16 / 47
ジャスティン 3 想定外 2
しおりを挟む「あら、殿下ったら随分不機嫌ですね」
からかうような声。
手には一切れのパイ。
椅子を交換していると、リンゴのパイを囓りながらからかうような視線を向けるエイミーの姿があった。
「遅い!」
すぐにでも調べさせたいことが山ほどあるのになにをしていたんだと睨み、彼女が食べているものに気づく。
「まさか……シャロンのパイか?」
シャロンの兄たちが散々嫌がらせのように目の前で食べていたものと形状が似ている。
「はい。作りすぎてしまって困っていると、頂きました」
にっこり笑うその顔面を殴ってやりたい。が、シャロンに告げ口されては困るので耐える。
「俺の分は?」
「ありませんよ? これはシャロン様が私に下さったリンゴのパイですもの」
上機嫌で、からかっている。
なにより、でかいカゴを持っていることが気になった。
「そのカゴはなんだ?」
「やだ、王族のくせに目敏いですね」
エイミーはカゴを背に隠すような仕草を見せる。
それで余計にジャスティンが苛立ったことに気づいたのだろう。ふふふと笑って、カゴを差し出した。
「シャロン様お手製のミートパイです。気晴らしのしすぎで後悔したそうですわ」
「なっ……」
籠一杯に詰められたパイ。
切り分けられてすらいないが、確かにシャロンが作っているものだ。
直接受け取ったことはないが、何度も見ている。間違えるはずがない。
「全部寄こせ」
「正気ですか? カラミティー侯爵家の使用人達が食べ飽きてうんざりしている品だそうですよ」
「なんて贅沢な悩みだ。シャロンの手料理が飽きるはずないだろう!」
ジェフリーの弁当を横取りして食べたパイはいつだって美味い。
シャロンの作るパイは冷めても美味いのだ。
夢にまで見た大きなパイにまるごと齧り付く。
「お行儀が悪いですよ」
エイミーの呆れた声すらどうでもよくなるほど、満たされた気分になった。
冷め切っているが、どこか温かく感じられるのはシャロンの手製だと知っているからだろうか。
「それにしても、貴族のご令嬢の趣味が料理だなんて変わっていますね」
「まあ、シャロンが余計なことをごちゃごちゃ考えないで済むならなんでもいいだろう」
シャロンにも気晴らしが必要だ。
とりあえずあのクラウド夫人をどう始末するか。
「エイミー、クラウド夫人の周囲をできる限り調べろ。今までの悪事を全て、ひとつひとつ念入りに処罰してやる」
ジャスティンが恋したかわいいシャロンを奪った罪は重い。
幸せそうにキャンディを頬張る姿を再び見せてくれる日は訪れるのだろうか。
大きなパイに齧り付きながら考える。
面会の禁止はいつまでだ?
仕事が終わるまでとは言われたが今日の分は意地で終わらせた。
「……明日の分を先に終わらせればシャロンに会いに行ってもいいのではないか?」
最後のひとかけらを飲み込み、名案だと思う。
今のジャスティンに必要な物はシャロンだ。シャロンが膝の上にでも乗っていてくれれば今の三倍は仕事をこなせる気がする。
「……殿下も、やる気を出せば化け物並みに仕事ができますよね」
エイミーは呆れたように言う。
「化け物とはなんだ。化け物とは」
シャロンと過ごす時間を確保するためなら多少の無理はするに決まっている。
「……シャロンは、俺の事をなにか言っていたか?」
エイミーにこんなことを聞くのは癪だが、今は情報源が他にないのだから仕方がない。
「特に、は。ああ、クラウド夫人の授業がなくなったと告げると、殿下に見捨てられたのではないかと不安そうな様子でしたが……一応、誤解だとは伝えましたよ?」
「……なぜだ?」
気持ちが通じ合ったと思ったのに、どうしてシャロンはそうも自信がないのだろう。
いや原因はわかっている。
クラウド夫人だ。
幼い頃からシャロンの自己肯定感を徹底的にへし折ってきた。
「……カラミティー侯爵家に行く」
「まだ面会禁止期間では?」
「今日の仕事は終わらせてある。明日の分も半分は終わっている。シャロンとお茶するくらいの時間はあるだろう? それとも? ここで俺まで仕事を辞めれば国政は大混乱に陥るのではないか?」
過労死する役人が増えそうだがどうでもいい。
シャロンほど優先させるものはない。
「シャロンを苦しめたくはないが……こうも妨害ばかりされては……駆け落ちか心中を選びたくもなる」
どちらも現実的ではない。
平民の暮らしなんて出来ないだろう。
心中するとしたって、シャロンを手にかけられるはずがない。
わかっている。
けれども、父に対する脅しの一つとしては使えそうだ。
「馬の用意を」
「馬車ではなく?」
エイミーは呆れたように言う。
「馬の方が速い」
お前もさっさと仕事に行けと睨めば、リンゴのパイを口に放り込む。
最後のひとかけらをじっくり味わっているような表情が気に入らない。
ジャスティンは舌打ちして使用人を呼び、着替えの準備をさせた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる