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第一章
第一皇子の思惑②
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「確かにアイリスもヴィンセントもよく私を気に掛けて下さいます。でも……いえ、だからこそ己の分を弁えているのです、私は」
あくまで『立場上、出来ない』という点を前面に押し出し、私はティーカップをソーサーの上に戻す。
「『親しき仲にも礼儀あり』という言葉があるように、家族や婚約者の意向を真っ向からねじ曲げることは出来ません。それは彼らの領分であり、資格のない者が土足で足を踏み入れていいことではありませんから。己の選択に誇りと責任を持っている彼らを尊重することこそ、今の私に出来る唯一のことでございます」
『それとこれは別』と主張し、私はマーティン殿下の要求を突っぱねた。
本当は適当に流すか、引き受けたフリして『やっぱり、ダメでした』と後日報告するかの二択を取りたかったのだけど……エレン殿下の存在を考えて、ハッキリ断ったの。
私達はあくまで第二皇子派を敵対視している、とアピールするために。
『組むとしたら、第一皇子派』という意向をしっかり示し、私はチラリとエレン殿下の様子を窺う。
が、何を考えているのかさっぱり分からない。
『相変わらずのポーカーフェイスね』と嘆息しつつ、私は前を向いた。
「ただ、マーティン殿下のご意志はきちんとアイリスとヴィンセントに伝えておきます」
「チッ……!別にいらねぇーよ、そんな気遣い!」
『無駄に終わるのは目に見えている!』と叫び、マーティン殿下は勢いよく席を立つ。
「使えねぇー女だな、本当に……!」
「申し訳ございません」
口先だけの謝罪を口にする私に、マーティン殿下は何度目か分からない舌打ちをした。
かと思えば、
「まあ、せいぜい自分の選択を後悔することだな」
と言い残し、この場を去っていく。
まだ何か言いたげではあるものの、招待状に『自分も狩りに参加する』と書いてしまったため、これ以上時間を無駄にする訳にはいかなかったのだろう。
『行くぞ!』と従者へ怒鳴るマーティン殿下を他所に、私はエレン殿下へ向き直る。
「えっと……お騒がせしました」
「いやいや、こちらこそ弟が悪かったね」
全く悪いなんて思ってなさそうな笑顔で、エレン殿下は謝った。
と同時に、空っぽのティーカップをソーサーの上へ置く。
「マーティンも、君の妹君のように心を入れ替えてくれるといいんだが……」
悩ましげな表情を浮かべ、エレン殿下はこれみよがしに溜め息を零した。
「まあ、私の場合はたとえマーティンがいい子になったとしても、仲良く出来るかどうか分からないけどね。入れ替わりの件を乗り越えて、妹君の謝罪を受け入れた君は本当に凄いよ」
『尊敬する』と大袈裟に持ち上げ、エレン殿下はエメラルドの瞳をスッと細める。
「私はそこまでした者を許せる自信がない」
あくまで『立場上、出来ない』という点を前面に押し出し、私はティーカップをソーサーの上に戻す。
「『親しき仲にも礼儀あり』という言葉があるように、家族や婚約者の意向を真っ向からねじ曲げることは出来ません。それは彼らの領分であり、資格のない者が土足で足を踏み入れていいことではありませんから。己の選択に誇りと責任を持っている彼らを尊重することこそ、今の私に出来る唯一のことでございます」
『それとこれは別』と主張し、私はマーティン殿下の要求を突っぱねた。
本当は適当に流すか、引き受けたフリして『やっぱり、ダメでした』と後日報告するかの二択を取りたかったのだけど……エレン殿下の存在を考えて、ハッキリ断ったの。
私達はあくまで第二皇子派を敵対視している、とアピールするために。
『組むとしたら、第一皇子派』という意向をしっかり示し、私はチラリとエレン殿下の様子を窺う。
が、何を考えているのかさっぱり分からない。
『相変わらずのポーカーフェイスね』と嘆息しつつ、私は前を向いた。
「ただ、マーティン殿下のご意志はきちんとアイリスとヴィンセントに伝えておきます」
「チッ……!別にいらねぇーよ、そんな気遣い!」
『無駄に終わるのは目に見えている!』と叫び、マーティン殿下は勢いよく席を立つ。
「使えねぇー女だな、本当に……!」
「申し訳ございません」
口先だけの謝罪を口にする私に、マーティン殿下は何度目か分からない舌打ちをした。
かと思えば、
「まあ、せいぜい自分の選択を後悔することだな」
と言い残し、この場を去っていく。
まだ何か言いたげではあるものの、招待状に『自分も狩りに参加する』と書いてしまったため、これ以上時間を無駄にする訳にはいかなかったのだろう。
『行くぞ!』と従者へ怒鳴るマーティン殿下を他所に、私はエレン殿下へ向き直る。
「えっと……お騒がせしました」
「いやいや、こちらこそ弟が悪かったね」
全く悪いなんて思ってなさそうな笑顔で、エレン殿下は謝った。
と同時に、空っぽのティーカップをソーサーの上へ置く。
「マーティンも、君の妹君のように心を入れ替えてくれるといいんだが……」
悩ましげな表情を浮かべ、エレン殿下はこれみよがしに溜め息を零した。
「まあ、私の場合はたとえマーティンがいい子になったとしても、仲良く出来るかどうか分からないけどね。入れ替わりの件を乗り越えて、妹君の謝罪を受け入れた君は本当に凄いよ」
『尊敬する』と大袈裟に持ち上げ、エレン殿下はエメラルドの瞳をスッと細める。
「私はそこまでした者を許せる自信がない」
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