黒炎の宝冠

ROSE

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11 偉大なる力1

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 次兄ノアの私室は相変わらず他の部屋とは空気が違う。あらゆる魔力を拒むとでも言うのだろうか。この空間でノアが許可しない魔術は使えない。
 彼の部屋を訪ねるとどうやら作曲中だったらしく、オルガンに向かいながらペンを走らせていた。
「お兄様、お時間よろしいでしょうか」
 訊ねれば、すぐに手を止めてこちらを振り向く。
「勿論。どうしたの?」
 優しく訊ねられると安心する。
「ルイスのことで少し」
 そう告げれば、椅子を指して座るように促す。そのままチェロにぴったりの高さの椅子に腰を下ろせばどこかからティーセットが現れ、お茶を注いでくれた。
「ルイス? またおかしくなってしまったのかい?」
 彼はじっとレイナを観察するように見る。魔力の色を探しているのだろう。演奏会の辺りからノアの警戒は強まっている。
「……随分と古い魔術だな。レイナ、人間を使役するのは考えものだよ」
 どうやらノアにはホセのあの術がなにかの形で見えるらしい。正確になにが起きていたのかを読み取られた気がする。
「ホセが私の僕になりたいと」
「そう……厄介な術を持ち出してくれたな。これは解けない。転生しても続く。あいつもなにを考えているのだか。普通は主側が無理矢理契約させるものだよ。まさか僕側が不意打ちで術を使うなんて思わないだろう」
 現場を見ていたのではないかと思ってしまうほど正確に状況を把握されてしまっている。やはりノアの目は特別だ。
「ホセがヘンなのは今に始まったことではありません。それより、ルイスです。誰かがルイスに良くない術を使っているようで……なにか、糸のような物が見えました。さっきはホセが外してくれたけれど……私の言葉ひとつで揺さぶられてしまうと」
 心を操る魔力を持つのは父と長兄、そしてレイナだ。レイナはルイスにそんな術は使わない。使っていないはずだ。
「私が無意識にルイスになにか術を掛けてしまっている可能性はありませんか?」
 訊ねれば、ノアは顕微鏡でも覗き込むように注意深くレイナを観察する。
「レイナの場合、魔術は無意識のことが多いからね。けれど、レイナが操るならもっと深く操れるはずだ。誰もその状況をおかしいなんて考えないほどにね」
 なんて恐ろしい。そんな術を自分が使えてしまうという事実が恐ろしくて堪らない。
「私、ルイスを操りたくなんてありません」
「わかってる。大丈夫だよ。それに、レイナが彼を操ってしまうとしたら、彼が毎日合奏のことしか考えられなくなる状態になっていると思うからね。今のところルイスから合奏のお誘いはないだろう? なら大丈夫だ」
 そんな判断基準で本当に大丈夫なのだろうか。
 けれどもレイナ自身、否定しきれない部分がある。ルイスの方から合奏に誘ってくれたら素敵だなと考えたことは何度もあるのだから。
「それではまるで私が合奏のことしか考えていないみたいではありませんか」
「実際、ルイスのこと以外は音楽のことしか考えていないだろう?」
 否定しきれない。むしろ少し前まではルイスのことも考えていない時間が相当長かった。
「最近は音楽抜きでもルイスのことを考える時間も……少しはあります」
「うん」
「もしかしたらアルベルトが婚約者だったかもしれないという話も聞きました」
「そうか。レイナはどうしたい?」
 ただ、話を聞いてくれるという事実に落ち着く。
 たくさん居る兄姉の中で、ノアは一番レイナの話を聞いて的確な意見をくれる気がする。なにもなくても、ただ話を聞いて貰えるだけで安心する。
「この先もルイスと一緒に居たいと思っています」
「うん。じゃあ、アルベルトは要らないかな?」
 悪戯っぽく笑う姿は考えが読めない。けれども、彼なりに和ませようとした結果かも知れない。
「アルベルトは五分間のお喋りは楽しい友人です」
「あー、彼は時間つぶしには楽しいけれど日常的に一緒に過ごすのは少し苦痛に感じてしまう人間かもしれないな」
