42 / 47
ジャスティン 7 誤算 4
しおりを挟む屈辱だ。
シャロンに負けた気がする。
腹いせに意識が飛ぶまで口の中を犯し尽くしてやったが気が治まらない。
そもそも最初からシャロンに勝てるはずがないのだ。
ぐったりと倒れるように眠るシャロンの着衣はすっかり汚してしまった。着替えさせてやらないとと思うが、人を呼ぶのを躊躇う。
こんなシャロンを誰にも見せたくない。
そう思ったが、放っておいてくれない奴というのは必ず現れる。
「おい、カラミティー侯爵令息の上の方が妹を探しているぞ」
扉越しに不遜な態度。間違いなくスティーブンだ。
それにしてもアレクシスをカラミティー侯爵令息の上の方だなんて表現するのがおかしい。
「長男か? 次男か?」
「上と言えば長男だろう?」
呆れた声が返ってくるがシャロンの兄は三人いる。
そして、その三人目がまた面倒くさい。
「次男は目を覚ましたのか?」
「兄が担ぎ上げて回収したところだ」
その様子が目に浮かんでしまう。
出来れば三男が現れないうちに全てを片付けたいものだと思いつつも、外が騒がしいことからそれは絶望的だと理解した。
「敵襲?」
スティーブンが戦闘態勢に入ろうとする。
「気にするな。カラミティー侯爵家の三男だ」
帰ってくるらしいとは聞いていた。わざわざ他国での仕事を放り出して。
あの妹を溺愛しすぎる男は性格だけでも面倒くさいのに最大の問題はその容姿だ。
シャロンをそのまま男にしたような外見。胸に詰め物をすれば見分けがつかなくなりそうな程に似ているのにジャスティンを敵視している。
「シェリー! 私に黙って結婚など何事だ!」
最短距離を選んだと言わんばかりに壁を突き破って現れたのはシャロンとよく似た彼女の兄。ジョバンニだ。
「今眠っている。寝かせてやってくれ」
「……私の妹を投獄した愚か者が! なぜそんな奴に嫁入りするんだ! 昔から少し……いやかなりズレていて頭の弱い部分があるとは思っていたが……私は認めないぞ!」
シャロンと同じ顔で、そのくせに表情が豊か。
正直何度か欲情してしまったことがあるジャスティンの黒歴史。
医学を学ぶために異国へ行ってくれた時には安堵したくらいだ。
声は全く似ていない。が、シャロンに罵られるところを想像しやすくなるせいか、妄想が捗ってしまう。
「……お前、そういう趣味があるのか?」
心を見透かしたかのように、呆れた視線を向けるスティーブン。
「う、うるさい。俺はどんなシャロンであろうと好みなんだ」
そう。あくまでシャロンが好みだ。
ジャスティンは必死に心の中で弁明する。
「私がどれほどシェリーの花嫁姿を楽しみにしていたか……」
恨めしそうな目で睨むジョバンニにジャスティンは後ずさる。
こいつもカラミティーの系譜だ。下手をすれば殺される。シャロンと同じ顔に殺される。どうせならシャロンに殺されたい。
「挙式はまだだ」
スティーブンが冷静に答えた。
「は?」
「彼女はまだ花嫁衣装を着ていない」
ジョバンニは信じられないとスティーブンを見るが、数回瞬きをして、それから溜息を吐く。
「なんだ。結婚式には間に合ったのか」
どうやら結婚自体に反対するつもりはなかったらしい。
「結婚式には必ず招待する。その……諸事情で先に書類を仕上げただけだ」
シャロンを不安にさせないという理由としては目的を果たせなかったが。
「待て、お前がシェリーを投獄したという話を耳にしたぞ?」
ジョバンニは優秀なのか馬鹿なのかわからないほど話があちこちに飛ぶ。たぶん他人の話は半分くらいしか聞いていないのだろう。独自の世界で生きている。
「あー……邪魔者を始末するために一芝居付き合ってもらった。そして、今日、大方片付いた」
決して自分の過失ではないと、あくまで策の内であったと主張し、誤魔化そうと試みる。
一瞬、疑いの目を向けられ、殺されるかも知れないと覚悟をする。
が、ちらりとシャロンに視線を向け、溜息を吐く。
「……シェリーが選んだのであれば私はなにも言わない……ああ。シェリーの幸せが一番だ」
ジョバンニは妹に接近し、そっと頭を撫でる。
「手が早過ぎるだのいろいろ気になるところはあるけれど……シェリーが許したのなら許す」
シャロンと同じ顔。
けれども表情は全く違う。どこか寂しそうで、少し触れれば泣き出してしまいそうなほどの緊張感がある。
「私は先に帰るが、必ずシェリーを家に送り届けろ」
土産がたくさんあるのだと無理に明るく振る舞おうとする声が痛ましくさえ感じられてしまう。
一方的に告げ、壊された壁から外へ出て行く後ろ姿を眺める。
「……修理より建て直した方が安くつきそうだな……」
今日一日でどれだけの損害が出たのだろう。
考えたくない。
しかし、シャロンと生きるということは、この先もこういったことが多々あるのだろう。
兄があれだけ騒いでいたというのに、静かな寝息を立てるシャロンを眺める。
シャロンさえいれば他はどうなっても構わない。
「エイミーにシャロンの着替えを用意させろ」
体も清めてやらないと。
スティーブンに使用人を捕まえさせ、必要な物だけ用意させる。
これだけ騒がしくても目を覚まさないシャロンに少しだけ呆れつつ、やはり普段大人しくしているせいか暴れると肉体に負担が大きいのだろうなと思う。
シャロンが暴れる必要がないように。できる限り彼女が穏やかに過ごせる環境を作ろう。
そう、誓い、そっと額に口づけを落とした。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる