私には相応しくない

ROSE

文字の大きさ
上 下
9 / 28

ベラ 2

しおりを挟む

 スチュアートはおかしな人だと思う。
 初めこそ恐ろしかったが、今は少し慣れたというところだろうか。
 美しい人と言えば美しいのだろう。いつも仮面で目元が隠れているが、仮面越しの瞳がとこか優しいような気がする。
 彼はいつもベラになにか欲しいものはないかと訊ねる。まるで贈り物こそが愛情だと信じているようにも見え、少しばかり憐れにさえ思えてしまう。
 ベラに触れたがるくせに、出会った日に奪われた以外、唇への口づけはない。彼は隣に座って抱き寄せるのが好きらしく、ベラはよく彼の胸に体を預ける形になってしまう。家族以外の男性とこんなにも距離が近いのは少し恥ずかしい。けれども、彼が側に居ると安心するようになった自分の変化に驚いている。
 本当に時々、彼はベラの前から姿を消す。使用人に会いに行っていると彼は言っているが、その時間はひどく不安だった。もし、彼が戻らなかったらベラはどうなってしまうのだろう。

「どうせすぐに捨てられるさ」

 その不安を見抜くようにしわがれた声が響く。またあのうさぎだ。
「そんなこと……」
「あるさ。あいつはお前を喰いたいだけだ。飽きたらすぐに捨てるだろうよ」
 うさぎはケタケタと不快な笑い声を上げながら言う。
「あいつにとって、お前はただの飾りだ。美しい自分を演出するための装飾に過ぎないんだよ」
 うさぎの言葉にベラは反論できない。それは心のどこかで感じていたものと一致してしまうからだ。
 スチュアートと言う男は、自分が世界で一番美しいと信じて疑わない。そして、美しい自分を更に美しくするために、ベラを必要としている。宝飾品かなにかと同じような扱いだろう。
 ベラが居なくなれば他を探す。彼自身、そう言っていた。
「でも、とてもよくしてくれているわ」
 彼自身は食べないのに、毎日ベラの為の食事を用意してくれる。それも実家よりもずっと豪勢な、一人で食べてもいいのかと疑いたくなるような食事を。
 入浴も毎日させて貰える。それに、刺繍も。話の途中で眠ってしまっても怒る様子さえ見せないし、いつの間にかちゃんと寝台に寝かせられている。
「料理だよ。お前を喰うための下拵えさ」
 うさぎはわざわざベラの一番触れられたくない部分を突き刺すように言う。
 わかっている。ベラの心の魔力を食べたいから、好かれようとしているだけだ。
 わかっていて尚、うさぎの言葉に涙が溢れてしまう。
「私は、いい人だと信じたいわ」
 自信家なのに、時々随分と不安そうにベラを求める姿を演技だとは思えない。行くなと、捕らえようとする腕を、最早拒もうという気持ちもない。
「同情か?」
 うさぎが嘲るように言う。
 わからない。ベラ自身彼に向けているこの感情がどういった類いのものかさえわからない。
 けれども、不器用な優しさを感じる瞬間がある。
 もう魔術の修行をする必要はないと切って捨てたくせに自分の知識を授けようとしたり、魔力が暴走しないようにと案じてくれたり。
 種族が違うから考えの根本も違うのかもしれない。
 けれども、彼の不器用な優しさの全てが偽りとは思えない。
「下心があったとしても、優しくしてくれていることには違いないわ」
「お前は買われたんだ。あいつにとっては愛玩動物程度の意味しかない。お前たちだって犬に餌をやり、抱きしめ、時に服を着せたりするだろう?」
 うさぎは笑う。
 愛玩動物兼非常食として扱われていても不思議ではない。
「はやく逃げるんだよ、ベラ。このままじゃあいつの魔力に操られ、飽きられたら捨てられるぜ」
 ケタケタと笑ううさぎが、少しずつ薄くなっていく。
 どうして彼はいつも意地悪ばかりを言うのだろう。
 それに、いつだって口にするのはベラの不安ばかりだ。
 スチュアートを信じたい。けれども信じ切れずにいる。
 欲しいと言われる度に、ときめきと、ただの下拵えでしかないという考えがせめぎ合ってしまう。
 優しく抱き寄せられると、安心する。強引に抱き寄せられれば拒む理由を考えられない。
 これはただ、彼の魔力に惑わされているだけなのだろうか。
 姿が消えても尚、うさぎの声が響く気がする。
 抱きしめて欲しい。彼の熱と鼓動を感じたい。
 そうすれば、この不安から目を背けられる。
 そう考えてしまった自分自身に嫌気が差す。これでは同じだ。自分の為にスチュアートを利用しようとしているようだ。
 身を守るように自分を抱きしめる。すると、力強い誰かに包み込まれる感触がした。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

俺の彼女が黒人デカチンポ専用肉便器に堕ちるまで    (R18禁 NTR胸糞注意)

リュウガ
恋愛
俺、見立優斗には同い年の彼女高木千咲という彼女がいる。 彼女とは同じ塾で知り合い、彼女のあまりの美しさに俺が一目惚れして付き合ったのだ。 しかし、中学三年生の夏、俺の通っている塾にマイケルという外国人が入塾してきた。 俺達は受験勉強が重なってなかなか一緒にいることが出来なくなっていき、彼女は‥‥‥

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...