 同じような評価をしていたという事実に思わず笑ってしまう。アルベルトの面白いところは自身もその評価を自覚しているという部分だろうか。
「私の友人が彼しかいないと気がついて、もしかしたら寂しい子なのかもと思ってしまったのですが、私にはお兄様方がいつも……ノアお兄様に至っては寝込んでいるときでさえ私の相手をしてくださっていましたし、むしろ恵まれていますね」
 素晴らしい兄と姉がいます。同世代の同性の友人がいないことくらいではへこたれません。そう告げればノアは少し困ったような表情を見せ、それから優しく頭を撫でてくれる。
「レイナは、魔力が強すぎたからね……」
 困ったように言う。
「でも、体が健康で良かったよ」
「お兄様?」
 魔力と健康がなにか関係あるのだろうか。
「僕もだけど、魔力が大きすぎると制御できなくなってしまって自分の体を傷つけてしまうことがあるんだ。僕は自分の免疫系を傷つけてしまっていたからとにかく病気にかかりやすくてね。でも、レイナのおかげでかなり安定してきたよ。一度病気になってしまうと魔力の制御を頑張ったところで病気自体は治らないからね。その点レイナは病的なまでにチェロを弾き続けて楽器が限界を迎えるまで魔力を吸収させていたから、結果的に体は無事だったんだろうね」
 音楽馬鹿が役に立ったねと言われたような気がする。
 確かにおばあさまの楽器は罅が入ったり指板が曲がったりしてしまっていた。練習のしすぎと言われてしまえばそれまでだけど、普通に演奏していてそこまでなるものだろうか。つまりあの楽器はレイナの魔力に負けてしまったと言うことだろう。
「魔力を制御しきれていなくても楽器に魔力を吸収させれば体は無事ということでしょうか?」
「普通は、制御できない魔力が暴走すれば周囲も危険なんだけれどね。レイナは……音楽のことしか頭になかったから魔力も音にしかならなかったんだろうね。でも、たぶん魔力の影響で普通のチェロよりかなり鳴ったと思うよ」
 レイナの音は独特の色だから、とノアは言う。
「自分の音の色は見たことがありません。どんな色でしょうか?」
「うーん、深海と言うべきか夜空と言うべきか……まあ海は実物を見たことがないから確かではないけれど、僕の想像する深海はあんな色だろうなと思うよ。そうだね、夕暮れの終わりみたいな紫がかった空が暗くなっていく感じかな。深みのある色で……レイナは小さいときからずっとそうだ。初めは驚いたな。子供の音って普通はもっと明るい色をしているのに、いつも静かな色だった」
 それは魔力の色なのだろうか。音の色なのだろうか。
「ジェイコブお兄様は春の日だまりのようですよね」
「ああ。あればっかりはエマと逆じゃないかといつも思ってしまうよ。エマは……大人しいけれど、少し荒々しい色をしているからね」
 色は性格とは一致しないのだろうか。レイナは首を傾げる。
 ノアの色はステンドグラスのようだ。万華鏡でステンドグラスを覗いたような不思議な景色が見える。それは意図的に見せた魔力の色なのだろうか。
 ルイスの音は……なんだか寂しい色。グレイ掛かった海というか灰に沈んだ街のような……。彼の魔力はとても冷たい。そもそもが氷の魔力なのだから仕方がないことだけれど、選曲の好みの問題なのか、寂しい空気が漂ってしまう。昔はもっと輝いていたと思うのに、どんどん寂しさが増している気がする。
「また、ルイスのことを考えているね」
「え?」
「レイナは、ルイスのことを考えるとき、少し金粉のような物が舞うから」
 それは一体何なのだろう。魔力だろうか。レイナは思わず鏡を確認するけれど、なにも見えない。
「少し噴き出した魔力ってところかな。でも、あまり思い過ぎてはいけないよ。しっかりと魔力を制御出来なければルイスを傷つけてしまうことになるから」
 ノアの言葉に心臓が跳ねる。
 ルイスを傷つけてしまうと言うことは、ルイスがおかしくなってしまう原因はやはりレイナ自身なのだろうか。
「お兄様は……ルイスがおかしくなる原因を御存じでしょうか」
