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ジャスティン 7 誤算 2
しおりを挟むお茶にしようだなんてただの口実だ。シャロンをあの場から離したかった。
シャロンの本性がアレクシスと大差ないことが広まってくれる分にはシャロンに手出しをしようなんて考える愚か者を削減するためにも有効だとは思う。けれども、シャロンが見世物になるのは嫌だ。
なにより、シャロンを独占したい。
用意させた部屋の長椅子にシャロンを下ろし、一応口実に使ったカスタードパイを切り分ける。
「大丈夫か?」
やはり暴れた反動か、眠たそうな様子のシャロンを支えると、彼女はとろんとした瞳を向けた。
「はい。少し眠いだけで……」
「そうか。その、悪かった。お前にちゃんと事情を説明しないで」
シャロンを利用した。
コートニー・テンペストはジャスティンが想像していたよりもずっとおめでたい頭をしていたが、それでもテンペスト侯爵家を衰退させるには十分な成果があるだろう。
「お前、芝居とか苦手そうだと思ってなにも言わなかったんだ。まさか……ジェフリーまで吹き飛ばすとは思わなかったぞ」
てっきり兄で慣れているから平気だろうと思っていたのに妹には弱かったらしい。随分とあっさり吹き飛ばされていたように思える。
「あの、兄は無事でしょうか?」
シャロンは自分がしでかしたことがとんでもないことだったとでも言いたげに、不安そうな瞳を揺らす。
「安心しろ。カラミティー侯爵家の男は丈夫だ」
ジェフリーはアレクシスで慣れているだろう。まあ、骨のいくつかは折れているかもしれないが。
「少し手を払うだけのつもりだったのに……あんなに吹き飛んでしまうなんて思いませんでした。まさか、兄が羽根のように軽いなんて……」
「……いや、平均よりは重いぞ?」
シャロンは勉強は出来るくせにこういう肝心なときにズレた返答をする。普段であればかわいいと言ってしまえるが、今回はかわいいで済まされない。
もし、ジャスティンがあの立場なら、死んでいた。即死だったかもしれない。
もう絶対に浮気を疑われるようなことはしないでおこう。シャロンに殺人なんてさせたくない。いや、シャロンに殺されるのであれば本望か?
僅かな葛藤を抱きながらシャロンの隣に腰を下ろす。
「シャロン、長い間不安にさせて悪かった。本当はお前に会いたかった。けど……アレクシスの妨害が酷くてな……」
協力しろとは言った。協力させている手前あまり強くも出られない。
しかし、アレクシスのあれは半分以上嫌がらせだったのではないかと思う。
「あいつらを罠にかけるためにはシャロンも騙さなくてはいけないと……あいつ、俺が書き終わったばかりの手紙を目の前で燃やしたんだぞ? 信じられるか?」
シャロンの兄でなければ殺していた。
しかし、アレクシスの目には弱い。シャロンと少しだけ似ているのだ。
「……兄らしいと言えばらしいですね」
シャロンは困ったように笑う。
こうやって表情の変化を見せてくれるようになっただけでも喜ぶべきなのだろうと思う。けれども、ジャスティンはそれだけでは満足出来ない。
「シャロン、不満や不安も全部聞かせて欲しい。俺は、お前の感情が読めないから、言葉で伝えて欲しい。勿論、俺も……その……できる限り言葉にしていく、つもりだ……」
時々言葉よりも先に体が動いてしまうのは許して欲しい。
「……殿下」
シャロンの白い手が伸びる。
頬に触れた手は、少し冷たい。
両手で頬を包まれ、それから覚悟したよりも強い力で引き寄せられた。
唇に柔らかい感触。
熱が奪われていくような錯覚に陥った。
もっと、と求める様に、唇を啄まれる。そのたびに、シャロンの口から甘い音が漏れているようだった。
相当寂しい思いをさせたのだろうか。随分と積極的だと思う。
腕を掴み、抱きしめて乱暴な口づけを返せばシャロンの体がびくりと跳ねた。
蕩けきった表情で、もっととねだる視線。
「……お前……今すごい顔してるぞ」
こんな表情、他の誰にも見せてやるものか。
「れんかぁ……もっろ……もっろくらひゃい……」
呂律が回らないくせに頭の後ろに回す大胆な手。
そんな風にねだられて、断るはずなんてない。
呼吸を奪い合うように何度も口づけを交わす。
舌先を絡め、互いの唾液を貪る度にシャロンの体がガクガクと震えるのを感じた。
もっと欲しい。
そう求めるのはジャスティンだけではない。
首の後ろに回された細い両腕が、力強く捕らえる。
「らめ……逃がしてあげない……」
蕩けきった瞳で。それなのに貪欲に捕らえようとする。
「馬鹿……俺の台詞だ」
ここまで求められたら応えないわけにはいかないだろう。
深く口づけながらドレスをまさぐる。
シャロンからは全く抵抗を感じなかった。
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