上 下
103 / 199
第二章

継母の手紙③

しおりを挟む
「それで、手紙の内容についてはどう思いましたか?」

 封筒へ便箋を戻しながら、アイリスはヴィンセントの方へ目を向けた。
このメンバーの中で一番賢いこの人なら、何か気づいたことがあるかもしれない、と期待した様子で。
少しばかり表情を引き締める彼女を前に、ヴィンセントは顔を上げる。

「真偽のほどはさておき、一連の騒動の全貌は見えてきたというところかな。少なくとも、神殿側の狙いは概ね検討がついた」

「神殿側の狙い?」

 思わずといった様子で聞き返すアイリスに、ヴィンセントはスッと目を細めた。

「端的に言うと────帝国の支配だね」

「「なっ……!?」」

 カッと大きく目を見開き、アイリスとルパート殿下は動揺を露わにした。
思ったよりスケールの大きい話になって、戸惑っているのだろう。
口元に手を当てて黙り込む二人を前に、ヴィンセントは人差し指を立てる。

「自分にとって都合のいい指導者……今回で言うと、第二皇子だね。彼を皇帝に据えることで、国を裏から操る寸法なんだよ。だから、皇位継承権争いに介入した」

 『第二皇子を支持すること』という取り引きの条件に触れ、ヴィンセントは小さく肩を竦めた。
軽率だよね、とでも言うように。

「神殿としてあるまじき行為だけど、今代の教皇聖下はとても欲深い人だから、これくらいやっても不思議じゃない」

「お継母様の過去を聞く限り、内部の腐敗も大分進んでいるようだしね」

 目頭を押さえつつ、私は『頭の痛い問題だわ』と嘆く。
と同時に、ルパート殿下がこちらを見た。

「話は大体、分かった。だが、さすがに『帝国の支配』は言い過ぎじゃないか?第二皇子あの人が大人しく、言うことを聞くとは思えない」

 『せいぜい、“干渉”程度だろう』と指摘するルパート殿下に対し、ヴィンセントはこう切り返す。

「まあ、反発はするでしょうね。でも、弱味・・を握られている以上、従うしかありません」

「弱味、だと?」

 ピクッと僅かに反応を示すルパート殿下に、ヴィンセントはコクリと頷く。

「ええ。状況からして────エーデル公爵家の家宝の封印を解いたのは、第二皇子でしょうから。そのときの証拠を押さえられている可能性は、非常に高いです」

「「!」」

 あくまで最重要容疑者止まりだった第二皇子が犯人だとほぼ断定され、ルパート殿下のみならずアイリスまでもがハッと息を呑んだ。
『でも、確かにそれなら……』と納得する二人を前に、ヴィンセントはトントンと指先で膝を叩く。

「とりあえず、この話はエレン殿下にも共有して今後の対策を練りましょう。第二皇子も絡んでいるとなると、僕達だけの手には負えません」

 『せっかく協力関係を結んだのだから、エレン殿下の手を借りるべきだ』と主張し、ヴィンセントは前を見据えた。

「今日のところは、これでお開きにしましょう」
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!

ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。 え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!! それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

処理中です...