを迎えられる可能性が、低い』と説明する宮廷医師の男性に、私は瞳を揺らす。
と同時に、俯いた。

 こうなったのは間違いなく、私のせいだ。
もっと、警戒するよう言っていたら……せめて、あの果実水・・・を飲まないよう進言していたら母上は無事だったかもしれない。

 状況からして毒が混入したのはあの飲み物しか考えられないため、己の浅慮を恥じる。
メリッサ皇妃殿下とマーティンが先に口をつけたからと言って油断するべきじゃなかった、と。
恐らく、あの行動はパフォーマンスだったから。こちらにより確実に毒を飲ませるための……。
それに自分達も中毒症状を起こして被害者になれば、自然と容疑者候補から外れられるため。
まあ、あくまで『表面上は』だが。

 あの二人はあまりにも、回復が早すぎた。
飲む量を減らしすぎたのか、その毒の耐性を付けすぎたのかは定かじゃないけど、重篤患者の母上との差が凄まじい。
故意を疑うのは、当然と言える。

 『果実水だって、あちらの用意したものだし』と思いつつ、私は一つ深呼吸した。
腹の底から、湧き上がってくる怒りを鎮めるように。

「母上、私が必ず貴方を苦しめた者達を懲らしめてみせます。ですから、どうか安らかにお眠りください」

 まだ温かい母の手をそっと握り締め、私は静かにそのときを待った。
────間もなくして母が息を引き取り、葬式を執り行う。
そして、最後のお別れを済ませると、私は一気に気持ちを切り替えた。
『悲しむのはここまで。これからは怒りを糧に、反撃していこう』と。
でも────

「えっ?実行犯が捕まって、捜査終了?」

 ────メリッサ皇妃殿下の方が一枚上手とでも言うべきか、さっさと事態を収束させてしまった。
なので、もう騎士団は動かせない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

ひとりぼっちの令嬢様

悠木矢彩
恋愛
その周囲は少女に対してあまりにも無関心だった。 アイコンはあままつ様のフリーイラストを使用させていただきました。

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。 けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。 謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、 「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」 謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。 それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね―――― 昨日、式を挙げた。 なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。 初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、 「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」 という声が聞こえた。 やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・ 「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。 なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。 愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。 シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。 設定はふわっと。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

私が我慢する必要ありますか?

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? 他サイトでも公開中です

今さらなんだというのでしょう

キムラましゅろう
恋愛
王宮で文官として新たに働く事になったシングルマザーのウェンディ。 彼女は三年前に別れた男の子供を生み、母子二人で慎ましくも幸せに暮らしていた。 そのウェンディの前にかつての恋人、デニス=ベイカーが直属の上官として現れた。 そのデニスこそ、愛娘シュシュの遺伝子上の父親で……。 家の為に政略結婚している筈のデニスにだけはシュシュの存在を知られるわけにはいかないウェンディ。 しかし早々にシュシュの存在がバレて……? よくあるシークレットベイビーもののお話ですが、シリアスなロマンス小説とはほど遠い事をご承知おき下さいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 誤字脱字も大変多い作品となります。菩薩の如き広いお心でお読みいただきますと嬉しゅうございます。 性行為の描写はありませんが、それを連想させるワードや、妊娠出産に纏わるワードやエピソードが出てきます。 地雷の方はご自衛ください。 小説家になろうさんでも投稿します。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...