私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

母親の正体《アイリス side》②

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「最後の慈悲として苦痛なく、死なせて差し上げます」

 『話はこれで終わりだ』と告げる彼に、ルパート殿下とヴィンセント様はいち早く反応した。
私を庇うように前へ出て、それぞれ武器を構えている。

「相手は恐らく、結界の中に魔法を展開するつもりです」

「逃げ場を失えば、確実に当たるだろうと踏んだのか……まあまあお粗末だが、魔法の種類によってはかなり効果的な手法だ」

「ええ、水責めなどされたら一溜まりもありません」

 警戒心を露わにするヴィンセント様に対し、ルパート殿下はコテリと首を傾げた。

「ん?ヴィンセントの魔法属性は水だろう?なら、何とか……」

「なりませんよ。水を操ることは出来ますが、質量を消すような真似は出来ませんから。結界内を水で満たされたら、どうしようもありません」

「それは……確かに」

 納得したようにコクリと頷くと、ルパート殿下は表情を引き締めた。
思ったより不味い状況と分かって、危機感を抱いたのだろう。
『早急にこの結界をどうにかせねば』と意気込む彼を前に、神官は大きく息を吸い込む。

「さあ、心の準備はいいですか?いきますよ────ファイアブレ……ぐふっ!?」

 『ファイアブレス』と紡ぐ筈だったであろう言葉は、何者かによって遮られた。
いや、話せなかったと言った方がいいかもしれない。
だって、顎を突き上げられる形で殴られてしまったから……神官が。

「いっ……!?」

 地面に強く体を打ち付け、神官は目を白黒させた。
痛みと衝撃で上手く状況を呑み込めないのか、フードが取れたことにも気づいていない。
長い金髪を振り乱す勢いで辺りを見回す彼に対し、顎を殴った張本人は

「久しぶりね、ジュード」

 と、言い放った。
ハッとしたように顔を上げる彼の前で、彼女は被っていたフードを脱ぐ。
と同時に、短剣を取り出した。

「────私の娘・・・が随分とお世話になったようで……しっかり、お返しをしなきゃね」

 そう言って、母はエメラルドの瞳に強い殺気を滲ませる。
思わず硬直してしまうような圧を前に、神官────改めジュードは慌てて立ち上がった。

「アナスタシア、お前……!何でここに!?神殿も家族も全部捨てて、逃げたんじゃなかったのか!?」

「あら、それは誤解よ。ただ、そろそろ神殿から暗殺者が送られてきそうだったから一足早く脱出しただけ────まだ未熟な娘を残して死ぬなんて、出来ないもの」

 チラリとこちらの方を振り返り、母はいつものように微笑んだ。
愛と情に満ち溢れたエメラルドの瞳を前に、私は戸惑う。

 ど、どういうこと?ジュードの言っていたことは、嘘なの?
でも、お母様はあんな荒っぽいこと出来ない筈……じゃあ、暗部の人間というのは本当?

 などと考えていると、ジュードが怪訝そうな表情を浮かべた。

「おいおい……本当に頭おかしくなったか!?お前はそんなやつじゃないだろ!身内だろうとなんだろうと、自分にとって不都合になったら切り捨てる!娘のためだけに危険を犯して、俺の前に現れるなんて有り得ない!」

 殴られた顎を押さえながら、ジュードは『俺の知っているアナスタシアじゃない!』と叫ぶ。
混乱を見せる彼の前で、母は呆れたように笑った。

「そうね……本当に私らしくない。でも、しょうがないでしょう?────愛しちゃったんだから」
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