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第二章

教皇聖下の黒い杖《ヴィンセント side》③

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「一時解除を認める」

 ルパート殿下は惜しみなく”息“を使って、家宝に掛けられた封印を解く。
と同時に、こちらへ“混沌を律する剣”を手渡した。
なので、僕は素早く抜刀して刃先を自身の唇へ当てる。

 ────無効化完了。
だけど、まだ他の者達は教皇聖下の血統魔法の影響を受けている。
このまま、一人一人の唇に“混沌を律する剣”を押し当てて無効化して行ってもいいけど、それじゃあ手間だよね。
何より、時間が掛かりすぎる。だから────。

 おもむろに顔を上げ、僕は家宝を構えた。

「“混沌を律する剣”────タルティーブ、我が名はヴィンセント・アレス・クライン。そなたの仕えしイブの血を引く者。もし、この声を聞いているのなら世界の理に従い、物事を律し、歪んだ事柄を正したまえ。そなたにのみ許された権能を、権限を、権利を委ねたまえ。われが願うは」

 そこまで詠唱を終えた途端、教皇聖下を守っていた竜巻が消え去った。
多分、こちらの言葉を聞いて“混沌を律する剣”の発動に気づいたのだろう。
慌ててこちらへ強風を吹かせる教皇聖下の前で、僕はスッと目を細める。
『もう遅いですよ』と心の中で呟きながら。

「カイル・サム・シモンズの起こした異常を全て・・元に戻すことなり」

 そう言って剣先を教皇聖下に向けると、“混沌を律する剣”が光を放った。
かと思えば────剣身から黒い手が伸びて、ルパート殿下達の口元に触れる。
その途端、彼らは堰を切ったように呼吸を繰り返した。

「さて、これで貴方の血統魔法は無意味なものになりましたね」

 先程放たれた強風も含めて全て・・無効化したため、僕は『損害なし』という結果を突きつけた。
まあ、ルパート殿下の手首と呼吸困難による弊害は多少あるかもしれないが。
それでも、全員ほぼ無傷なのは教皇聖下にとってかなりの痛手の筈。
あれだけ派手に魔法を使えば、もうほとんど魔力も残っていないだろうから。
『戦況は言うまでもなく、こちらが有利だね』と思案する中、教皇聖下は強く杖を握り締めた。

「こんな筈ではなかったのに……!」

 悔しそうに歯を食いしばり、教皇聖下はこちらを睨みつける。
でも、先程のように傲慢な態度を取ることはなかった。

「まさか、あの状態で“混沌を律する剣”の封印を解くとは……!」

 『喋れるほどの余裕が、あったのか……!』とボヤき、教皇聖下は眉間に深い皺を刻み込む。
────と、ここでルパート殿下が彼の目の前に移動した。
それも、一瞬で。

「お前の文句や葛藤など、心底どうでもいい」
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