「予測は出来るけれど断言はできない。今はなにもできない。ルイスが不安にならないようにレイナが気を遣ってあげるくらいしかないと思う。でも……ルイスは執着しやすい性格だからなぁ……レイナにべったりしすぎなのが気になる」
 ルイスはそんなにべったりしすぎなのだろうか? 普段のルイスは少し離れてレイナの後ろをついて歩く。時々感情が高ぶると抱きしめられることはあるけれど、ハグ自体はレイナのお気に入りなのであまり気にしたことがない。ただ、様子がおかしいときに力を込められすぎるのは困るけれど。
「どうしたらルイスが不安にならないようにできるかしら」
 ひょっとしたら体調不良は魔力が不安定になったせいなのかもしれない。
「……機嫌取りに何か贈ってみる、とか?」
 ノアの提案は間違いではないと思う。ただ、レイナの記憶が正しければ、ルイスから贈り物を貰ったことはたくさんあるけれど、レイナが贈ったのはいつも楽譜ばかりだったはずだ。
「……そうね。いつも楽譜ばかり贈っていたら嫌われてしまうかもしれないわ。自分が貰って嬉しい物が相手も嬉しいとは限らないものね」
 子供の頃はそれに気付かず超絶技巧曲の楽譜を贈ってしまった。そう言えばその頃からルイスはあまり楽器を持ってこなくなった気がする。たぶん合奏のお誘いを断る口実にわざと楽器を置いてきたのね。悪いことをしたわ。
「普通はどういった物を贈るのかしら? 私、お兄様方にもいつも楽譜や音楽書ばかり贈っていた気がします」
「そうだね。中々良い本を選んでくれるのだけど……ルイスに贈るなら身に着ける物や毎日使う物が良いと思う。ずっと手元にあるとレイナを思い出して安心できるかもしれない」
「はい。ふわふわのぬいぐるみ案は没にします」
 ルイスが安心できる物とふわふわのくまさんを思い浮かべたけれど心の中で却下する。落ち着く物としてハーブティー辺りも浮かべたけれど、毎日使う物となると消耗品は避けるべきだろうか。ルイスを安心させるものと考えると持ち歩ける物がいいのかもしれない。出来れば実用的な。
 レイナの基準だと実用性のない装飾品は避けるべきだと考えてしまう。けれどもルイスの好きな剣術のことはあまりよく知らない。そうなると音楽関係になってしまう。松脂や弦は好みがあるだろうし、そもそもレイナ自身自分で買ったことがない。いつもホセがいつの間にか用意してくれる。楽器のケースは既に立派なのを持っているし、また音楽のことしか考えていないと思われてしまうのも問題だ。
「……ペーパーナイフだとか万年筆だとかそう言った物が無難じゃないかな」
 あまりにも悩みすぎていたのか見兼ねた様子のノアが助け船を出してくれる。
「ああ、万年筆! 流石お兄様です。私では数日はたどり着けない結論でした」
 ルイスは自分で編曲もするから万年筆ならたくさん使って貰えるはずだ。
「早速商人を呼んで用意させましょう」
「うん。そうだね。それか兄上におつかいを頼むか」
「ルイスへの贈り物は自分の目で選びます」
 自分が、ではなく長兄に頼むと言ったノアに驚く。けれども先程の話を思い出し、なんとなく予測できた。
「お兄様も、王宮から出たことがないのですね」
「……うん。というより、出られない、が正解かな。僕もレイナも、魔力が少し特殊だからね。王宮と言うより牢獄だよ。特殊な魔術で出られなくなっているんだ。レイナも、無理に脱出しようなんて思わない方がいい。酷い目に遭う」
 ノアは一度試みたことがあるのだろう。胸の辺りをさすりながらまるで痛みを思い出すような表情をしている。
「一体なにが起こるのでしょうか」
「内臓が焼けるように痛くなる。門から離れると治まるんだ。裏口も試したけどダメだった。どうして兄上は平気で僕はダメなのかと幼い頃は兄上を恨んだものだ」
 ノアは外に興味があった。今も叶うならば出たいと願っている。
 けれどもレイナは、音楽にしか興味を持たなかった。出られなくてもなにも感じなかった。
「私、継承が決まる前はルイスと結婚したら彼の家に嫁入りする物だとばかり思っていました」
 次姉は他国に嫁いでいくという話だからてっきりそういう話になるのだと思っていた。けれども、もう随分前からルイスは普通に家族の集まりに混ざっている。ごく当たり前に家族の一部のように。つまり、そのうち一緒に暮らす存在として受け入れられていたように思える。
