34 / 47
ジャスティン 6 夢ではない 3
しおりを挟むもう一つの問題、クラウド伯爵だ。
クラウド夫人の悪事を完全に棚に上げて、シャロンが壊した屋敷の修繕費と夫人及び使用人達の治療費、慰謝料等損害賠償請求してきた。
なんて図々しい奴だ。
実際のところ賠償金を取ろうなんて考えてはいないだろうが、別の問題から目を逸らすためにふっかけてきているように思える。
それにコートニー・テンペストだ。
エイミーに集めさせた情報によると、あの女はジャスティンからたくさん贈り物を受け取っていると方々に言いふらしていたらしい。それに加え、ジャスティンのやらかしだ。公衆の面前でシャロンを投獄なんて……余計に悪い噂が加速するに決まっている。
シャロンには悪いがこの状況を利用させてもらおう。
そのためには、アレクシスの協力も必要だ。
「……ジェフリー、今日、アレクシスの機嫌はどうだった?」
「すこぶる悪いけどいつも通りだよ」
「それは最悪という意味ではないのか?」
機嫌がよすぎても恐ろしいが、アレクシスの機嫌は良いに越したことはない。
「スティーブンとの相性は悪くないか?」
「んー、シャロンは彼と結構合ってると思うよ。怯えたりしてないから。でも兄さんはどうだろう? とりあえず妹の側に美形が居るのが気に入らないって感じかな?」
その一言で、スティーブンをシャロンの側に置いたことを後悔する。
「まさかあいつ、俺のシャロンに妙な事していないだろうな?」
「そんなことがあればシャロンが自力で撃退するよ」
あの怪力を見たでしょうとジェフリーは欠伸をかみころしながら言う。
珍しい。いつでもしっかり睡眠をとっていそうなくせに、寝不足のようだ。
「まあ、アレクシスの血縁だということは理解した。が、あの後どうだ? 体調を崩したりはしていないか?」
今まであんなに暴れることはなかったからその反動で体調を崩してしまっていないかと不安になる。
「うーん、すごく眠いみたいで、珍しくお昼寝してたな。僕はあんまり暴れないからよくわかんないけど、兄さんも玉座を壊した日は結構長く寝てたから、暴れすぎると疲れちゃうんだろうね」
笑い事のように自分は大人しいいい子だと言いたいらしいがジェフリーもカラミティー侯爵家の人間で、あの二人の血縁者だ。
三人揃って暴れれば国が滅びるのではないかと考え、ジャスティンは必死にその思考を振り払った。
「それにしても、シャロンは本当に耳飾りひとつの為にあそこまで暴れたのか?」
「さあ? でも、クラウド夫人に疑問を抱いたみたいだし、あのお嬢さんを見てから様子がおかしかったから、いろいろ考えすぎた結果じゃないかな?」
思慮深いと言えば聞こえがいいが、大抵余計なことばかり考えてうじうじするのがシャロンだ。自己肯定感が低く、争うよりも折れてしまう。
「ま、本人に訊けば、きっと可愛らしく『やきもち』なんて言うのだろうな」
時々。本当に時々だが、シャロンの執着を感じる。
ジャスティンが向けるように常時ではない。けれども時々、本人も無意識なのだろう。ふとした瞬間に強い執着を見せる。
少し前のシャロンなら、ジャスティンが妾を持つと宣言したところであっさりと受け入れただろう。
いや、受け入れるふりをするだけだったかもしれない。
聞き分けよく、妥協する。
それがシャロンだった。
そんなシャロンが独占したいとまで口にしてくれるようになったことを喜ばずにはいられない。
問題は、その感情で暴走することだろう。きっとこの先も、ふとしたきっかけで彼女は暴走する。
アレクシスのような意図的なものではないだろう。
「殿下ってさ、性格悪いよね」
じっとジャスティンを見つめ、ジェフリーが言う。
「仮にも自国の王子に面と向かって言う言葉か?」
「だって事実でしょ? シャロンがどこまで許してくれるのか常に試したがってるっていうか……愛されてるか不安なのか、シャロンに構って欲しいって感じ。それでシャロンを苦しめて喜んでるとか性格悪いよね」
「……シャロンの兄でなければ不敬罪で投獄してやるところだぞ?」
しかし、それを事実だと受け止められる。
少し前までのジャスティンはただシャロンを試していた。
表情の変わらない彼女を揺さぶって、なんでもいいから反応が欲しいと駄々を捏ねていた。
「これからはそんなことはしない……と、言いたいが……確かに、あいつがどこまで許してくれるか試したい気持ちはあるかもしれないな」
たとえば不意打ちで抱きしめてみたり、豊満な胸に触れたり、人前で腰に腕を回したり、仕事をしたくないと駄々を捏ねてみたり。
困った顔もいい。叱ってくれたっていい。もっといろんな表情が見たい。「早くシャロンと一緒に暮らしたい……夕から朝まで密着して過ごしたい……」
