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ジャスティン 7 誤算 4

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 屈辱だ。
 シャロンに負けた気がする。
 腹いせに意識が飛ぶまで口の中を犯し尽くしてやったが気が治まらない。
 そもそも最初からシャロンに勝てるはずがないのだ。
 ぐったりと倒れるように眠るシャロンの着衣はすっかり汚してしまった。着替えさせてやらないとと思うが、人を呼ぶのを躊躇う。
 こんなシャロンを誰にも見せたくない。
 そう思ったが、放っておいてくれない奴というのは必ず現れる。
「おい、カラミティー侯爵令息の上の方が妹を探しているぞ」
 扉越しに不遜な態度。間違いなくスティーブンだ。
 それにしてもアレクシスをカラミティー侯爵令息の上の方だなんて表現するのがおかしい。
「長男か? 次男か?」
「上と言えば長男だろう?」
 呆れた声が返ってくるがシャロンの兄は三人いる。
 そして、その三人目がまた面倒くさい。
「次男は目を覚ましたのか?」
「兄が担ぎ上げて回収したところだ」
 その様子が目に浮かんでしまう。
 出来れば三男が現れないうちに全てを片付けたいものだと思いつつも、外が騒がしいことからそれは絶望的だと理解した。
「敵襲?」
 スティーブンが戦闘態勢に入ろうとする。
「気にするな。カラミティー侯爵家の三男だ」
 帰ってくるらしいとは聞いていた。わざわざ他国での仕事を放り出して。
 あの妹を溺愛しすぎる男は性格だけでも面倒くさいのに最大の問題はその容姿だ。
 シャロンをそのまま男にしたような外見。胸に詰め物をすれば見分けがつかなくなりそうな程に似ているのにジャスティンを敵視している。
「シェリー! 私に黙って結婚など何事だ!」
 最短距離を選んだと言わんばかりに壁を突き破って現れたのはシャロンとよく似た彼女の兄。ジョバンニだ。
「今眠っている。寝かせてやってくれ」
「……私の妹を投獄した愚か者が! なぜそんな奴に嫁入りするんだ! 昔から少し……いやかなりズレていて頭の弱い部分があるとは思っていたが……私は認めないぞ!」
 シャロンと同じ顔で、そのくせに表情が豊か。
 正直何度か欲情してしまったことがあるジャスティンの黒歴史。
 医学を学ぶために異国へ行ってくれた時には安堵したくらいだ。
 声は全く似ていない。が、シャロンに罵られるところを想像しやすくなるせいか、妄想が捗ってしまう。
「……お前、そういう趣味があるのか?」
 心を見透かしたかのように、呆れた視線を向けるスティーブン。
「う、うるさい。俺はどんなシャロンであろうと好みなんだ」
 そう。あくまでシャロンが好みだ。
 ジャスティンは必死に心の中で弁明する。
「私がどれほどシェリーの花嫁姿を楽しみにしていたか……」
 恨めしそうな目で睨むジョバンニにジャスティンは後ずさる。
 こいつもカラミティーの系譜だ。下手をすれば殺される。シャロンと同じ顔に殺される。どうせならシャロンに殺されたい。
「挙式はまだだ」
 スティーブンが冷静に答えた。
「は?」
「彼女はまだ花嫁衣装を着ていない」
 ジョバンニは信じられないとスティーブンを見るが、数回瞬きをして、それから溜息を吐く。
「なんだ。結婚式には間に合ったのか」
 どうやら結婚自体に反対するつもりはなかったらしい。
「結婚式には必ず招待する。その……諸事情で先に書類を仕上げただけだ」
 シャロンを不安にさせないという理由としては目的を果たせなかったが。
「待て、お前がシェリーを投獄したという話を耳にしたぞ?」
 ジョバンニは優秀なのか馬鹿なのかわからないほど話があちこちに飛ぶ。たぶん他人の話は半分くらいしか聞いていないのだろう。独自の世界で生きている。
「あー……邪魔者を始末するために一芝居付き合ってもらった。そして、今日、大方片付いた」
 決して自分の過失ではないと、あくまで策の内であったと主張し、誤魔化そうと試みる。
 一瞬、疑いの目を向けられ、殺されるかも知れないと覚悟をする。
 が、ちらりとシャロンに視線を向け、溜息を吐く。
「……シェリーが選んだのであれば私はなにも言わない……ああ。シェリーの幸せが一番だ」
 ジョバンニは妹に接近し、そっと頭を撫でる。
「手が早過ぎるだのいろいろ気になるところはあるけれど……シェリーが許したのなら許す」
 シャロンと同じ顔。
 けれども表情は全く違う。どこか寂しそうで、少し触れれば泣き出してしまいそうなほどの緊張感がある。
「私は先に帰るが、必ずシェリーを家に送り届けろ」
 土産がたくさんあるのだと無理に明るく振る舞おうとする声が痛ましくさえ感じられてしまう。
 一方的に告げ、壊された壁から外へ出て行く後ろ姿を眺める。
「……修理より建て直した方が安くつきそうだな……」
 今日一日でどれだけの損害が出たのだろう。
 考えたくない。
 しかし、シャロンと生きるということは、この先もこういったことが多々あるのだろう。
 兄があれだけ騒いでいたというのに、静かな寝息を立てるシャロンを眺める。
 シャロンさえいれば他はどうなっても構わない。
「エイミーにシャロンの着替えを用意させろ」
 体も清めてやらないと。
 スティーブンに使用人を捕まえさせ、必要な物だけ用意させる。
 これだけ騒がしくても目を覚まさないシャロンに少しだけ呆れつつ、やはり普段大人しくしているせいか暴れると肉体に負担が大きいのだろうなと思う。
 シャロンが暴れる必要がないように。できる限り彼女が穏やかに過ごせる環境を作ろう。
 そう、誓い、そっと額に口づけを落とした。




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