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第一章

祖父の話②

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 『一体、何をしていたのか』と疑問に思う中、祖父はチラリとティーカップを見た。

「あやつはいつも何かを探すように川の中を覗いたり、周辺の草むらを漁ったりしておった。だから、ピンと来たんだ。こいつ、説教された腹いせに家宝を盗み────川に捨てたな、と」

 衝動的な犯行であったことを語り、祖父はゆっくりと視線を上げる。

「恐らく、ちょっとしたイタズラのつもりでやったんだろう。儂が少しでも困ればいいと思って……でも、思ったより大事になって驚き、何とか家宝を取り戻そうと小川に足を運んでいた。そう考えれば、一応辻褄は合う」

 呆れ気味に……どこか自嘲気味に溜め息を零し、祖父は目頭を押さえた。
内部犯……それも、自分の息子が犯人なんて考えるだけで頭の痛くなる事案だろう。
でも、信憑性は高かった。

「お祖父様はその話を陛下や騎士にしなかったのですか?」

「ああ、確証のある話じゃなかったからな。それにローガンを問い詰めて得られる情報なんて、たかが知れている。次期当主の蛮行を世に知られる方が、エーデル公爵家にとってはずっと痛手だ。だから、儂が一人で責任を被ることにした。まあ────今となっては、その判断が正しかったのか自信を持てないが」

 息子と家門を守るためにしたことが巡り巡って本人達の首を絞める結果となり、祖父は迷いを見せる。
『あのとき、ちゃんと問い詰めるべきだったか』と悩む彼を前に、私はそっと眉尻を下げた。

 正直、それは……私にも分からないわ。
ただ、当時の状況を考えるとお祖父様の判断は最善だったと思う。

 手に持ったティーカップをソーサーの上に戻し、私は背筋を伸ばす。

「お話は大体、分かりました。話していただき、ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げ感謝の意を表すと、私は真っ直ぐに前を見据えた。

「仮にお父様が家宝を持ち出し、小川に捨てていたとして────問題は誰がソレを拾って保管していたか、ですね」

 衝動的な犯行である以上、見つけた人も家宝を手にしたのは完全に偶然だった筈……。
持ち帰るところまでは理解出来ても、エーデル公爵家や皇室が大々的に捜索を行っていると知れば手放すなり何なりしただろう。
もし、自分が持っているとバレれば盗んだ犯人として扱われるから。
でも、拾った人はそうしなかった。
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