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第二章

パーティーの準備①

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◇◆◇◆

 ────神殿の騒動から、一ヶ月半ほど経った頃。
私は建国記念パーティーに向けて、準備を進めていた。
と言っても、やることは大体ドレスの手配くらいだが。
でも、

「教えた通りにやってみて」

 アイリスの場合は違った。
社交ダンスの習得や礼儀作法の復習、話術の応用などなど……やらなきゃいけないことが、たくさんある。
今回は狩猟大会の時と違って、他の貴族とも交流する羽目になるだろうから。
『ここできっちり威厳を示さないと、侮られる』と確信し、私はレッスンに力を入れた。
────その結果、社交ダンスと礼儀作法は概ねマスター。

 あとは、話術の応用だけなんだけど……苦戦しているみたいね。

 難しい顔で参考資料を読み漁っているアイリスに、私はそっと眉尻を下げる。
元々言葉の裏を読み取るというのが苦手な子のため、覚悟はしていたが……思ったより難航していることに、焦りを覚えて。
『パーティーまでに何とかなるかしら?』と思案する中、アイリスは顔を上げた。

「話術って、面倒ね。覚えることも多いし」

 手に持った参考資料をテーブルに置き、アイリスはソファの背もたれへ寄り掛かる。
と同時に、自室の天井を見上げた。

「言いたいことがあるならハッキリ言えばいいのに、わざわざ比喩表現や難しい言葉を使う意味が分からないわ」

「貴族にとって、あからさまな悪口は下品な行為に当たるのよ。それに曖昧な言葉で誤魔化しておけば、相手から文句を言われた時のらりくらりと躱せるしね」

 『要するに逃げ道を作っているの』と説明する私に、アイリスは怪訝そうな表情を浮かべる。

「相手に詰め寄られるのが嫌なら、そもそも悪口を言わなければいいだけの話じゃない?」

「それはまさにその通りだと思うわ」

 苦笑いしながら肩を竦め、私はおもむろに手を組んだ。

「でも、社交界というのは言葉を武器にした戦いの場。時には、相手の悪口を言う必要だってあるわ。もちろん、その逆もね」

 ゆっくりとソファから立ち上がり、私は向かい側の席に座るアイリスのところへ足を運ぶ。
そして、少しだけ身を屈めた。

「大事なのは、どうすることで自分の……もしくは家の利益を得られるか、よ。言葉は所詮、手段に過ぎないのだから」
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