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第一章
狩猟大会②
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こういった場で、挨拶する順番はとても重要だ。
その人の優先順位や考えが、浮き彫りになるから。
要するに────誰がどの派閥に入っているのか、分かるということ。
中立派以外の貴族は、真っ先に支持する皇子の元へ挨拶に行くから。
ちなみに中立派はかなり時間を置いてから、第一・第二・第三皇子の順番で挨拶に行く。
つまり、ルパート殿下から挨拶に行くのは第三皇子派の人間じゃないと有り得ないのだ。
これは狼煙よ────もうルパート殿下は誰にも無視出来ない存在になった、というね。
「「「ルパート・ロイ・イセリアル殿下にご挨拶申し上げます」」」
全開にされたテントの入り口から、私達はこれみよがしに挨拶を行う。
それも、最敬礼で。
『エーデル公爵家とクライン公爵家は第三皇子を主君に選んだ』とアピールする中、隣のテントからグラスの割れる音が……。
恐らく、第二皇子が癇癪を起こしたのだろう。
殿下としては、狩猟大会を通してエーデル公爵家とクライン公爵家を牽制したかったんだと思う。
それで自分の勢力に加えられそうなら、加えるという。
でも、見事に計算が狂い、第三皇子派閥に入る意向を示されてしまった。
これは彼にとって、大きな誤算だろう。
第二皇子は第一皇子と違って、大貴族からの支持を受けられていないから。
単純な力関係では、第一皇子に及ばない。
その穴を埋める鍵が、私達だったという訳。
「ご苦労。三人とも、もう戻っていい。この暑さの中、ずっと外に居るのは辛いだろう」
隣から聞こえてくる破壊音を前に、ルパート殿下はさっさと撤収するよう促してきた。
『巻き込まれるぞ』と警告する彼の前で、私達は素直に辞する。
今回の目的はあくまで、エーデル公爵家とクライン公爵家の意向を示すことだったから。
『それなら、これで充分』と考えながら、私達は第一皇子のテントへ向かった。
「「「エレン・ジェル・イセリアル殿下にご挨拶申し上げます」」」
いつも通りのお辞儀で挨拶を済ませる私達に、第一皇子のエレン殿下は『くくくっ……!』と笑う。
心底愉快そうに。
「君達、見かけによらず大胆だね」
『久々に面白いものを見れたよ』と言い、エレン殿下はエメラルドの瞳をスッと細めた。
こちらは第二皇子と違い、全く腹を立てていないらしい。
まあ、第一皇子は今のところ私達の力を必要としていないものね。
もちろん、自分の派閥に引き入れられるならそうするだろうけど。
「こんなに面白い子達を独り占めするなんて、ルパートは狡いな」
『羨ましいよ』と語り、エレン殿下は残念そうに肩を竦める。
緩く結んだ金髪を指先でいじり、いじけた子供のような態度を取った。
「ねぇ、今からでも私の元へ来ないかい?後悔はさせないよ?それ相応の謝礼だって、用意する」
その人の優先順位や考えが、浮き彫りになるから。
要するに────誰がどの派閥に入っているのか、分かるということ。
中立派以外の貴族は、真っ先に支持する皇子の元へ挨拶に行くから。
ちなみに中立派はかなり時間を置いてから、第一・第二・第三皇子の順番で挨拶に行く。
つまり、ルパート殿下から挨拶に行くのは第三皇子派の人間じゃないと有り得ないのだ。
これは狼煙よ────もうルパート殿下は誰にも無視出来ない存在になった、というね。
「「「ルパート・ロイ・イセリアル殿下にご挨拶申し上げます」」」
全開にされたテントの入り口から、私達はこれみよがしに挨拶を行う。
それも、最敬礼で。
『エーデル公爵家とクライン公爵家は第三皇子を主君に選んだ』とアピールする中、隣のテントからグラスの割れる音が……。
恐らく、第二皇子が癇癪を起こしたのだろう。
殿下としては、狩猟大会を通してエーデル公爵家とクライン公爵家を牽制したかったんだと思う。
それで自分の勢力に加えられそうなら、加えるという。
でも、見事に計算が狂い、第三皇子派閥に入る意向を示されてしまった。
これは彼にとって、大きな誤算だろう。
第二皇子は第一皇子と違って、大貴族からの支持を受けられていないから。
単純な力関係では、第一皇子に及ばない。
その穴を埋める鍵が、私達だったという訳。
「ご苦労。三人とも、もう戻っていい。この暑さの中、ずっと外に居るのは辛いだろう」
隣から聞こえてくる破壊音を前に、ルパート殿下はさっさと撤収するよう促してきた。
『巻き込まれるぞ』と警告する彼の前で、私達は素直に辞する。
今回の目的はあくまで、エーデル公爵家とクライン公爵家の意向を示すことだったから。
『それなら、これで充分』と考えながら、私達は第一皇子のテントへ向かった。
「「「エレン・ジェル・イセリアル殿下にご挨拶申し上げます」」」
いつも通りのお辞儀で挨拶を済ませる私達に、第一皇子のエレン殿下は『くくくっ……!』と笑う。
心底愉快そうに。
「君達、見かけによらず大胆だね」
『久々に面白いものを見れたよ』と言い、エレン殿下はエメラルドの瞳をスッと細めた。
こちらは第二皇子と違い、全く腹を立てていないらしい。
まあ、第一皇子は今のところ私達の力を必要としていないものね。
もちろん、自分の派閥に引き入れられるならそうするだろうけど。
「こんなに面白い子達を独り占めするなんて、ルパートは狡いな」
『羨ましいよ』と語り、エレン殿下は残念そうに肩を竦める。
緩く結んだ金髪を指先でいじり、いじけた子供のような態度を取った。
「ねぇ、今からでも私の元へ来ないかい?後悔はさせないよ?それ相応の謝礼だって、用意する」
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