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第一章
落胆と虚しさ②
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きっと私や母を避け続け、貶めてきたのは政略結婚……貴族の義務によって成立した関係だったから。
ただそれが気に食わなかっただけ。
継母と関係を持ったのも、アイリスを産んだのも彼なりの抵抗であり、嫌がらせだったのだろう。
『自分はこれほど苦痛だったんだ』と示すための……。
となると、アイリスに教養を身につけさせなかったのは彼女を通して過去の自分を救うためか……。
『貴族の義務や責任など果たさなくても、幸せになれるんだぞ』という証明をしたかったのかもしれない。
はぁ……こんなことを言ったらアレだけど、本当にくだらないわね。
本人にとっては重要なことなんでしょうけど、とばっちりを受けた側としては何とも……。
ハッキリ言って、同情出来ない。
もっと深刻な理由があるのだろうと考えていた私は、『これまでの苦労を返してよ』と嘆いた。
と同時に、アイリスを哀れんでしまう。
間違いなく、これから一番大変な思いをするのは彼女だから。
『私も出来るだけ手を貸すけど……』と思案する中、ロジャー皇帝陛下がルパート殿下を伴って父に近づく。
「詳しい話は城で聞くとしよう」
連行を言い渡すロジャー皇帝陛下に、父はハッとする。
継母も焦ったような表情を浮かべ、後退った。
でも、逃げられないのは明白なので諦めたように俯く。
『ここまでか……』と肩を落とす彼女の前で、私はヴィンセントと顔を見合わせた。
と同時に、どちらからともなく頷き合う。
「私達も同行します」
◇◆◇◆
────大立ち回りで入れ替わりの件を解決してから、早二週間。
事件の事情聴取も終わり、私とアイリスは屋敷へ返された。
『二人とも、まだ子供だったから』というのもあるが、“均衡を司りし杖”に関して何も知らなかったため。
また、ヴィンセントからの助け船もあり一先ず無罪放免を言い渡された形。
その分、父と継母には厳しい罰を与えるらしいが……まだ事情聴取の途中なので、細かいことは決まっていない。
家門そのものに対する処罰は、これから先十年の税金引き上げと一部領地の没収。
紛失した家宝の秘匿と無断使用の罪に比べると、大分軽いけど、皇室としてもエーデル公爵家の血を絶やす訳にはいかないため妥協したんだと思う。
何度も言うように、“均衡を司りし杖”を使えるのはエーデルの血を引く者だけだから。
皇室の管理下に置かれることとなった家宝を思い浮かべ、私は『返却されるのだろうか』と悩む。
まあ、元々ないものとして扱ってきたため個人的には戻ってこなくてもいいのだが……家門の体裁を考えると、早めに取り戻したいところ。
『ある意味、我が家のシンボルだからね』と思案する中────目の前に立つ人々が皆一様に膝を折った。
「「「申し訳ございません、セシリアお嬢様!!」」」
床に頭を打ち付けるような勢いでひれ伏し、謝罪するのはエーデル公爵家の使用人達だ。
恐らく、調査のためにやってきた皇国騎士団が事のあらましを話したのだろう。
それで私とアイリスの入れ替わりを知り、罪悪感に駆られているようだ。
「自分の主人の見分けすら、つかないなんて……!私達は使用人失格です!」
「セシリアお嬢様は何度も、入れ替わりのことを訴え掛けていたのに……!」
「主人の言葉に耳を貸さないどころか、あのような無礼を働いて……!」
「これはもう首を切って、詫びるしか……!」
自責の念に駆られて震える彼らに、私は苦笑を浮かべる。
だって、屋敷に帰ってくるなり……エントランスホールに足を踏み入れるなり、これなんだもの。
彼らのことだから真実を知れば、苦しむだろうと思っていたけど……ここまでとは。
ただそれが気に食わなかっただけ。
継母と関係を持ったのも、アイリスを産んだのも彼なりの抵抗であり、嫌がらせだったのだろう。
『自分はこれほど苦痛だったんだ』と示すための……。
となると、アイリスに教養を身につけさせなかったのは彼女を通して過去の自分を救うためか……。
『貴族の義務や責任など果たさなくても、幸せになれるんだぞ』という証明をしたかったのかもしれない。
はぁ……こんなことを言ったらアレだけど、本当にくだらないわね。
本人にとっては重要なことなんでしょうけど、とばっちりを受けた側としては何とも……。
ハッキリ言って、同情出来ない。
もっと深刻な理由があるのだろうと考えていた私は、『これまでの苦労を返してよ』と嘆いた。
と同時に、アイリスを哀れんでしまう。
間違いなく、これから一番大変な思いをするのは彼女だから。
『私も出来るだけ手を貸すけど……』と思案する中、ロジャー皇帝陛下がルパート殿下を伴って父に近づく。
「詳しい話は城で聞くとしよう」
連行を言い渡すロジャー皇帝陛下に、父はハッとする。
継母も焦ったような表情を浮かべ、後退った。
でも、逃げられないのは明白なので諦めたように俯く。
『ここまでか……』と肩を落とす彼女の前で、私はヴィンセントと顔を見合わせた。
と同時に、どちらからともなく頷き合う。
「私達も同行します」
◇◆◇◆
────大立ち回りで入れ替わりの件を解決してから、早二週間。
事件の事情聴取も終わり、私とアイリスは屋敷へ返された。
『二人とも、まだ子供だったから』というのもあるが、“均衡を司りし杖”に関して何も知らなかったため。
また、ヴィンセントからの助け船もあり一先ず無罪放免を言い渡された形。
その分、父と継母には厳しい罰を与えるらしいが……まだ事情聴取の途中なので、細かいことは決まっていない。
家門そのものに対する処罰は、これから先十年の税金引き上げと一部領地の没収。
紛失した家宝の秘匿と無断使用の罪に比べると、大分軽いけど、皇室としてもエーデル公爵家の血を絶やす訳にはいかないため妥協したんだと思う。
何度も言うように、“均衡を司りし杖”を使えるのはエーデルの血を引く者だけだから。
皇室の管理下に置かれることとなった家宝を思い浮かべ、私は『返却されるのだろうか』と悩む。
まあ、元々ないものとして扱ってきたため個人的には戻ってこなくてもいいのだが……家門の体裁を考えると、早めに取り戻したいところ。
『ある意味、我が家のシンボルだからね』と思案する中────目の前に立つ人々が皆一様に膝を折った。
「「「申し訳ございません、セシリアお嬢様!!」」」
床に頭を打ち付けるような勢いでひれ伏し、謝罪するのはエーデル公爵家の使用人達だ。
恐らく、調査のためにやってきた皇国騎士団が事のあらましを話したのだろう。
それで私とアイリスの入れ替わりを知り、罪悪感に駆られているようだ。
「自分の主人の見分けすら、つかないなんて……!私達は使用人失格です!」
「セシリアお嬢様は何度も、入れ替わりのことを訴え掛けていたのに……!」
「主人の言葉に耳を貸さないどころか、あのような無礼を働いて……!」
「これはもう首を切って、詫びるしか……!」
自責の念に駆られて震える彼らに、私は苦笑を浮かべる。
だって、屋敷に帰ってくるなり……エントランスホールに足を踏み入れるなり、これなんだもの。
彼らのことだから真実を知れば、苦しむだろうと思っていたけど……ここまでとは。
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