青の記憶を瓶に詰めて

ROSE

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ビビアン1 最悪

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 シシー。嫌な女。
 あの子のせいで計画は台無し。
 あの子さえいなければ……。

 いいえ。

 アルジャン。

 あの男が最悪よ。



 嫌な夢を見た。せっかく好条件の嫁ぎ先が決まると思ったのに、あの男。私を睨んで「役立たず」なんて罵った。
 最悪。
 シシーを振り向かせるために私を利用した性悪男。
 乙女を弄んだあの男は絶対痛い目に遭わせてやる。
 そんな感情を胸に最悪な目覚めだった。

 そもそも金持ちの上流貴族ばかりが集まるあの学校に背伸びしてまで編入したのは条件のいい嫁ぎ先を探すためだ。
 まずは金を持っていること。
 面倒ごとが少ない家。
 見た目はおまけ程度。
 アルジャンは嫁ぎ先として破格過ぎた。
 公爵令息。ペルフェクシオン公爵家は王家より金を持っていると噂だ。それに王位継承権の順位が低い。面倒な妃教育がない。王妃ほど公務がないのが魅力的だ。
 権力に欲を出さなければ一生贅沢な暮らしが出来る。
 なにより、アルジャンは見た目がいい。
 婚約者の居る男は狙い目だ。婚約者より少しこちらがいいと思わせれば簡単に落とせる。
 そう考えてしまったのははっきり言って過ちだ。
 シシー。
 あの子はよくあんな男に耐えられる。
 暴君。そう呼ぶよりはクソガキがそのまま成長したようなわがまま男に無駄な権力を持たせてしまった神の過ちだ。
 別に夢で見たあの男が許せないからだとかそんな下らない理由だけではない。
 アルジャンが破滅してくれれば憐れなシシーを救えるのではないだろうか。つまり、私は英雄になる。
 馬鹿馬鹿しい。
 けれどもシシーには利用価値がある。あの子に恩を売っておくのは将来的に得だ。
 なにせ、シシーはヴィンセントの妹だもの。
 アルジャンに耐え続けているヴィンセントは伯爵家の長男、つまり跡継ぎだ。
 姉はもう嫁に出ている。妹は理不尽な婚約者に耐え続けているとは言え婚約者のいる身。母親はいない。
 狙い目だ。
 オプスキュール伯爵家は公爵家と比較してしまえば霞むが、かなり裕福な方の家だ。
 それに、ヴィンセントは口は悪く融通が利かない男だが真面目で面倒見がいい。
 夫になれば家族を大切にしてくれそうな男だ。
 つまり、狙うならヴィンセント。そのためにはシシーに接触するのが一番だ。
 そう思うのに……あのシシーという女は視線が合わない。
 学内でもいつも俯いていて暗い。
 正直、あんな子と親しくしていると思われれば評判が下がりそうだ。そのくらい、地味で暗くて纏う空気が悪い。
 そう思っていたのに、音楽祭の彼女は別人だった。
 演奏中の不思議な色気のある表情。苦悩に満ちたような表情のくせに、妙に綺麗に見えてしまった。
 正直、音楽のことはさっぱりわからない。彼女が演奏していた曲がものすごく難しいという話は聞いたことがあったけれど、なにが凄いのかもさっぱりわからなかった。
 それでも、芸術の女神が愛するのはきっとあの子だと感じるほど美しく見えてしまった。
 あれなら。
 義理の妹にしてあげてもいいかもしれない。
 私の婚活の邪魔さえしなければ護ってあげてもいい。
 シシーと接触しなくては。
 頭の中で計画を練る。
 そう言えば、音楽祭に参加した生徒が、アルジャンが婚約者を歌劇に誘ったという噂をしていた。
 正直、あの男に歌劇が理解出来るとは思えない。というより、上演時間を最後まで起きていられなさそうだと思う。
 シシーを思いっきり怒らせればいいのに。
 心の中でアルジャンを呪う。
 考えつく限り最もかっこ悪い姿をシシーに目撃されればいいのに。
 そう願って、シシーがいつもあの男に耐え続けていることを思い出す。
 ……正直、尊敬する。
 家の為にも逆らえないのかもしれないけれど、あれに耐え続けられるなんて。
 なんとか別れさせてあげたくなってしまう。
 貴重な休日をそんなことに消費するべきか一瞬悩み、それでもシシーが気になって仕方がなくなってしまった。
 歌劇場に入れるほどのお金はない。
 それでも。
 劇場の前でシシーを観察するくらいは出来るのではないか。
 そう思い、劇場に足を運ぶと、意外な人物と遭遇した。
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