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きょうもにぼしをおおもうけ!
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天井に頭をぶつけそうな目覚めにもすっかりと慣れた。
水で顔を洗って、作務衣に着替え、だいぶ目線の低い上司、たいやきさんと一緒に朝食。
あ、かつおぶしごはん……。
「たいしょうさんがね、さきちゃんこれすきだっておべんとうばこにつめてくれたんだ」
さっき七輪で温めたよと、ほかほかのかつおぶしごはんが食卓に並ぶ。
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
結局、たいやきさんのばしょで過ごす時間が長い。
私の「ばしょ」は田中邸に似すぎているせいで、田中さんのところに居候させてもらっている感が強いし、たいやきさんと過ごすことに慣れすぎて、押し入れの上段がすっかりと落ち着く場所になってしまったのだ。
「きょうはね、いいまぐろがはいったよ!」
大将猫と探偵猫が買いに来てくれるはずだとうきうきしているたいやきさんがかわいい。
癒やし系上司。一生たいやきさんのところで働きたい。
開店準備で箒をぱたぱた動かしていると、今日もお洒落な帽子を被った探偵猫が一番乗りしてくれた。
「おはよう、さきちゃん」
「あ、おはようございます」
まぐろかな? と準備をしようと思ったけれど、彼の首を見て驚く。
「あ、首輪……」
こっちの世界で付けている猫はいないのに。
「まいごさがしはわたしのしごとだというのにね? たくやさんがどうしてもと」
困った人間さんだねと笑う。
むむっ、首輪に書く連絡先は私にするべきではないだろうか。
確かにおはぎさんは田中さんの飼い猫だけど、今は私の……。
無言で探偵猫を抱きかかえる。
「うわっ」
驚いたらしく、悲鳴を上げられたけれど、それを無視して首輪を確認した。
おはぎ オス
ワクチン接種済み
飼い主 田中卓也
緊急連絡先 岬早希
ついでに住所と電話番号までよくこんなに小さなプレートに収めきったなという情報量が詰まっていた。
「これ……」
「さきちゃんのぶんもって……」
帽子の中から小さな箱が出てくる。
「は? 私も首輪?」
なに考えてるんだあのへたれは。
そう思ったけれど、首輪と似たデザインのブレスレットだった。
岬早希
雇い主 たいやき、田中卓也
血液型と緊急連絡先に田中さんと大志の電話番号が記されている。
なにを考えているんだ本当に。
「にんげんさんのせかいにもこれとおなじものをよういしたって」
「……なるほど?」
「たくやさんはかほごだからね」
私たちは常にこの個人情報の塊を付けて歩かなくてはいけないのか。
「私、成人済みなんだけどな……」
まるで未成年を預かったかのような扱いを受けている気がする。
「……たくやさん、さきちゃんのことははんぶんねこだとおもっているからね」
「え?」
なんてことだ。
いや、でももう猫の女神を崇めているようなものだし、半分猫界の住人だから間違ってはいない?
「でも、田中さんに買われた覚えはありませんよ。後でお風呂借りに行くときに文句言っておきますね」
「……ほどほどにしてあげて。たくやさんはせんさいだから」
早希ちゃんは結構気が強いところがあるんだねと困ったように笑う探偵猫に溜息が出る。
一応私の……彼氏ってことになっているんだよね? この猫。
「きかない女は嫌いですか?」
「うーん、さきちゃんだったらすてきにみえる、かな?」
あの押しかけ助手さんみたいな乱暴な子は苦手だとフォローを入れる探偵猫に少しだけ腹が立つ。
「……暇だったら売り子手伝ってください。きょうはすっごいまぐろが入ったので忙しいはずです」
「うん。あ、でもわたしのぶんまでうらないでおくれよ? さきにしはらっておこう」
やっぱりまぐろを買いに来たのか。
「はいはい、あさいちばんのおきゃくさん! いいばしょえらんでいいよ。どこがいいかな? こことかすっごくおにくみたいだよ!」
まぐろを買ってくれると聞きつけたたいやきさんが商猫モードで接客を始める。
「てんちょうさんはあさからげんきだね」
ふふふと笑う探偵猫がにぼしをたくさん支払って、本当に生肉みたいに見えるまぐろを購入した。
「たくやさんのところにあずけてこようかな? あそこにはれいぞうこがあるから」
「あ、そうだ。おみせにも冷蔵庫があれば……」
もっと新鮮なものをたくさん置けるのでは?
