シスターリリアンヌの秘密

ROSE

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五年後

46 天秤にかけ

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 ラファーガが未知の低音に恐怖している間にユリウスは一命を取り留め別室に運ばれた。
 騎士達が駆け付け、現場を調べている間も、ラファーガには声が聞こえ続けている。
「リリアンヌ……、この声は、一体なにを伝えようとしているのだ?」
 未知の言語で語り掛けられる恐怖を少しでも緩和しようと、リリアンヌに問う。
 しかし、彼女は首を傾げた。
「声、ですか?」
 耳を澄ませるような仕草を取るが、やはり彼女には聞こえていない様子だ。
「あの……私には聞こえないようです、が……もしかして、我が神がラファーガに語り掛けてくださっているのでしょうか?」
 首を傾げ、気がついたリリアンヌは嬉しそうな様子を見せる。
 まさか。ついに神に信仰心を認められたのだろうか。
 一瞬そう考え、その『神』に認識されてしまったことは危険なのではないかという思考に至る。
「私を惑わそうとする魔の類いではないかと不安になってしまったよ」
 そもそも、リリアンヌが崇めている存在は本当に神なのだろうかという不安が増幅してしまう。
「まあ、ラファーガ……ええ、神を騙る恐ろしい存在も確かにあなたを惑わそうとするでしょう。しかし、神は必ずあなたを導いてくださいます」
 リリアンヌは既にラファーガに語り掛けている存在は神であると信じ切っているようだ。
 ラファーガは居心地の悪さを感じ、話題を事件の方へ向ける。
「シャンデリアが落ちた他に、なにかに襲撃されていたようだが、あなたにはその犯人がわかったのか? 的確に対処していたように思えたよ」
 むしろ、襲撃されることを知っていたようにさえ見えた。
「……そう。ですね。ラファーガが狙われていました」
 リリアンヌは少し迷う様子を見せ、それでも決意を固めたように語りはじめる。
「……末の弟、ルイがラファーガの命を狙っているようです」
 その言葉に、ジルベールを思い出す。
 二人の王子はリリアンヌを必要としているのだ。そして、ラファーガが邪魔者であることは理解出来る。王女を攫った犯人なのだから当然だ。
「……我が神はラファーガの危機を知らせてくださいました。私は……あの僅かな時間のうちにあなたとその他の人間を天秤にかけ……あなた一人を選んでしまいました」
 リリアンヌは俯く。
「これは、きっと……罪深い行為、です……よね? それでも……私はラファーガを失いたくないと思ってしまいました」
 リリアンヌの静かな告白は、ラファーガを浮かれさせるには十分過ぎた。
「それは、あなたにとって、私は特別な存在になれたという意味と受け取っていいのかな?」
 訊ねればリリアンヌは僅かに頬を紅潮させる。
 そして、少し戸惑いながら静かに頷いた。
 ラファーガは歓喜する。
 恐ろしい経験も全て吹き飛んでしまう程に。
 ラファーガは、耐えきれなくなり思わずリリアンヌを抱き寄せる。
「ああ、あなたにそう思ってもらえただけで私の人生は報われた!」
 この先、どんなことが起きようとも、リリアンヌに向けられた感情を思うだけで全てを乗り越えられてしまう気になる。
「私は、てっきり……あなたは同情や哀れみ、誓いの為だけに私と共にある道を選んでくれたのだとばかり思っていたのだ」
 リリアンヌからはラファーガが向けるような感情は得られないものだとばかり思い、すっかりと諦めてしまっていた。
「ラファーガ……大袈裟ですよ……それに、誓いの為だけに国を捨てられるほど……薄情な人間ではないつもりです」
 その言葉に、思わずハッとする。
 リリアンヌは神の言葉に従っただけではなかった。故郷とラファーガを天秤にかけ、ラファーガを選んでくれたのだ。
 つまり、リリアンヌは始めからラファーガに特別な感情を向けてくれていたのではないだろうか?
「……すまない。リリアンヌ。私は勝手に誤解して、傷ついていたらしい」
 きつく抱きしめても抵抗はない。
 ただ、少し迷うような手が、ラファーガの背を撫でた。
 それは慰めるような、それでいて全てを受け入れ包み込んでくれるような温かさがあった。
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