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本編
夫と過ごす一日③
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「私は軽く身支度を整えてから、食堂に参ります」
『先に召し上がっていても、構いません』と告げ、私は隣室へ足を運んだ。
そこで乱れた髪や服を直すと、食堂へ直行。
夫と共に昼食を頂いた。
「次は昼寝だったな」
夫は私をエスコートして部屋へ戻り、またもやこちらを凝視。
────というやり取りを得て昼寝し、夕食もご一緒する。
あとは就寝だけね。なんというか、あっという間だわ。
『ほとんど寝ているせいかしら?』と思案しながら、私は食事を終えて自室へ戻った。
当然の如く、夫も一緒に。
『やっぱり、就寝まで見届けるのか』と思いつつ、私は再びベッドへ横になる。
そして、早速うつらうつらしていると────
「貴様、本当によく眠るな」
────と、夫に感心された。いや、引かれたと言った方がいいかもしれない。
まあ、この睡眠欲には私自身も驚いているので無理ないが。
「実家に居たときは逆に全然寝れなかったので、その反動かもしれません」
わりと真剣に自分なりの見解を述べ、私はチラリと夫の方を見やる。
と同時に、彼が少し頭を捻った。
「フィオーレ伯爵家では、眠りづらい環境だったのか?」
『騒音や寝具の影響か?』と考える夫に、私は苦笑を漏らす。
「いえ、そういう訳ではなく……実家の仕事を手伝っていた関係で、あまり睡眠時間を取れなくて」
身内の恥を晒すようなものなので姉のことには触れず、表面的な理由だけ明かした。
それでも、旦那様なら『訳あり』だと勘づきそうだけど。
娘……それも次女が家業を代わりにやっているなんて、普通は有り得ないから。
『違和感は持つ筈』と思案し、私は自身の口元に手を当てる。
────と、ここで夫が少しばかり身を乗り出した。
「そうか。それは────」
何を思ったのかこちらに手を伸ばし、夫は僅かに目元を和らげる。
「────よく頑張ったな」
ポンッと軽く私の頭を撫で、夫はこちらの尽力をただ評価してくれた。
飾りのない、真っ直ぐな言葉で。
「っ……」
つい泣きそうになる私は、唇を噛み締めて耐える。
ここで涙を流すのは、違う気がしたから。
「ぁ……ありがと、ございます」
震える声で礼を言い、私はうんと目を細めた。
これまでの自分の努力が、忍耐が、苦労が全て報われたような感動を覚えながら。
別に実家を支えてきたことに、後悔はない。
きっと時間を巻き戻しても、私はまた同じことをするだろう。
ただ、やっぱり……凄く辛かったの。それを、誰かに分かってほしかった。労ってほしかった。褒めてほしかった。
『負担を掛けてごめんね』と謝るばかりだった両親や何も知らずに活き活きしていた姉を思い出し、私はそっと目を伏せる。
と同時に、夫が私の目元へ手を当てた。
「私は当然のことを言ったまでだ。礼を言われる筋合いはない。それより、早く寝ろ────これまで頑張ってきた分、今は休め」
『ゆっくり心と体を回復させるんだ』と語る夫に、私は表情を和らげる。
その優しさが、ただ嬉しくて。
「はい。おやすみなさい、旦那様」
とても幸せな気分のまま目を瞑り、私は静かに船を漕いだ。
『ああ』と返事する夫の声を聞きながら。
────この日、いつもよりぐっすり眠れたのはきっと彼のおかげだろう。
『先に召し上がっていても、構いません』と告げ、私は隣室へ足を運んだ。
そこで乱れた髪や服を直すと、食堂へ直行。
夫と共に昼食を頂いた。
「次は昼寝だったな」
夫は私をエスコートして部屋へ戻り、またもやこちらを凝視。
────というやり取りを得て昼寝し、夕食もご一緒する。
あとは就寝だけね。なんというか、あっという間だわ。
『ほとんど寝ているせいかしら?』と思案しながら、私は食事を終えて自室へ戻った。
当然の如く、夫も一緒に。
『やっぱり、就寝まで見届けるのか』と思いつつ、私は再びベッドへ横になる。
そして、早速うつらうつらしていると────
「貴様、本当によく眠るな」
────と、夫に感心された。いや、引かれたと言った方がいいかもしれない。
まあ、この睡眠欲には私自身も驚いているので無理ないが。
「実家に居たときは逆に全然寝れなかったので、その反動かもしれません」
わりと真剣に自分なりの見解を述べ、私はチラリと夫の方を見やる。
と同時に、彼が少し頭を捻った。
「フィオーレ伯爵家では、眠りづらい環境だったのか?」
『騒音や寝具の影響か?』と考える夫に、私は苦笑を漏らす。
「いえ、そういう訳ではなく……実家の仕事を手伝っていた関係で、あまり睡眠時間を取れなくて」
身内の恥を晒すようなものなので姉のことには触れず、表面的な理由だけ明かした。
それでも、旦那様なら『訳あり』だと勘づきそうだけど。
娘……それも次女が家業を代わりにやっているなんて、普通は有り得ないから。
『違和感は持つ筈』と思案し、私は自身の口元に手を当てる。
────と、ここで夫が少しばかり身を乗り出した。
「そうか。それは────」
何を思ったのかこちらに手を伸ばし、夫は僅かに目元を和らげる。
「────よく頑張ったな」
ポンッと軽く私の頭を撫で、夫はこちらの尽力をただ評価してくれた。
飾りのない、真っ直ぐな言葉で。
「っ……」
つい泣きそうになる私は、唇を噛み締めて耐える。
ここで涙を流すのは、違う気がしたから。
「ぁ……ありがと、ございます」
震える声で礼を言い、私はうんと目を細めた。
これまでの自分の努力が、忍耐が、苦労が全て報われたような感動を覚えながら。
別に実家を支えてきたことに、後悔はない。
きっと時間を巻き戻しても、私はまた同じことをするだろう。
ただ、やっぱり……凄く辛かったの。それを、誰かに分かってほしかった。労ってほしかった。褒めてほしかった。
『負担を掛けてごめんね』と謝るばかりだった両親や何も知らずに活き活きしていた姉を思い出し、私はそっと目を伏せる。
と同時に、夫が私の目元へ手を当てた。
「私は当然のことを言ったまでだ。礼を言われる筋合いはない。それより、早く寝ろ────これまで頑張ってきた分、今は休め」
『ゆっくり心と体を回復させるんだ』と語る夫に、私は表情を和らげる。
その優しさが、ただ嬉しくて。
「はい。おやすみなさい、旦那様」
とても幸せな気分のまま目を瞑り、私は静かに船を漕いだ。
『ああ』と返事する夫の声を聞きながら。
────この日、いつもよりぐっすり眠れたのはきっと彼のおかげだろう。
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