ん? 私のばしょ、田中邸はすぐ近くにあるのだから……。
「たいやきさん、在庫、田中さんのところの冷蔵庫で保管したら長持ちしません?」
「はっ! たしかに……あのひんやりしたところならおさかなながもちだね」
氷屋さんから氷入れるのも大変なんだよと言うたいやきさん。
そういえばラムネを冷やす氷って氷屋さんから仕入れていたんだ。
ん? 氷屋さん?
「たいやきさん、氷屋さんってどんないきものなんですか?」
寒いところでも生活出来る動物かな? でも、それだと夏の世界は辛そうだ。
「こおりやさんはね、にほんあしであるくとりさんだよ」
鳥?
非食用の鳥?
どんな鳥なんだろう……。
しばらく頭を捻っても、動物園出身のキングペンギンくらいしか思い浮かばない。
「はい! いらっしゃい! すっごいまぐろはいってますよー!」
たいやきさんが声を張り上げる。
よし、私も見習って。
「いらっしゃいませ! ぶあついまぐろ、にぼし二十本ですよ! お買い得です!」
そう。お肉みたいなまぐろがにぼし二十本。
相変わらず経済観がわからないけれど、徳用にぼしと料亭の鮪を天秤にかけたら明らかにお得なことがわかる。
「おとくなじゃーきぃもありますよー!」
生き生きとしたたいやきさんの声に呼ばれてか、それともすっごいまぐろ効果なのか。
いつの間にかおみせの前に行列が出来ている。
代金入れから溢れそうなにぼしの量。
いや、これ、赤字じゃないのかな?
そう思うけれど、たいやきさんが嬉しそうならそれでいいかと思ってしまう。
私はもう、このガバガバ経済のゆるい生活から抜け出す気がないのだから。
今日も大入り大儲け!
猫の女神に感謝して、供物のプリン代を稼ぎましょう。
水で顔を洗って、作務衣に着替え、だいぶ目線の低い上司、たいやきさんと一緒に朝食。
あ、かつおぶしごはん……。
「たいしょうさんがね、さきちゃんこれすきだっておべんとうばこにつめてくれたんだ」
さっき七輪で温めたよと、ほかほかのかつおぶしごはんが食卓に並ぶ。
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
結局、たいやきさんのばしょで過ごす時間が長い。
私の「ばしょ」は田中邸に似すぎているせいで、田中さんのところに居候させてもらっている感が強いし、たいやきさんと過ごすことに慣れすぎて、押し入れの上段がすっかりと落ち着く場所になってしまったのだ。
「きょうはね、いいまぐろがはいったよ!」
大将猫と探偵猫が買いに来てくれるはずだとうきうきしているたいやきさんがかわいい。
癒やし系上司。一生たいやきさんのところで働きたい。
開店準備で箒をぱたぱた動かしていると、今日もお洒落な帽子を被った探偵猫が一番乗りしてくれた。
「おはよう、さきちゃん」
「あ、おはようございます」
まぐろかな? と準備をしようと思ったけれど、彼の首を見て驚く。
「あ、首輪……」
こっちの世界で付けている猫はいないのに。
「まいごさがしはわたしのしごとだというのにね? たくやさんがどうしてもと」
困った人間さんだねと笑う。
むむっ、首輪に書く連絡先は私にするべきではないだろうか。
確かにおはぎさんは田中さんの飼い猫だけど、今は私の……。
無言で探偵猫を抱きかかえる。
「うわっ」
驚いたらしく、悲鳴を上げられたけれど、それを無視して首輪を確認した。
おはぎ オス
ワクチン接種済み
飼い主 田中卓也
緊急連絡先 岬早希
ついでに住所と電話番号までよくこんなに小さなプレートに収めきったなという情報量が詰まっていた。
「これ……」
「さきちゃんのぶんもって……」
帽子の中から小さな箱が出てくる。
「は? 私も首輪?」
なに考えてるんだあのへたれは。
そう思ったけれど、首輪と似たデザインのブレスレットだった。
岬早希
雇い主 たいやき、田中卓也
血液型と緊急連絡先に田中さんと大志の電話番号が記されている。
なにを考えているんだ本当に。
「にんげんさんのせかいにもこれとおなじものをよういしたって」
「……なるほど?」
「たくやさんはかほごだからね」
私たちは常にこの個人情報の塊を付けて歩かなくてはいけないのか。
「私、成人済みなんだけどな……」
まるで未成年を預かったかのような扱いを受けている気がする。
「……たくやさん、さきちゃんのことははんぶんねこだとおもっているからね」
「え?」
なんてことだ。
いや、でももう猫の女神を崇めているようなものだし、半分猫界の住人だから間違ってはいない?