「レイナとの婚約が決まった時点でルイスは婿入りすることが決まっていたからね。爵位を継いだのは政治的に動きやすくするためじゃないかな。レイナが即位するとは思わなかったから第三王女の夫だけだと弱いとでも考えたのだと思う」
「難しいことはよくわかりません。そういう人間関係のごちゃごちゃした難しい話はルイスとアルベルトの方がずっと詳しいですわ」
 黒咲凛の知識としては身分制度などはしっかりと考え抜かれていない。当然権力争いがどのような構図になっているかなどちっとも考えていなかった。そこにさらにレイナの性格が加わると、音楽に関係のないことは出来る人に丸投げするべきという結論に至る。
「まあ、レイナならその方が良い場合の方が多いかもしれないけれど……でもね、レイナ。ルイスもアルベルトも常に信用出来るとは限らないよ。あの二人を利用しようとする人間も居ると言うことは頭の片隅に残しておいておくれ。今は僕や兄上が監視出来ているけれど、僕らの目が届かないこともある。それと、ホセ。彼もなにを考えているかわからないから気をつけるべきだと思う」
 ノアは少し困った様子を見せ、閉ざされている扉を見る。
「ここから出れば全部ホセに監視されている状況だ。落ち着かない」
 ノアの言うとおり、ホセの監視網から逃れられるのはこの部屋だけだろう。けれども最近はそれだけではなくなっているらしい。
「ホセの糸は入り込めないけれど、最近誰かに見られているような気配を感じることがある。レイナも気をつけて。厄介な魔力を持ったやつがいるかもしれない」
 厄介な魔力と言うことは、侵入スキルに長けたアリアではない。となると、思い浮かぶのは一人。
「フラン・エチソ?」
 彼は予知能力を持っていたはずだ。進化させれば千里眼じみたことをっできるかもしれない。
「エチソ? ああ、宮廷楽団にいたな。どうせたいした魔力を持たないやつだろうとは思っていたが……そういう厄介な方面に発展する魔力持ちだったか……」
 ノアはうんざりした様子で額に手を当てる。考え込んでいるのだろう。
「……邪魔なら即位後に国外追放すれば良いのでは?」
「レイナ……僕としては非常に嬉しい提案なのだけど権力乱用を前提に話をするのは止めようか。君は王になるんだ。偉大な力を手にするけれど、その力は正しく使わなくてはいけない。魔力もそうだ。君の強すぎる魔力は正しく使わなくてはいけない。つまり……君は善悪を判断するための知識を身につける必要がある」
 諭すようにノアは言うけれど、同じ力を手にすれば、彼は間違いなく権力の乱用をする方の人間だ。あの荒々しい演奏からしても、本来はかなり好戦的な人物と思える。政敵を全て血祭りなんてことをしでかしてもレイナは驚かないだろう。
「僕は家族さえ守れればそれでいいと思う。たぶん、レイナもルイスさえ守れれば他はどうなってもいいと考えてしまうようになると思う。けれど、君はその考えを抱いたとしても、王として、国のためになにが最適かを考えなければいけないときが来る。ルイスか民かを問われたときに民を選べるようにならなくてはいけない」
 それは理想論だ。少なくとも、今のレイナにはその選択はできない。むしろ、世界の半分以上はルイスなのだ。
「一度も目にしたことがない民のことなど考えられません。やはり私は玉座に相応しくない人間です」
 レイナの世界は兄姉とルイス、アルベルトとホセが殆どを締め、あとは音楽と自己の内面で完結してしまっている。
「私は音楽とルイスを天秤に掛けたら音楽を選んでしまうような人間です。ずっと、そうだと思っていました。けれど……今は、音楽もルイスもと欲張ってしまう。もしかすると……ルイスは私に音楽を捨てさせることさえできるかもしれない」
 それはとても恐ろしいことのように思えた。彼はレイナの軸を揺さぶってしまえる。
「大丈夫。ルイスはそれを望まないよ」
 優しく頭を撫でられても安心できない。
 この先、彼が変わってしまわないという確信はないのだから。
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