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第二章
継母の手紙③
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「それで、手紙の内容についてはどう思いましたか?」
封筒へ便箋を戻しながら、アイリスはヴィンセントの方へ目を向けた。
このメンバーの中で一番賢いこの人なら、何か気づいたことがあるかもしれない、と期待した様子で。
少しばかり表情を引き締める彼女を前に、ヴィンセントは顔を上げる。
「真偽のほどはさておき、一連の騒動の全貌は見えてきたというところかな。少なくとも、神殿側の狙いは概ね検討がついた」
「神殿側の狙い?」
思わずといった様子で聞き返すアイリスに、ヴィンセントはスッと目を細めた。
「端的に言うと────帝国の支配だね」
「「なっ……!?」」
カッと大きく目を見開き、アイリスとルパート殿下は動揺を露わにした。
思ったよりスケールの大きい話になって、戸惑っているのだろう。
口元に手を当てて黙り込む二人を前に、ヴィンセントは人差し指を立てる。
「自分にとって都合のいい指導者……今回で言うと、第二皇子だね。彼を皇帝に据えることで、国を裏から操る寸法なんだよ。だから、皇位継承権争いに介入した」
『第二皇子を支持すること』という取り引きの条件に触れ、ヴィンセントは小さく肩を竦めた。
軽率だよね、とでも言うように。
「神殿としてあるまじき行為だけど、今代の教皇聖下はとても欲深い人だから、これくらいやっても不思議じゃない」
「お継母様の過去を聞く限り、内部の腐敗も大分進んでいるようだしね」
目頭を押さえつつ、私は『頭の痛い問題だわ』と嘆く。
と同時に、ルパート殿下がこちらを見た。
「話は大体、分かった。だが、さすがに『帝国の支配』は言い過ぎじゃないか?第二皇子が大人しく、言うことを聞くとは思えない」
『せいぜい、“干渉”程度だろう』と指摘するルパート殿下に対し、ヴィンセントはこう切り返す。
「まあ、反発はするでしょうね。でも、弱味を握られている以上、従うしかありません」
「弱味、だと?」
ピクッと僅かに反応を示すルパート殿下に、ヴィンセントはコクリと頷く。
「ええ。状況からして────エーデル公爵家の家宝の封印を解いたのは、第二皇子でしょうから。そのときの証拠を押さえられている可能性は、非常に高いです」
「「!」」
あくまで最重要容疑者止まりだった第二皇子が犯人だとほぼ断定され、ルパート殿下のみならずアイリスまでもがハッと息を呑んだ。
『でも、確かにそれなら……』と納得する二人を前に、ヴィンセントはトントンと指先で膝を叩く。
「とりあえず、この話はエレン殿下にも共有して今後の対策を練りましょう。第二皇子も絡んでいるとなると、僕達だけの手には負えません」
『せっかく協力関係を結んだのだから、エレン殿下の手を借りるべきだ』と主張し、ヴィンセントは前を見据えた。
「今日のところは、これでお開きにしましょう」
封筒へ便箋を戻しながら、アイリスはヴィンセントの方へ目を向けた。
このメンバーの中で一番賢いこの人なら、何か気づいたことがあるかもしれない、と期待した様子で。
少しばかり表情を引き締める彼女を前に、ヴィンセントは顔を上げる。
「真偽のほどはさておき、一連の騒動の全貌は見えてきたというところかな。少なくとも、神殿側の狙いは概ね検討がついた」
「神殿側の狙い?」
思わずといった様子で聞き返すアイリスに、ヴィンセントはスッと目を細めた。
「端的に言うと────帝国の支配だね」
「「なっ……!?」」
カッと大きく目を見開き、アイリスとルパート殿下は動揺を露わにした。
思ったよりスケールの大きい話になって、戸惑っているのだろう。
口元に手を当てて黙り込む二人を前に、ヴィンセントは人差し指を立てる。
「自分にとって都合のいい指導者……今回で言うと、第二皇子だね。彼を皇帝に据えることで、国を裏から操る寸法なんだよ。だから、皇位継承権争いに介入した」
『第二皇子を支持すること』という取り引きの条件に触れ、ヴィンセントは小さく肩を竦めた。
軽率だよね、とでも言うように。
「神殿としてあるまじき行為だけど、今代の教皇聖下はとても欲深い人だから、これくらいやっても不思議じゃない」
「お継母様の過去を聞く限り、内部の腐敗も大分進んでいるようだしね」
目頭を押さえつつ、私は『頭の痛い問題だわ』と嘆く。
と同時に、ルパート殿下がこちらを見た。
「話は大体、分かった。だが、さすがに『帝国の支配』は言い過ぎじゃないか?第二皇子が大人しく、言うことを聞くとは思えない」
『せいぜい、“干渉”程度だろう』と指摘するルパート殿下に対し、ヴィンセントはこう切り返す。
「まあ、反発はするでしょうね。でも、弱味を握られている以上、従うしかありません」
「弱味、だと?」
ピクッと僅かに反応を示すルパート殿下に、ヴィンセントはコクリと頷く。
「ええ。状況からして────エーデル公爵家の家宝の封印を解いたのは、第二皇子でしょうから。そのときの証拠を押さえられている可能性は、非常に高いです」
「「!」」
あくまで最重要容疑者止まりだった第二皇子が犯人だとほぼ断定され、ルパート殿下のみならずアイリスまでもがハッと息を呑んだ。
『でも、確かにそれなら……』と納得する二人を前に、ヴィンセントはトントンと指先で膝を叩く。
「とりあえず、この話はエレン殿下にも共有して今後の対策を練りましょう。第二皇子も絡んでいるとなると、僕達だけの手には負えません」
『せっかく協力関係を結んだのだから、エレン殿下の手を借りるべきだ』と主張し、ヴィンセントは前を見据えた。
「今日のところは、これでお開きにしましょう」
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