20 / 208
第一章
違和感《ヴィンセント side》①
しおりを挟む
◇◆◇◆
────時は少し遡り、クライン公爵家までやって来たセシリアを出迎えた時。
まず、馬車から飛び降りた彼女に驚愕した。
普段なら、絶対にこんなことはしないから。
ようやくあの家から解放されて、はしゃいでいる……のかな?
『意外とお転婆さんなんだね』と考え、僕は何とか自分を納得させる。
頭の中にある違和感を打ち消すように。
『こんなことを考えている僕の方がおかしいんだ』と自制する中、ふと彼女の右耳に目をやる。
あれ?────ピアスをしてない?
僕と色違いで揃えたアクセサリーを思い浮かべ、自身の左耳に触れる。
そこには、宝石のアメジストをあしらったピアスがあった。
『セシリアの方はゴールデンジルコンだけど』と思い返しながら、スッと目を細める。
やっぱり、何かおかしい。
だって、セシリアは毎日のようにそのピアスを身につけていたから。
僕と会う時は尚更。
『必要に応じて付け替えることはあるけど』と考えつつ、セシリアの様子を見守った。
普段なら一も二もなく彼女に駆け寄って、挨拶しているところだが。
『どうも違和感が拭えない……』と悶々としていると、セシリアはこちらを見て笑う。
「会いたかったわ、ヴィンセント!」
キラキラと目を輝かせるセシリアは、人目も憚らず抱きついてきた。
その途端────全身にゾワッとした感覚が走る。
悪寒……?何で?相手はセシリアなのに。
今まで彼女には何をされても平気だったため、言いようのない不安を覚えた。
『僕は一体、どうしてしまったんだ?』と自分の感覚を疑うものの……全身の毛が逆立つような嫌悪感は消えない。
生理的に無理、とすら思ってしまう。
……彼女は本当にセシリアなのか?
馬鹿げた話だと分かっていながら、僕はそんな疑念を抱いた。
『姿形はどう見てもセシリアなのにね……』と自嘲しつつ、一先ず体を引き離す。
「いらっしゃい、セシリア。ゆっくりしていってね」
とてもじゃないが、『僕も会いたかったよ』とは言えず……当たり障りのない返答を口にした。
すると、僕の護衛騎士や執事がハッと息を呑む。
彼らとは付き合いも長いため、僕の反応にどことなく違和感を抱いたのだろう。
『セシリア様に対しては凄くお優しいのに』と狼狽える彼らを他所に、僕は一足早く部屋へ戻った。
本来であれば、今日はセシリアにピッタリくっついて屋敷を案内したり、庭を散歩したりしてゆっくり過ごそうと思っていたのに。
彼女の顔を見た途端、そんな気は失せてしまった。
というより────
「────早く傍から離れないと、うっかり殺しそうで怖かったんだよね」
自室のソファで寛ぎながら、僕は大きく息を吐いた。
自分でもよく分からない変化に戸惑い、やれやれと頭を振る。
と同時に、人差し指をクイクイと動かした。
「お呼びでしょうか?」
そう言って、音もなく僕の前に現れたのは────クライン公爵家の暗部を取り仕切る、アルマン。
色々と謎の多い男だが、腕は確かで暗殺・諜報・隠蔽工作何でもやる。
『元は貴族なんだっけ?』と思い返しながら、僕は足を組んだ。
「セシリアの様子は?」
「現在、お部屋でドレスのカタログを見てらっしゃいます」
床に片膝をついて頭を垂れるアルマンは、短く切り揃えられた紺髪をサラリと揺らす。
『あと、宝石も買いたいと言っていました』と付け足す彼の前で、僕は苦笑を漏らした。
「ここに来て最初にすることが、ソレかぁ……やっぱり、ちょっとおかしいよね」
────時は少し遡り、クライン公爵家までやって来たセシリアを出迎えた時。
まず、馬車から飛び降りた彼女に驚愕した。
普段なら、絶対にこんなことはしないから。
ようやくあの家から解放されて、はしゃいでいる……のかな?
『意外とお転婆さんなんだね』と考え、僕は何とか自分を納得させる。
頭の中にある違和感を打ち消すように。
『こんなことを考えている僕の方がおかしいんだ』と自制する中、ふと彼女の右耳に目をやる。
あれ?────ピアスをしてない?
僕と色違いで揃えたアクセサリーを思い浮かべ、自身の左耳に触れる。
そこには、宝石のアメジストをあしらったピアスがあった。
『セシリアの方はゴールデンジルコンだけど』と思い返しながら、スッと目を細める。
やっぱり、何かおかしい。
だって、セシリアは毎日のようにそのピアスを身につけていたから。
僕と会う時は尚更。
『必要に応じて付け替えることはあるけど』と考えつつ、セシリアの様子を見守った。
普段なら一も二もなく彼女に駆け寄って、挨拶しているところだが。
『どうも違和感が拭えない……』と悶々としていると、セシリアはこちらを見て笑う。
「会いたかったわ、ヴィンセント!」
キラキラと目を輝かせるセシリアは、人目も憚らず抱きついてきた。
その途端────全身にゾワッとした感覚が走る。
悪寒……?何で?相手はセシリアなのに。
今まで彼女には何をされても平気だったため、言いようのない不安を覚えた。
『僕は一体、どうしてしまったんだ?』と自分の感覚を疑うものの……全身の毛が逆立つような嫌悪感は消えない。
生理的に無理、とすら思ってしまう。
……彼女は本当にセシリアなのか?
馬鹿げた話だと分かっていながら、僕はそんな疑念を抱いた。
『姿形はどう見てもセシリアなのにね……』と自嘲しつつ、一先ず体を引き離す。
「いらっしゃい、セシリア。ゆっくりしていってね」
とてもじゃないが、『僕も会いたかったよ』とは言えず……当たり障りのない返答を口にした。
すると、僕の護衛騎士や執事がハッと息を呑む。
彼らとは付き合いも長いため、僕の反応にどことなく違和感を抱いたのだろう。
『セシリア様に対しては凄くお優しいのに』と狼狽える彼らを他所に、僕は一足早く部屋へ戻った。
本来であれば、今日はセシリアにピッタリくっついて屋敷を案内したり、庭を散歩したりしてゆっくり過ごそうと思っていたのに。
彼女の顔を見た途端、そんな気は失せてしまった。
というより────
「────早く傍から離れないと、うっかり殺しそうで怖かったんだよね」
自室のソファで寛ぎながら、僕は大きく息を吐いた。
自分でもよく分からない変化に戸惑い、やれやれと頭を振る。
と同時に、人差し指をクイクイと動かした。
「お呼びでしょうか?」
そう言って、音もなく僕の前に現れたのは────クライン公爵家の暗部を取り仕切る、アルマン。
色々と謎の多い男だが、腕は確かで暗殺・諜報・隠蔽工作何でもやる。
『元は貴族なんだっけ?』と思い返しながら、僕は足を組んだ。
「セシリアの様子は?」
「現在、お部屋でドレスのカタログを見てらっしゃいます」
床に片膝をついて頭を垂れるアルマンは、短く切り揃えられた紺髪をサラリと揺らす。
『あと、宝石も買いたいと言っていました』と付け足す彼の前で、僕は苦笑を漏らした。
「ここに来て最初にすることが、ソレかぁ……やっぱり、ちょっとおかしいよね」
96
お気に入りに追加
1,730
あなたにおすすめの小説
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる