私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

家族との関係性②

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「そのような理由であれば、尚更応じられません!」

 これまでにも理不尽な要求はたくさんあった。
まだ袖も通していないオーダーメイドのドレスを寄越せとか、アイリスのお茶会の準備をしろとか。
でも、まだ周りに迷惑を掛けるような内容じゃなかったから我慢出来た。
私さえ耐えればいい話だったから……けど、今回はあまりにも度が過ぎている。

 『看過出来るレベルじゃない』と考え、私は少しばかり表情を険しくした。

「こんなことを言っては失礼ですが、貴族の教養を途中で投げ出してきたアイリスにクライン家の女主人が務まるとは思えません!」

 『あともうちょっとでこの家を抜け出せる』ということもあってか、私はいつになく強気だった。
ハッとしたように息を呑む家族の前で、私は強く手を握り締める。

「お二人もご存知の通り、クライン公爵家は帝国の守りを一身に引き受けています!そのため、当主一人で全ての業務を行うことは不可能!よって、夫人の尽力は必要不可欠となります!それはお父様やお母様も理解しているでしょう!」

 今までずっと甘やかされ続けてきたアイリスでは、領地経営や屋敷の管理など出来る筈がない。
むしろ、状態を悪化させる危険性だってあった。
私やヴィンセントの個人的感情を抜きにしても、アイリスをクライン公爵家へ嫁がせるのは難しい。
当初の予定通り、良い婿を取ってエーデル公爵家に居させるのが一番だろう。

「とにかく、そのお願いは聞けません!」

 『絶対に無理だ』と突っぱね、私はクルリと身を翻した。

「お話は以上のようなので、私はこれで失礼します」

 『また夕食の席でお会いしましょう』と言い残し、私はさっさと地下室を出ようとする。
ここはどうもジメジメしていて、気持ち悪かったから。

 大体、何で話し合いの場所にここを選んだのかしら?
確かに他の人に聞かれたくない話ではあるけど、人払いなり何なりして書斎や執務室に呼び出せばいいじゃない。

 『ここまで徹底する意味って……?』と疑問を抱きながら、私は一階へ繋がる階段に足を掛けた。
と同時に、思い切り髪を引っ張られた。

「きゃぁぁぁああ!?」

 突然のことで踏ん張れず、私はバランスを崩してしまい……床へ転倒。
頭をしたたかに打った。
『い、一体何が……?』と混乱しつつ、何とか起き上がる。
その際、床に散らばった自分の銀髪が目に入った。
『引っ張られた時に抜けたのかしら?』と思案していると、アイリスに肩を突き飛ばされる。
おかげで、また床に頭を打ち付けることに……。

「ちょ、ちょっとアイリス……!何を……」

「だって、お姉様ったら私に譲ってくれないんだもの。なら────無理やり奪うしかないでしょう?」

 いつものように無邪気に笑い、アイリスは私の上へ跨った。
お腹辺りに強い圧迫感を覚える中、彼女はアメジストの瞳をスッと細める。

「あのね、お姉様。私、どうしてもヴィンセント様のことが欲しいの」

「だから、それは……!」

「お父様とあ母様も一緒に何度も『アイリスと結婚してください』って、言ったのよ?でも、あの人は『セシリアお姉様しか有り得ないから』と言って拒み続けた。なら、私が────お姉様になる・・・・・・しかないじゃない」

 超が付くほどの暴論を振りかざし、アイリスは私の手を押さえ付けた。
かと思えば、隣に立つ父を見上げる。

「お父様、早く。明後日には花嫁修業でクライン公爵家に行っちゃうんだから、やるなら今しかないわ」

「ああ、分かっている」

 普段の無表情が嘘のように穏やかな笑みを浮かべ、父は優しくアイリスの頭を撫でた。
『お前の願いは何でも叶えてやるからな』と言い、懐に手を入れる。
武器を取り出すのかと思い、身構える私の前で────父は紫の宝玉を埋め込まれた銀の杖を取り出した。
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