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値札のついた愛なんて
しおりを挟む人間なんて見た目が全て。
見た目よりも中身だとか優しさが大切だとか綺麗事を並べる人も多いけれど結局見た目がいい方に傾く。
結局のところ自分の価値も外見だ。
どうせ若いうちしか見向きもされない。
わかってる。わかってるからこそ最大限に付加価値を付けて売りたい。
パリ直輸入の最新作ニット。イタリア製オーダーメイドのハイヒール。パンツはミラノコレクションで注目を集めたデザイナーの一点モノ。それに英国の新鋭デザイナーのコートを合わせて、アクセサリーは主張しすぎない貢ぎ物。
メイクは華やかに腕の見せ所だ。
フォロワーが何万人いていいねの数が何百万貰えるか。
重要なのはそれだけ。
みんなが羨む理想を生きる。
それが出来なくなれば価値なんてなくなる。
わかっている。
消費者は飽きっぽい。どれだけ努力したって努力なんて評価されない。
見た目が重要で中身がどれだけ添加物だらけだって誰も気になんてしない。
雨宮薫の人生はそうやって構成されてきた。
良いか悪いかなんて誰が決める?
結局自分。
ちやほやしてくれた人がいつの間にか遠ざかって罵る。
いいように利用しようとしてくる。
わかっている。
何度も何度も経験した。
愛を囁いてくるやつは薫の外見かブランドが目当て。あとは金。
金を出し渋れば見向きもしなくなるし、愛を囁いた唇が他のやつを口説くところだって何度も見た。
どうせ顔だけ。
見た目だけ。
金払いが良いから相手をしてやってる。
何度も何度も言われた。
そして、限界が来た。
あいつの名前、なんだっけ。
もう、思い出せないけれど、たぶんその時は本気で好きだった相手。
音楽で留学したいと言っていたから、支援してあげた。楽器代だとか教室のレッスン料だとか、交通費や留学先の学費だって用意してあげるつもりだった。
けれど。
浮気してやがった。
どんなに見た目がよくても性格がきついだの束縛が激しいだの散々言われた挙げ句、自分は同性愛者ではないなんて口にして……。
口説いてきたのはお前のくせに。
その時たぶん、薫の中でなにかが切れた。
そして、近くにあったなにかでそいつをぶん殴って、殴って、殴りまくった。
幸い、いや、不幸なことだったかもしれない。
そいつは死ななかった。
薫は逮捕されるはずだったが父親がたっぷり金を積んで優秀な弁護士を雇い、ついでに警察官を買収して無罪になった。
馬鹿馬鹿しい。
金はいくらでも出してくれる。
悪さをしたら少しは振り向いてくれるかと思っても、全くその気配もない。
問題があったら揉み消してくれる。
優秀な成績でも反応はなし。
よくわからない。
たったひとりの血縁のはずが、父の考えることは全くわからない。
ただ、金を渡してくれる。
毎月七桁ほどの小遣いが送られてきて、それきり。
電話に出てくれるのは年に数回。メールも返事は滅多に来ない。
男だか女だかわからない格好をした写真をとにかく送り続けてみたこともあるけれど、既読がついただけで返事はなかった。
あの事件を起こした後、罰則のようにメンタルクリニックに通わされることになった。
週に一度一時間ほど医者と話す。
ただそれだけだ。
なにか意味があるとは思えない。
どうせみんな薫の外見に惹かれ、振る舞いを愛し、本心を気にしない。
仕事だとしても、表面しか見ない。
表面を楽しんだら面倒くさいと他の誰かに押しつけようとするに決まっている。
そう思っていた。
その病院、【真坂メンタルクリニック】を選んだのは家からあまり近くない病院を検索したときに評価の星が多かったからだ。院長がイケメンだと評判で、薬も言うだけ出してくれるらしい。いかにもいい加減な仕事をしているのだろうなと思った。
その方が都合がいい。
病院はファッションビルのテナントで、お洒落なカフェみたいな外観だった。これなら気軽に入れる。カフェと間違えて立ち寄りそうになる人もいそうだと感じさせるナチュラル系の看板。カフェでなければネイルサロンや美容室でも驚かない。
内装も、旭川家具を揃えた木の温もりを売りにしていそうなインテリアで、なぜかグランドピアノまで置かれている。しかも電子ではない。院長の趣味なのだろうか。
カウンター席の他にいくつもソファーが配置されている。思う存分寛いでくれと言わんばかりの待合室は本も多い。
棚にディスプレイされたファッション雑誌が目に入り、少しだけにやけてしまう。
薫が表紙を飾った号だ。
親のコネでもなんでもいい。有名デザイナーの服で、第一線で働くアーティストのメイク。
正直メイクは自分でやった方が映えると思っているが、それでもプロのカメラマンがスタジオで撮影してくれて、プロのデザイナーがレイアウトした雑誌の表紙というものは特別感がある。
一瞬、看護師が薫を見たような気がした。もしかすると表紙と見比べて本人だと気がついたのかもしれない。
気づかれたのならそれはそれでいい。ファンサービスは欠かさない。記念撮影は喜んで応じるし、とっておきのかわいいサインだっていくらでもしてあげられる。