「……ちょっと兄さんに全力で一発殴られて欲しいって思った。その後僕が全力で踏んであげるよ」
ジェフリーが、彼にしては珍しく冷たい視線を向ける。
本気で不快だったのだろう。
「お前、それ遠回しに俺を殺すって宣言だろ?」
「え? 直接宣言したつもりだけど」
カラミティー兄弟なら一撃ずつだとしても致命傷になるだろう。
「……まさか、今夜シャロンに会うのも禁止だとか言わないよな?」
「僕は言わないけど、兄さんは言うかもしれないね」
シャロンは会いたがっていると思うよと添えるジェフリーが憎たらしい。
きっと彼も半分くらいはジャスティンに嫌がらせをしたいのだと感じた。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。
一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。
そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。
ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。
慕ってはいても恋には至らなかった。
やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。
私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす
――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎
しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎
困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で……
えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね?
※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。
※pixivにも掲載。
8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
乙女ゲームの愛されヒロインに転生したら、ノーマルエンド後はゲームになかった隣国の英雄と過ごす溺愛新婚生活
シェルビビ
恋愛
――そんな、私がヒロインのはずでしょう!こんな事ってありえない。
攻略キャラクターが悪役令嬢とハッピーエンドになった世界に転生してしまったラウラ。断罪回避のため、聖女の力も神獣も根こそぎ奪われてしまった。記憶を思い出すのが遅すぎて、もう何も出来ることがない。
前世は貧乏だったこら今世は侯爵令嬢として静かに暮らそうと諦めたが、ゲームでは有り得なかった魔族の侵略が始まってしまう。隣国と同盟を結ぶために、英雄アージェスの花嫁として嫁ぐことが強制決定してしまった。
英雄アージェスは平民上がりの伯爵で、性格は気性が荒く冷血だともっぱらの噂だった。
冷遇される日々を過ごすのかと思っていたら、待遇が思った以上によく肩透かしを食らう。持ち前の明るい前向きな性格とポジティブ思考で楽しく毎日を過ごすラウラ。
アージェスはラウラに惚れていて、大型わんこのように懐いている。
一方その頃、ヒロインに成り替わった悪役令嬢は……。
乙女ゲームが悪役令嬢に攻略後のヒロインは一体どうなってしまうのか。
ヒロインの立場を奪われたけれど幸せなラウラと少し執着が強いアージェスの物語
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ヒョロガリ殿下を逞しく育てたのでお暇させていただきます!
冬見 六花
恋愛
突如自分がいる世界が前世で読んだ異世界恋愛小説の中だと気づいたエリシア。婚約者である王太子殿下と自分が死ぬ運命から逃れるため、ガリガリに痩せ細っている殿下に「逞しい体になるため鍛えてほしい」とお願いし、異世界から来る筋肉好きヒロインを迎える準備をして自分はお暇させてもらおうとするのだが……――――もちろん逃げられるわけがなかったお話。
【無自覚ヤンデレ煽りなヒロイン ✖️ ヒロインのためだけに体を鍛えたヒロイン絶対マンの腹黒ヒーロー】
ゆるゆるな世界設定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
束縛婚
水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。
清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる