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第二章
地下牢②
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「────フランシス卿を保護でき次第、打って出るからそのつもりで」
わざわざ言わなくても分かっていることを口にし、ヴィンセントはこちらを見つめる。
まるで、私の気持ちを確かめるように。
多分、『前公爵を殺す覚悟はあるのか』と聞きたいのね。
時と場合によっては、生け捕りを諦めなきゃいけないから。
いや、むしろそうするのが当然。
一度ならず、二度も“均衡を司りし杖”を無断使用した相手に慈悲など掛ける必要はないもの。
『たとえ、生け捕りにしても最終的には死刑でしょうし』と考えつつ、私は小さく深呼吸する。
と同時に、黄金の瞳を見つめ返した。
「ええ、心得ているわ」
入れ替わりの件を糾弾したあのときに、父への情はもう尽き果てているため、迷いなどない。
もちろん、殺さずに済むのならそれに越したことはないが。
「なら、いいんだ……代わってあげられなくて、ごめんね」
最後の方は小さな……本当に小さな声で呟き、ヴィンセントは視線を前に戻した。
かと思えば、鉄製の扉を開いて中へ入り込む。
あっ……微かにお父様の声が、聞こえる。
どうやら、まだ地下牢に居るみたいね。
『行方不明になってなくて、良かった』と安堵しながら、私は階段を駆け降りた。
すると────父と対峙する祖父の大きな背中が、目に入る。
「「お祖父様……!」」
堪らず声を上げる私とアイリスは、少しだけ涙ぐんだ。
祖父の無事を確認出来て、なんだか気が抜けてしまって。
「セシリア、アイリス!?それにクライン小公爵まで……!何故、ここに!?」
祖父は心底驚いた様子でこちらを見やり、動揺する。
その瞬間、奥の方に居る父が通常の魔法を放った。
迫り来る風の刃を前に、祖父は回避に動こうとする。
が、背後に居る私達を気にしてか判断を躊躇った。
「こちらは大丈夫なので、避けてください」
“混沌を律する剣”を鞘から引き抜き、ヴィンセントは身構える。
それを見て、祖父は横へ一歩移動した。
多分、『クライン公爵家の家宝があるなら、安心だ』と判断したのだろう。
「フランシス卿、早くこちらへ」
わざわざ言わなくても分かっていることを口にし、ヴィンセントはこちらを見つめる。
まるで、私の気持ちを確かめるように。
多分、『前公爵を殺す覚悟はあるのか』と聞きたいのね。
時と場合によっては、生け捕りを諦めなきゃいけないから。
いや、むしろそうするのが当然。
一度ならず、二度も“均衡を司りし杖”を無断使用した相手に慈悲など掛ける必要はないもの。
『たとえ、生け捕りにしても最終的には死刑でしょうし』と考えつつ、私は小さく深呼吸する。
と同時に、黄金の瞳を見つめ返した。
「ええ、心得ているわ」
入れ替わりの件を糾弾したあのときに、父への情はもう尽き果てているため、迷いなどない。
もちろん、殺さずに済むのならそれに越したことはないが。
「なら、いいんだ……代わってあげられなくて、ごめんね」
最後の方は小さな……本当に小さな声で呟き、ヴィンセントは視線を前に戻した。
かと思えば、鉄製の扉を開いて中へ入り込む。
あっ……微かにお父様の声が、聞こえる。
どうやら、まだ地下牢に居るみたいね。
『行方不明になってなくて、良かった』と安堵しながら、私は階段を駆け降りた。
すると────父と対峙する祖父の大きな背中が、目に入る。
「「お祖父様……!」」
堪らず声を上げる私とアイリスは、少しだけ涙ぐんだ。
祖父の無事を確認出来て、なんだか気が抜けてしまって。
「セシリア、アイリス!?それにクライン小公爵まで……!何故、ここに!?」
祖父は心底驚いた様子でこちらを見やり、動揺する。
その瞬間、奥の方に居る父が通常の魔法を放った。
迫り来る風の刃を前に、祖父は回避に動こうとする。
が、背後に居る私達を気にしてか判断を躊躇った。
「こちらは大丈夫なので、避けてください」
“混沌を律する剣”を鞘から引き抜き、ヴィンセントは身構える。
それを見て、祖父は横へ一歩移動した。
多分、『クライン公爵家の家宝があるなら、安心だ』と判断したのだろう。
「フランシス卿、早くこちらへ」
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