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18 求職活動
しおりを挟む求職活動は上手くいっていない。
アンバーは自分が軽々する会社で雇おうかと提案してくれたけれど、ダニエルはそれを丁重に断った。アンバーとの間に雇用契約書はなしにしたいのだ。
うっかり系列会社の面接へ挑もうとしてしまったこともあったけれど、デラが親切にそれを教えてくれたおかげで阻止できた。
忖度も要らない。過剰な待遇もお断りだ。
「……ダニーって、結構頑固だよね」
不貞腐れたアンバーがダニエルの肩に顎を乗せて言う。
今日は居間の肘掛けで新聞に掲載された求人情報に目を通していたところだ。アンバーにとってはそれすら不満らしい。
「僕は君と対等な友人になりたいからね。そうじゃないと、僕は先に進めないんだ。わかって欲しい」
真剣なんだとアピールするため求人情報に視線を向けたまま言うと、ひょいと新聞を奪われてしまう。
「ダニーがどうしても僕のところで働きたくないって言うなら……ジャスパーが背が高くてハイヒールで歩けるモデル兼スタッフを募集してるんだけど、彼の店で働くのはどう? ダニーなら背も高いし、ハイヒールで歩ける。それに裏方の力仕事も、メイクもできるでしょ?」
少し掠れた明るい声で話そうとするアンバーにまたかと思ってしまう。彼はどうしてもダニエルを自分の目の届く範囲に置きたがっているようだ。
「あそこは君が支援している店だろう?」
「あくまで支援だけだよ。経営には口出ししていないし、僕はジャスパーの仕立てる服が好きだから出資してるだけ」
アンバーはそう言うけれど、ダニエルはどうしても素直に頷くことができない。
「ダニー、僕はこれ以上妥協できないよ。君が変な勤め先で不幸な目に遭わないか心配なんだ。ダニーは人が良すぎるからね。悪い人に騙されないか心配なんだよ」
「僕は君にそこまで心配されるほど子供に見えるかな?」
想像以上に冷たい声が出た。ダニエル自身そのことに驚き、アンバーを見れば彼は傷ついたような表情を見せる。
「……ごめん。そういうつもりじゃないんだ……でも……君が傷つくところは見たくないから……」
俯く姿に、泣いてしまわないか心配になる。
傷つけてしまった。
大切な友人を。心配してくれている友人を。
「僕の方こそごめん。少し感傷的になっていたんだ。僕だって一人前になりたい。だから、アンバー、君は見守る程度にして欲しいと思ってる」
大切だからこそ、本音も話すべきだ。
ダニエルはできる限り言葉を選んで自分の気持ちを伝えようとした。
「……わかったよ。でも、ジャスパーが人を探しているのは本当だ。その、嫌でなかったら面接だけでも行ってくれない? 僕も、ジャスパーに紹介するなら信用出来る人じゃないと」
アンバーは善意でそう言ってくれているのだとダニエルも理解している。
妙に意地を張ってしまったのだ。そして、申し訳なさそうな様子のアンバーに胸が痛む。
「うん……彼なら悪い人じゃなさそうだし……そうだね。面接だとまた雰囲気が違うかも知れないから……一度行ってみるよ」
社交辞令ではない。実際、仕事の内容には興味がある。
詐欺に遭う前のダニエルであれば力仕事や裏方作業が含まれている時点で選択肢から除外しただろうが、屋敷の仕事を楽しんだ今なら過去の自分の愚かしさを理解出来ている。
「そうだね。肝心なのはダニーとの相性だからね。その……上手くいくことを祈ってるよ」
アンバーは少しだけ居心地が悪そうにそう言い残して立ち去ってしまった。
彼は詳しい雇用条件の話などは全くしていなかったけれど、勤め先として薦めてくれたくらいだ。たぶん条件も相当いいはずだ。
とりあえず、履歴書くらいは書いておこう。
面接の日程も決まらないまま、ダニエルは新しい履歴書を書き始めることにした。
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