私には相応しくない

ROSE

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ベラ 3

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 今の生活は仮初めのものだ。ベラ自身理解している。
 毎日用意される豪華な食事はまるで物語の中の王族のようだとさえ思う。ベラのような庶民はあんなに品数の多い食事なんて食べたことがなかったし、味付けもとても複雑なものばかりで初めは困惑してしまった。
 美味しいことは美味しい。それに、いつでも温かい食事を用意してくれる。
 量に至っては弟妹と分け合ってもまだ残るのではないかと言うほどの量が、ベラの為だけに用意される。それはとても申し訳ない気持ちになってしまうし、できることならば家族にも食べさせたいと思ってしまう。
 服は毎日数が増える。いつの間にかスチュアートが新しいドレスを用意して、着替えさせるのだ。きっと彼にとってベラは着せ替え人形かなにかなのだろう。華やかなドレスが多い。繊細な刺繍や異国の模様の入ったドレスはずっしりと重く、気持ちまで苦しくなってしまう。貴族のお嬢様方は毎日大変なのだなと、体験させられている気分だ。
 彼に肌を見られるのには大分慣れた。けれどもじっくりと眺められるのだけはどうしても慣れることができない。
 入浴でさえ、スチュアートは付き添おうとする。そんなところまで世話をされるわけにはいかないとそれを断ると、今度はベッキーと呼ばれる、グロリアと同じ年頃の女の子がベラの世話をすると言うのだ。ベッキーが服を着ているのに、裸で体の手入れをされるのはなんだかとても落ち着かなかった。
 この生活がいつまで続くのはわからない。けれどもこれが仮初めのものでしかないことは理解している。
 これはベラを食べるための下拵えなのだ。
 食べて美味しくなかったら、食べ飽きてしまったら、その後はどうなるのだろう。そう考えると恐ろしかった。
 スチュアートはベラを妻に迎えると言っているが、どこまで本気かわからない。彼に飽きられたら、用済みになったらその後はどうなるのだろう。
 家族の元へ返して貰えればいいけれど、このまま幽閉されたら? 誰にも会えないまま生涯を終えることになるのだろうか。もしかしたら他のどこかに売られてしまうかもしれない。
 優しく触れられる度に、恐ろしい考えが浮かんでしまう。
 優しく触れる手も、不器用な気遣いも、全てベラを食べるための下拵えでしかないとすれば、その先が恐ろしい。
「どうせ飽きられて棄てられるんだ。殺されるかもな」
 しわがれたうさぎの声が響く。
「家族に、会ってくれると言われたとき……嬉しかったわ」
 彼を家族に紹介したいと言ったのはベラの本心だ。
 スチュアートにはとてもよくしてもらっている。今までのベラの生活ではありえないほどに。
 美味しい料理、清潔な服、温かな寝床。それに毎日入浴できる。髪も爪も、丁寧に手入れされ、すっかりといいところのお嬢様のように整えられたと思う。見た目だけならば今のベラは貴族のお嬢さんに見えるかもしれない。
 恐ろしいところに売られるかもしれなかったベラを、とても高額で買い取って、こんなにいい生活をさせてくれる。
「あいつはお前を閉じ込めて洗脳しようとしているんだよ」
 うさぎの声を信じそうになる自分が情けない。
「あんなに、優しい手で触れて下さるのに……」
 時々、確かに考えてしまう。彼と家族になれたらと。
 種族も育った環境も全く違うのだから、それはとても困難なことだろう。
 けれども、優しさに触れる度に、一緒にありたいと感じる。
「それがあいつの狙いだろう? どうせすぐに用済みになる。せいぜい逃げる準備をしておくんだな」
 うさぎは意地悪な言葉を残して、遠のいていく。
 彼の言う通りかも知れない。スチュアートはただ、ベラを食べたいだけなのだから。
 それでも、毎日案ずるように太れ、食えと気に掛けてくれたり、真剣に魔術を使えない理由を考えてくれたり、確かに彼の気遣いを感じる。
 彼の行動の全てが、偽りだと思うことができない。だから恐ろしい。
 今までベラに見せた全てが、偽りだったら?
 彼に必要とされなくなったベラはどうなってしまうのだろう。


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