奪われたはずの婚約者に激しく求められています?

ROSE

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ジャスティン 6 夢ではない 3

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 もう一つの問題、クラウド伯爵だ。
 クラウド夫人の悪事を完全に棚に上げて、シャロンが壊した屋敷の修繕費と夫人及び使用人達の治療費、慰謝料等損害賠償請求してきた。
 なんて図々しい奴だ。
 実際のところ賠償金を取ろうなんて考えてはいないだろうが、別の問題から目を逸らすためにふっかけてきているように思える。
 それにコートニー・テンペストだ。
 エイミーに集めさせた情報によると、あの女はジャスティンからたくさん贈り物を受け取っていると方々に言いふらしていたらしい。それに加え、ジャスティンのやらかしだ。公衆の面前でシャロンを投獄なんて……余計に悪い噂が加速するに決まっている。
 シャロンには悪いがこの状況を利用させてもらおう。
 そのためには、アレクシスの協力も必要だ。
「……ジェフリー、今日、アレクシスの機嫌はどうだった?」
「すこぶる悪いけどいつも通りだよ」
「それは最悪という意味ではないのか?」
 機嫌がよすぎても恐ろしいが、アレクシスの機嫌は良いに越したことはない。
「スティーブンとの相性は悪くないか?」
「んー、シャロンは彼と結構合ってると思うよ。怯えたりしてないから。でも兄さんはどうだろう? とりあえず妹の側に美形が居るのが気に入らないって感じかな?」
 その一言で、スティーブンをシャロンの側に置いたことを後悔する。
「まさかあいつ、俺のシャロンに妙な事していないだろうな?」
「そんなことがあればシャロンが自力で撃退するよ」
 あの怪力を見たでしょうとジェフリーは欠伸をかみころしながら言う。
 珍しい。いつでもしっかり睡眠をとっていそうなくせに、寝不足のようだ。
「まあ、アレクシスの血縁だということは理解した。が、あの後どうだ? 体調を崩したりはしていないか?」
 今まであんなに暴れることはなかったからその反動で体調を崩してしまっていないかと不安になる。
「うーん、すごく眠いみたいで、珍しくお昼寝してたな。僕はあんまり暴れないからよくわかんないけど、兄さんも玉座を壊した日は結構長く寝てたから、暴れすぎると疲れちゃうんだろうね」
 笑い事のように自分は大人しいいい子だと言いたいらしいがジェフリーもカラミティー侯爵家の人間で、あの二人の血縁者だ。
 三人揃って暴れれば国が滅びるのではないかと考え、ジャスティンは必死にその思考を振り払った。
「それにしても、シャロンは本当に耳飾りひとつの為にあそこまで暴れたのか?」
「さあ? でも、クラウド夫人に疑問を抱いたみたいだし、あのお嬢さんを見てから様子がおかしかったから、いろいろ考えすぎた結果じゃないかな?」
 思慮深いと言えば聞こえがいいが、大抵余計なことばかり考えてうじうじするのがシャロンだ。自己肯定感が低く、争うよりも折れてしまう。
「ま、本人に訊けば、きっと可愛らしく『やきもち』なんて言うのだろうな」
 時々。本当に時々だが、シャロンの執着を感じる。
 ジャスティンが向けるように常時ではない。けれども時々、本人も無意識なのだろう。ふとした瞬間に強い執着を見せる。
 少し前のシャロンなら、ジャスティンが妾を持つと宣言したところであっさりと受け入れただろう。
 いや、受け入れるふりをするだけだったかもしれない。
 聞き分けよく、妥協する。
 それがシャロンだった。
 そんなシャロンが独占したいとまで口にしてくれるようになったことを喜ばずにはいられない。
 問題は、その感情で暴走することだろう。きっとこの先も、ふとしたきっかけで彼女は暴走する。
 アレクシスのような意図的なものではないだろう。
「殿下ってさ、性格悪いよね」
 じっとジャスティンを見つめ、ジェフリーが言う。
「仮にも自国の王子に面と向かって言う言葉か?」
「だって事実でしょ? シャロンがどこまで許してくれるのか常に試したがってるっていうか……愛されてるか不安なのか、シャロンに構って欲しいって感じ。それでシャロンを苦しめて喜んでるとか性格悪いよね」
「……シャロンの兄でなければ不敬罪で投獄してやるところだぞ?」
 しかし、それを事実だと受け止められる。
 少し前までのジャスティンはただシャロンを試していた。
 表情の変わらない彼女を揺さぶって、なんでもいいから反応が欲しいと駄々を捏ねていた。
「これからはそんなことはしない……と、言いたいが……確かに、あいつがどこまで許してくれるか試したい気持ちはあるかもしれないな」
 たとえば不意打ちで抱きしめてみたり、豊満な胸に触れたり、人前で腰に腕を回したり、仕事をしたくないと駄々を捏ねてみたり。
 困った顔もいい。叱ってくれたっていい。もっといろんな表情が見たい。「早くシャロンと一緒に暮らしたい……夕から朝まで密着して過ごしたい……」
「……ちょっと兄さんに全力で一発殴られて欲しいって思った。その後僕が全力で踏んであげるよ」
 ジェフリーが、彼にしては珍しく冷たい視線を向ける。
 本気で不快だったのだろう。
「お前、それ遠回しに俺を殺すって宣言だろ?」
「え? 直接宣言したつもりだけど」
 カラミティー兄弟なら一撃ずつだとしても致命傷になるだろう。
「……まさか、今夜シャロンに会うのも禁止だとか言わないよな?」
「僕は言わないけど、兄さんは言うかもしれないね」
 シャロンは会いたがっていると思うよと添えるジェフリーが憎たらしい。
 きっと彼も半分くらいはジャスティンに嫌がらせをしたいのだと感じた。
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