「でも、田中さんに買われた覚えはありませんよ。後でお風呂借りに行くときに文句言っておきますね」
「……ほどほどにしてあげて。たくやさんはせんさいだから」
早希ちゃんは結構気が強いところがあるんだねと困ったように笑う探偵猫に溜息が出る。
一応私の……彼氏ってことになっているんだよね? この猫。
「きかない女は嫌いですか?」
「うーん、さきちゃんだったらすてきにみえる、かな?」
あの押しかけ助手さんみたいな乱暴な子は苦手だとフォローを入れる探偵猫に少しだけ腹が立つ。
「……暇だったら売り子手伝ってください。きょうはすっごいまぐろが入ったので忙しいはずです」
「うん。あ、でもわたしのぶんまでうらないでおくれよ? さきにしはらっておこう」
やっぱりまぐろを買いに来たのか。
「はいはい、あさいちばんのおきゃくさん! いいばしょえらんでいいよ。どこがいいかな? こことかすっごくおにくみたいだよ!」
まぐろを買ってくれると聞きつけたたいやきさんが商猫モードで接客を始める。
「てんちょうさんはあさからげんきだね」
ふふふと笑う探偵猫がにぼしをたくさん支払って、本当に生肉みたいに見えるまぐろを購入した。
「たくやさんのところにあずけてこようかな? あそこにはれいぞうこがあるから」
「あ、そうだ。おみせにも冷蔵庫があれば……」
もっと新鮮なものをたくさん置けるのでは?
ん? 私のばしょ、田中邸はすぐ近くにあるのだから……。
「たいやきさん、在庫、田中さんのところの冷蔵庫で保管したら長持ちしません?」
「はっ! たしかに……あのひんやりしたところならおさかなながもちだね」
氷屋さんから氷入れるのも大変なんだよと言うたいやきさん。
そういえばラムネを冷やす氷って氷屋さんから仕入れていたんだ。
ん? 氷屋さん?
「たいやきさん、氷屋さんってどんないきものなんですか?」
寒いところでも生活出来る動物かな? でも、それだと夏の世界は辛そうだ。
「こおりやさんはね、にほんあしであるくとりさんだよ」
鳥?
非食用の鳥?
どんな鳥なんだろう……。
しばらく頭を捻っても、動物園出身のキングペンギンくらいしか思い浮かばない。
「はい! いらっしゃい! すっごいまぐろはいってますよー!」
たいやきさんが声を張り上げる。
よし、私も見習って。
「いらっしゃいませ! ぶあついまぐろ、にぼし二十本ですよ! お買い得です!」
そう。お肉みたいなまぐろがにぼし二十本。
相変わらず経済観がわからないけれど、徳用にぼしと料亭の鮪を天秤にかけたら明らかにお得なことがわかる。
「おとくなじゃーきぃもありますよー!」
生き生きとしたたいやきさんの声に呼ばれてか、それともすっごいまぐろ効果なのか。
いつの間にかおみせの前に行列が出来ている。
代金入れから溢れそうなにぼしの量。
いや、これ、赤字じゃないのかな?
そう思うけれど、たいやきさんが嬉しそうならそれでいいかと思ってしまう。
私はもう、このガバガバ経済のゆるい生活から抜け出す気がないのだから。
今日も大入り大儲け!
猫の女神に感謝して、供物のプリン代を稼ぎましょう。
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