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ジャスティン 2 新たな問題 1
しおりを挟むシャロンが突然高熱を出したことには驚いた。
なにか深刻な病で彼女を失うようなことがあればと思うと恐ろしくて堪らない。
医者にも使用人にも随分と八つ当たりをしてしまったように思える。
一晩ですっかり熱が下がったシャロンが少しでも食事を取ってくれたことに安堵すると同時に、彼女の悩みを理解し、自分の愚かさを反省した。
が、それにしてもこれは酷い。
「この痴れ者が!」
ようやくシャロンから好意伝えられたと浮かれていた。
甘えてくる彼女と密着して幸せに包まれていたと言うのに、突然開いた扉から罵声が響き、その直後、頭に強い衝撃があった。
「殿下!」
目の前のシャロンが驚いて口を覆っている。
少し景色が霞む気がした。
一体誰がこんなことを。
シャロンとの幸せな時間を邪魔しやがってと相手を睨めば、激昂した父の姿があった。
「ち、父上?」
しまった。
今回の騒動を全く父に話していなかった。
つまりジャスティンは今、国王に無断でいくつかの兵や官吏を動かし、シャロンや主治医、及びシャロンの兄たちに罪状をでっちあげている。
非常にまずい状況だ。
いや、シャロンの兄、アレクシスに関してはジャスティンの首を絞めた時点でいくらでも罪に問える。ジェフリーも兄が目の前で王子の首を絞めたのに止めなかったという理由で罪に問える。
が、シャロンに関する部分と、エイミーを使ったあの騒動は叱られても仕方がない。
「お前はなんてことをしてくれたんだ」
父がわなわなと震えている。こんな姿を見たのは初めてかもしれない。
「父上が、いつまでもシャロンとの結婚を認めてくれないからいけないのです。いつも結婚をちらつかせて面倒な仕事を押しつけてきたくせに、達成しても認めなかったではありませんか」
「そんなことはどうでもいい! なぜアレクシスを怒らせた!」
ジャスティンは耳を疑う。
父が激昂する理由はそこなのか。
「宰相が半殺しに遭っただけではない……地下牢の檻と壁を壊し、ついでに自分の利き手まで壊した……これがどれほど大変なことか理解出来るか?」
「……いや、壊したのは私の責任では……」
血の気が引いていく。
なんてことだ。
アレクシスは気に入らない男だがとにかく仕事は出来る。
一見紳士なくせに喧嘩っ早い性格と武官一束を一人で倒せるだけの格闘技能、なにより呆れるほどの怪力で文具から家具まで破壊してしまう問題を全て差し引いても宰相補佐として十五人分は一人で仕事が出来るほど処理能力が高い。
さらに、宰相もいつ死んでも構わないと思えるほど気に入らない性格だがとにかく仕事は出来る。つまり、彼に死なれると国政が数年混乱に陥りそうな程の問題が生じる。
「……アレクシスの壊れた腕の代わりにお前が仕事をしろ」
「……いや、あれは真似できませんよ」
ジャスティンだって決して仕事が出来ないわけではない。
シャロンと過ごす時間を確保するために終わらせられる仕事は終わらしてあったし、今日だってシャロンの様子を見に来るまでには仕事を一通り終わらせてきた。
それでも。アレクシスの速度は真似できない。あらゆる方面で化け物だ。
「えっと……兄が怪我をしたのでしょうか?」
シャロンは状況が読めないと問う。
「あ、ああ……その……利き手を骨折してしまってだな……」
少し困った表情を見せたシャロンに、父が落ち着いていくのを見てジャスティンも安堵する。
やはりシャロンには癒やし効果がある。
元々父もシャロンには甘いのだ。彼女が娘になることを望んでいる。
だったら早く結婚の許可を出せばいいのに。
いつもそう思うが、やはりジャスティンがシャロンに夢中になりすぎて仕事をしなくなることを危惧しているのだろう。
まさか。
シャロンの前では格好つけたいのだから仕事は完璧に終わらせるに決まっている。
けれど、仕事をサボって小言を貰うのも悪くない気がする。
いや、もう試さないと約束したのだからそれはなしだ。
アレクシスは一月程ペンを握ることの出来ない生活になるらしい。
喧嘩っ早いあの性格だ。その間にも手が出て怪我を悪化させないだろうかと不安になる。
たぶんシャロンも同じ不安を抱いたのだろう。
「あの、兄の様子を見に行ってもよろしいでしょうか?」
遠慮がちにジャスティンに確認するのは、まだ自分が罪人だとでも思い込んでいるからだろうか。
そんな彼女を愛おしく思うと同時に気に入らないあの兄に嫉妬する。
わざとなのではないだろうか。
父を怒らせるためにわざと自分の手を犠牲にしたのではないだろうか。
あわよくばシャロンの看護を受けたいと思っているに違いない。
腹は立つ。
けれどもシャロンは家族を大切に思っているのだ。
ここで反対しては器の小さい男だと思われる。
ジャスティンは断腸の思いでそれを許可するしかなかった。
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