奪われたはずの婚約者に激しく求められています?

ROSE

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ジャスティン 3 想定外 2

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「あら、殿下ったら随分不機嫌ですね」
 からかうような声。
 手には一切れのパイ。
 椅子を交換していると、リンゴのパイを囓りながらからかうような視線を向けるエイミーの姿があった。
「遅い!」
 すぐにでも調べさせたいことが山ほどあるのになにをしていたんだと睨み、彼女が食べているものに気づく。
「まさか……シャロンのパイか?」
 シャロンの兄たちが散々嫌がらせのように目の前で食べていたものと形状が似ている。
「はい。作りすぎてしまって困っていると、頂きました」
 にっこり笑うその顔面を殴ってやりたい。が、シャロンに告げ口されては困るので耐える。
「俺の分は?」
「ありませんよ? これはシャロン様が私に下さったリンゴのパイですもの」
 上機嫌で、からかっている。
 なにより、でかいカゴを持っていることが気になった。
「そのカゴはなんだ?」
「やだ、王族のくせに目敏いですね」
 エイミーはカゴを背に隠すような仕草を見せる。
 それで余計にジャスティンが苛立ったことに気づいたのだろう。ふふふと笑って、カゴを差し出した。
「シャロン様お手製のミートパイです。気晴らしのしすぎで後悔したそうですわ」
「なっ……」
 籠一杯に詰められたパイ。
 切り分けられてすらいないが、確かにシャロンが作っているものだ。
 直接受け取ったことはないが、何度も見ている。間違えるはずがない。
「全部寄こせ」
「正気ですか? カラミティー侯爵家の使用人達が食べ飽きてうんざりしている品だそうですよ」
「なんて贅沢な悩みだ。シャロンの手料理が飽きるはずないだろう!」
 ジェフリーの弁当を横取りして食べたパイはいつだって美味い。
 シャロンの作るパイは冷めても美味いのだ。
 夢にまで見た大きなパイにまるごと齧り付く。
「お行儀が悪いですよ」
 エイミーの呆れた声すらどうでもよくなるほど、満たされた気分になった。
 冷め切っているが、どこか温かく感じられるのはシャロンの手製だと知っているからだろうか。
「それにしても、貴族のご令嬢の趣味が料理だなんて変わっていますね」
「まあ、シャロンが余計なことをごちゃごちゃ考えないで済むならなんでもいいだろう」
 シャロンにも気晴らしが必要だ。
 とりあえずあのクラウド夫人をどう始末するか。
「エイミー、クラウド夫人の周囲をできる限り調べろ。今までの悪事を全て、ひとつひとつ念入りに処罰してやる」
 ジャスティンが恋したかわいいシャロンを奪った罪は重い。
 幸せそうにキャンディを頬張る姿を再び見せてくれる日は訪れるのだろうか。
 大きなパイに齧り付きながら考える。
 面会の禁止はいつまでだ?
 仕事が終わるまでとは言われたが今日の分は意地で終わらせた。
「……明日の分を先に終わらせればシャロンに会いに行ってもいいのではないか?」
 最後のひとかけらを飲み込み、名案だと思う。
 今のジャスティンに必要な物はシャロンだ。シャロンが膝の上にでも乗っていてくれれば今の三倍は仕事をこなせる気がする。
「……殿下も、やる気を出せば化け物並みに仕事ができますよね」
 エイミーは呆れたように言う。
「化け物とはなんだ。化け物とは」
 シャロンと過ごす時間を確保するためなら多少の無理はするに決まっている。
「……シャロンは、俺の事をなにか言っていたか?」
 エイミーにこんなことを聞くのは癪だが、今は情報源が他にないのだから仕方がない。
「特に、は。ああ、クラウド夫人の授業がなくなったと告げると、殿下に見捨てられたのではないかと不安そうな様子でしたが……一応、誤解だとは伝えましたよ?」
「……なぜだ?」
 気持ちが通じ合ったと思ったのに、どうしてシャロンはそうも自信がないのだろう。
 いや原因はわかっている。
 クラウド夫人あの女だ。
 幼い頃からシャロンの自己肯定感を徹底的にへし折ってきた。
「……カラミティー侯爵家に行く」
「まだ面会禁止期間では?」
「今日の仕事は終わらせてある。明日の分も半分は終わっている。シャロンとお茶するくらいの時間はあるだろう? それとも? ここで俺まで仕事を辞めれば国政は大混乱に陥るのではないか?」
 過労死する役人が増えそうだがどうでもいい。
 シャロンほど優先させるものはない。
「シャロンを苦しめたくはないが……こうも妨害ばかりされては……駆け落ちか心中を選びたくもなる」
 どちらも現実的ではない。
 平民の暮らしなんて出来ないだろう。
 心中するとしたって、シャロンを手にかけられるはずがない。
 わかっている。
 けれども、父に対する脅しの一つとしては使えそうだ。
「馬の用意を」
「馬車ではなく?」
 エイミーは呆れたように言う。
「馬の方が速い」
 お前もさっさと仕事に行けと睨めば、リンゴのパイを口に放り込む。
 最後のひとかけらをじっくり味わっているような表情が気に入らない。
 ジャスティンは舌打ちして使用人を呼び、着替えの準備をさせた。




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