私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

文字の大きさ
上 下
91 / 208
第一章

母の願い《アイリス side》④

しおりを挟む
「ありがとう」

 お礼を言うのはどちらかと言うと、私の方なのに……母はまるで窮地を救われた民のように幸せそうだ。
『さあ、お行きなさい』と促す彼女の前で、私は守ってもらった手足に力を入れる。
五体満足で居られるのは母のおかげなんだ、と実感しながら。

「お母様、最後に一ついいですか?」

「何?」

 不思議そうに首を傾げる母に対し、私はスッと目を細める。
と同時に、彼女の手を握った。

「私の母になってくれて、ありがとうございました。お母様がお母様で本当に良かった」

「!!」

「私は間違いなく、世界で一番幸せな子供です」

 自信を持ってそう宣言し、私は名残惜しく思いながらもそっと手を離した。
と同時に、数十メートル間隔で結界を張り、足場を作る。
あとはこの結界を解いて、飛び立つだけ……このままだと、外に出れないから。

 ……早く覚悟を決めなさい、アイリス・レーナ・エーデル。

 『いつまで躊躇っているの』と己を叱咤する中、不意に目の前が暗くなる。

「行きなさい、アイリス。結界を解いたら、もう振り返っちゃダメよ。前だけ見て」

 そう言うが早いか、母は私の顔を無理やり押し上げ、目元に当てた手を下ろした。
視界はもう明るいのに、角度のせいか母の姿は見えない。
でも、傍に居るのはちゃんと分かった。

 たとえ、姿形が無くなってもお母様ならきっと傍に居てくれる。
この温もりはずっと消えない。

 ────そう信じて、私は一思いに結界を解除した。
と同時に、設置しておいた足場へ飛び乗る。
母の指示通り、前だけ見て……決して、後ろを振り返らなかった。
きっと見てしまったら……私は立ち止まるから。

 皆のために……何よりもお母様のために生きなきゃ。

 『迷うな』と自分の背中を押し、私は前へ前へと進んだ。
新たな足場を作りながら、炎の上を通過すること数分……ようやく、燃えていない地面が見える。
『良かった』と胸を撫で下ろす私は、何とかそこまで辿り着き後ろを振り返った。
が、炎や煙のせいで中の様子は全く見えない。

「お母様、ルパート殿下、ヴィンセント様……」

 燃え広がっていく黒い炎を前にジリジリ後退しつつ、私はそっと眉尻を下げた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

私を裏切った運命の婚約者、戻って来いと言われても戻りません

迷い人
恋愛
竜と言う偉大な血が民に流れる国アクロマティリ。 偉大で狂暴で凶悪で、その身に膨大なマナを持つ民。 そんな彼等は世界の礎である世界樹を枯らした。 私は、世界樹を復活させるために……愛の無い夫婦の間に生まれた子。 それでも、家族は、母が父を呪いで縛り奪ったにも拘らず愛してくれた。 父     ジェフリー 義母    ニーヴィ 腹違いの姉 ヴィヴィアン 婚約者   ヨハン 恨むことなく愛を与えてくれた大切な家族。 家族の愛を信じていた。 家族の愛を疑った事は無かった。 そして国を裏切るか? 家族を裏切るか? 選択が求められる。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。 ☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。 ☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。 ☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。 ☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。 ☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 ☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。

処理中です...