けれども向こうもプロ意識があるのだろう。患者である薫に対し必要以上に声をかけることはなかった。
待合室で出されたアイスティーはそこらのカフェよりもずっと美味しいもので院長の拘りなのか事務員の選定なのか気になるところだった。
薫はストローでアイスティーを飲みながら、自分が表紙の雑誌を広げる。
(やっぱ俺どの角度でもかわいー)
女よりかわいいとはよく言われる。勿論、そう見える為の努力もしている。
母親似の美貌だけに頼ったりなんてしない。
独学ではあるけれど、メイクはプロだ。
海外でも活躍できるように言語の勉強だって欠かさない。トップデザイナー達と通訳なしで話せるモデル。付加価値が上がる。
わかっている。この美貌は期間限定だと。
いくら努力したって人間は老いる。
老いれば、見向きもされなくなる。
女みたいな少年を求めるやつだって多い。
女装した男。
そんな評価もある。
馬鹿馬鹿しい。
性別なんて些細な事だ。
男だって女だって磨けば美しくなる。その努力を怠る人間が僻んであれこれ言ってくる。
どちらかと言えばフェミニンな人間かもしれないが、誰にだってフェミニンな部分は存在する。それを否定してあれこれ言ってくるようなやつの言葉には価値がない。
思い出して腹が立つ。
あの男。
名前も顔ももう思い出せないけれど、はっきりと覚えている。
あの男は薫を「カマ男」呼ばわりした。
死ねばよかったのに。
殺してやればよかった。
どうしてあの時手が止まってしまったのだろう。
誰かが止めたのだったか?
薫はあの事件をあまりよく覚えていなかった。怒りにまかせて、元恋人を半殺しにした。
顔が原形を留めなくなるほど殴ったらしいけれど、それすら覚えていない。
あいつが悪い。
薫を愛していると言って散々貢がせたくせに、女が居た。挙げ句の果てに暴言だ。
気づけば、手を強く握りすぎていた。
折角綺麗に仕上げたネイルが崩れてしまう。
慌てて手を開き、爪の痕が残る手のひらを指の腹でなぞる。
毎日ケアをしているのに、自分で傷をつけてどうする。
必死に自分に言い聞かせていると、診察室に呼ばれた。
診察室もまた落ち着いた部屋だった。とても病院には見えない内装で、どこかのホテルのサロンと言われて写真を見せられたら信じてしまいそうだ。
「院長の真坂です」
どこか甘さを含んだ、所謂「イケボ」と呼ばれる声で名乗った医者は噂以上の美形だった。
なんというか現実離れしている。
英国の有名ブランドのニットとシャツ。パンツもたぶん英国の新鋭デザイナーのパターンだろう。よくフィットした素晴らしいサイズ感だ。
この医者、中々ファッションをわかっている。
それに、想像していたよりも若い。てっきりイケメン中年くらいの院長を想像していた薫は驚いてしまった。
「今日は簡単な質問をいくつかします。それから今後のことを決めていきましょう」
真坂はじっと薫を見つめ、それから笑みを見せる。
そして少しがっかりした。
こいつも同じじゃん。
薫を誘ってくる男と同じ目をしている。
女と間違えてるの? ちゃんとカルテに性別書いてるのに。
その軽蔑が真坂に伝わったかはわからない。
単に、見た目がよければ男でも構わないというタイプなのだろうか。
真坂の質問に答えながらあれこれ考えてしまう。
質問の内容は誕生日や職業、趣味から今朝食べたもの、寝る前の習慣なんてありふれた物から始まり、恋人の有無や家族のこと、交友関係……だんだん腹が立ってくるようなことも訊かれた。
正直に答えるのも馬鹿らしくなる。
この医者相手に問題を起こしたら父はどんな反応をするだろうか。
また弁護士を寄こして揉み消すのか、それとも、こっちの医者の方が上等なコネでも持っていて薫を重罪にするのだろうか。
そんなことを考えていると、別室に移動するように告げられた。
「あれ? 今日は質問だけじゃないの?」
「少しお疲れのようですから、リフレッシュしていただこうかと」
そう、通された先にはなんだかリラクゼーションサロンにでもありそうな椅子がある。
ここは本当に病院なのだろうか。
藪医者に当たってしまった?
まさか無免許なのではと訝しんだが、壁には有名大学の卒業証書がかけられている。
名前は【真坂自然】か。なんて読むのだろう。
ぼんやりと考えながら、案内された別室へ進む。
「こちらをどうぞ」
椅子にかけると温かいアイマスクのような物を乗せられ、それから椅子が倒れる。
頭の付近にスピーカーがあるらしく、クラシックのような音楽が流れているが、薫の知らない曲だった。
「そのまま目を閉じて……体の力を抜いて下さい」
お香だろうか。なんだか甘い匂いがする。
薫愛用の香水ともまた違う、ウッディ系の甘さだ。
真坂がなにかを言っている。
けれども、ものすごく眠くなってしまった。
甘い声が心地良い。
なんだか……異常に近い気がする。
気づけば薫は寝入ってしまっていた。
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