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シャロン2 不器用な人 1
しおりを挟む乱暴な殿下は恐ろしかったけれど、それでも優しかった。
とても酷いことをされたとは思う。頭では、彼はとても酷い人だと思うのに、シャロンはそれを受け入れてしまっている。
そもそも彼は我が国の王子なのだ。国民である以上、シャロンには彼の求婚を拒むことなんてできない。婚約がある以上彼の妻になる道しかない。
酷いことをしたのは彼の方なのに、彼の方が思い詰めた表情をしていた。責めることなんてできない。もう、気の済むようにさせた方がいい。そう思うのは、いつも彼のわがままに振り回されてきたせいかもしれない。
困った殿下。けれどもシャロンは彼を嫌うことができない。
なにより……粗相をしてしまったシャロンのその後始末をしてくれたのは彼だ。とても恥ずかしいところを見られたのに、意地悪を言いながらも処理をしてくれた。
「殿下、流石にこれは……」
現状を受け入れられない。
「お前の身の回りの世話は全て俺がしてやると言ってやる。化粧もメイドで練習したからそれなりにできるはずだぞ」
しっかりと、練習したと胸を張った直後にしまったという顔を見せる彼は本当に少年のようだ。
わがままで、口は悪いけれど根は真面目で努力家だ。けれど、人に努力を見せたくないからか余計にきつい言葉が増える。
「だ、大体……その痕をメイドに見せるわけにもいかないだろ……」
彼に言われ、途端に恥ずかしくなる。体のあちこちに噛みつかれた痕が、それはもう、歯形が特定できてしまうほどにくっきりと浮かんでいた。
「その……酷くしてなんて言われたら……止まらなくなるに決まっているだろう」
恥ずかしそうに言う姿に少し驚く。彼でも恥じらうということがあるのか。
「お前、今ものすごく失礼なことを考えただろう」
「まだなにも申し上げていません」
「くそっ……その顔止めろ。俺の前ではその澄ました顔を作るな」
彼は不機嫌にそう言って湯船に沈められたままのシャロンの髪を桶の中に浸す。一国の王子がすることではない。それなのに、彼は今、シャロンの入浴の世話をしている。
「髪、痛くないか? 少し引っ張ってしまっただろう?」
「いいえ。殿下はとても……優しかったので……」
痛むのは、ヒールを脱ごうと失敗して怪我をしてしまった足と、手枷の痕、あとは乱暴に責められた中くらいだ。まだ腹部に鈍い痛みが残っているけれど、なぜかその痛みがとても愛おしい。
「肩も少し擦り剥いているな……ドレスを全て切り裂いたのは問題だった……怪我をさせるつもりはなかったんだ」
「大丈夫です。少しですし、自分で蹴ってしまった足の方が痛みます」
気付かないうちに強く蹴ってしまっていたらしい。少し腫れてきている。
「足は、温めない方がいい。右足は湯に浸けるな」
「殿下、あとは自分でしますから……やっぱりまだ、明るいところで肌を見られるのは恥ずかしいです……」
「慣れろ」
無茶を言う。彼が心配してくれていることはとてもよくわかるし、愛されていると実感してはいる。
けれども、少し行き過ぎだ。
とても丁寧に頭を洗われる。頭皮への刺激がとても心地よく、そのまま眠ってしまいそうだ。
「シャロン、寝るな。今洗い流すからもう少し待て」
風呂で寝たら危ないぞと心配する声。
けれどもすごく眠い。なんというか、全身が気怠い感じがした。
髪にお湯が掛けられ、洗い流されているのはわかる。丁寧に髪を拭かれ、そして、ぐわりと全身がぐらつく。抱えられたと理解するまで少し時間が掛かった。
「疲れているのはわかるが、なにも食べてないだろう? 少しでいいからなにか口にしてくれ」
声は耳に入ってくる。けれどもとても眠い。湯船に浸かった体が温まったせいか、あの暗い地下から出してもらえたことに安心したのか、とにかく強い眠気が瞼を重くする。
「シャロン?」
とても疲れているからだろう。それにお湯に浸かって体がとても温まった。だからだ。シャロンは強い眠気に抗うことができない。
そして気がついたときにはお湯の中に沈みそうになっていた。
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