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ジャスティン 4 向けられた執着 1

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 驚きすぎて心臓が止まるかと思った。

 顔を見るだけのつもりが、耐えられなくてシャロンにたくさん触れてしまった。けれども彼女は拒まない。それどころかもっとと求められているのを感じた。
 シャロンはやはり淫乱だ。
 普段は澄ました顔をしているくせに、胸の奥では淫らなことを期待している。困った女だ。
 その欲がジャスティンだけに向いてくれるのであれば大歓迎だが、これで他の男まで誘惑するようになれば手がつけられなくなるだろう。
 魔性。
 あの蕩けきった顔は誰だって誘惑してしまう。
 ジャスティンは誘惑される人間のひとりでしかないのかもしれない。
 そう思うと少し苛立った。
 だからだろう。寝ぼけているのか甘えるように体を委ねてきたシャロンに悪戯心が芽生えた。
 柔らかく、弾力のある大きな膨らみに触れれば、驚いたのか僅かに硬直したが、すぐに受け入れられる。寝ぼけだと解釈されたのならもう少し楽しんだって文句は言われないだろう。
 ふにふにと感触を楽しむと、起きていることに気づかれ、まるで子供を叱るように「もうっ」と口にするものだから、つい首筋に口づけを落とした。
 シャロンの反応ひとつひとつが興味深い。
 胸がだめなら口づけをと唇に手を伸ばせば少し慌てた様子で胸にして欲しいと言われた。
 普通は逆なのではないかと思うが、よほど口が弱いらしい。
 馬鹿だな。結局両方楽しむに決まっているのに、口の代わりに胸を犠牲にしようとする様子が滑稽にさえ思える。
 惚れた女に触れたいと思うのは普通のことだ。それが障害のある恋なら余計に燃える。
 会えない時間が執着を増幅することに誰も気がつかないのだろうか。
 いや、この執着さえも利用しようとしているのかもしれない。
 気に入らない。
 苛立ちでシャロンを傷つける前に手を止めようとした。
 メイドに見られるかもしれないなんて口実だ。見られたらそのメイドに金を握らせて口封じをするか、物理的に口を封じるかの選択を迫られるだけだ。
 もっと欲しかった。
 けれども、我慢だってできる。そう、証明したつもりだった。
 なのに。

 シャロンの細い腕が首に回った。
 いつも控えめで、他人からの評価を気にしているのか、クラウド夫人の教育に縛り付けられているのか、自分からジャスティンに触れることなど殆どない。
 それなのに、とても大胆な動きだった。
 この細い腕にそんな力があったのかと驚くほど、一瞬で引き寄せられた。
 心臓が止まるかと思った。
 噛みつくような乱暴な口づけ。
 彼女は無意識なのかもしれない。
 けれども確かに……執着を感じた。
 まるで逃がさないとでもいうように絡められる舌。
 シャロンの腰がびくりと跳ねるのを感じた。
 自分から口づけてきたくせに、蕩けきっている。
 解放されたときには自分の体さえ支えられないような状態だった。
「……お前……相当俺のことが……好きなんだな」
 驚いた。
 胸の奥が熱い。 
 出会ってから初めて、シャロンの独占欲のようなものを感じた気がした。
「……ひゃい」
 肩で息をしながら、呂律の回らない返答。
 慣れないことをするからそうなる。そんな言葉は飛び出さなかった。
 ジャスティンだって経験豊富なわけではないのだ。余計なことを口にしてまたシャロンを不安にさせたくはない。
 蕩けきった表情の、唇に触れればまた襲うように口づけをされてしまうのだろうか。
 そう考えた瞬間だった。
 扉が開く音がする。
「お嬢様、お目覚めのお時間です」
 すっきりとした香りのハーブティーを乗せたワゴンが入ってくる。
 しまった。
 シャロンはまだ蕩けきっているし、ジャスティンは完全なる不法侵入者だ。
 部屋を見渡しても、とっさに隠れられるような場所は見つからない。
「……ありがとう。外に置いて」
 シャロンはまだぼんやりとした表情でメイドに指示する。
 するとメイドの動きが止まった。
「かしこまりました」
 部屋の入り口付近で声がする。
 天蓋のおかげで姿が見えなかったのかもしれない。
 ワゴンが引き返していく音がする。
 再び扉が閉まったとき、思わず安堵の溜息が飛び出した。
「……普段からああなのか?」
「……私の口に入るものを持ってくる使用人は部屋の外に置くことに疑問を抱きません」
 シャロンはまだふわふわとした様子のくせに、なんとか起き上がろうとする。
「大丈夫か?」
「はい……ワゴンを取ってきます」
 確かに置いたままでは怪しまれる。それにジャスティンが外に出るわけにもいかない。
 ああもどかしい。
 婚約しているのにどうしてこんな風にこそこそと密会しなくてはいけないのだ。もっと堂々とシャロンを寄こせとわめき散らしてもいいはずだ。
 いや、わめき散らすのは問題か。
 ジャスティンは思い留まる。
 それでも、現状を変える必要があることは確かだ。
 ワゴンを押して戻ってくるシャロンを見る。
 軽くしたつもりが、首筋に痕が残っている。
「シャロン、痛くないか?」
 目立つだけで、痛くはないだろうが念のために確認する。
「え? あ、これですか? はい……痛くはありません」
 シャロンは慌てて髪で隠そうとする。
 あ、寝癖……。
 いつもきっちり整えているシャロンのそんな姿は新鮮だった。
 毎日、こんな無防備な姿を見たい。
 早くシャロンのものになりたい。
 おかしな表現かもしれないが、これが一番しっくりきた。
 このままシャロンを攫ってしまいたい。けれどもそれだけではだめなのだ。もっと公的に……そう、シャロンの二人の兄たちに奪い返されないだけの理由を用意しなくては。
 一番手っ取り早い方法はあれこれ理由をつけて阻止されている。だったら他の方法を探さなくては。
 考え込んでいると、ティーカップを差し出される。
「お前が飲め。お前の為に用意されたものだろう?」
「えっと……あ、毒味が必要ですね。私が一口飲んでから……」
 シャロンの唇がティーカップに触れる。
 その感覚すらシャロンには強い刺激になるらしく、彼女の体が震えるのが見えた。
 たった一口、飲み干すまでの間にシャロンの表情がぼんやりとしはじめる。お茶を飲むだけでもこうなってしまうのであれば、本当に処方薬は必要だったのかもしれない。
 半分以上残ったカップを渡される。
「毒は入っていませんのでご安心下さい」
「カラミティー侯爵家でその心配はしていない」
 渡されたカップを受け取り、口をつける。
 その場所が丁度シャロンの唇が触れた位置だと気づき、もう何度も触れあったはずなのになぜかくすぐったいような気分になった。

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