青の記憶を瓶に詰めて

ROSE

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アルジャン6 上手くいかない2

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 シシーに贈るドレスが届いた。
 白地に金の装飾が施された美しいドレスは、きっと舞台の上でシシーを引き立ててくれるだろう。演奏も邪魔しない理想的な形だ。
 そう思うのに、ドレスを選んでいた時ほど喜びを感じない。
 シシーはきっとドレスなんて望まない。
 このドレスはシシーの好みではないはずだ。
 柄にもなく後ろ向きなことばかりを考えてしまう。
 それもこれも、きっとイルムのせいだ。
 机に向かい便箋を手に取る。
 悩んだ時も手紙を書く。決して打ち明けられない考えを綴り、封をして奥底にしまい込む。
 シシー、なぜそんなに思い悩んだ表情で演奏する?
 俺はどこで間違えただろう?
 言葉にすれば、暴走してしまうだろう。己を抑えきれず、シシーを苦しめてしまうかもしれない。
 独占欲の強い自覚はある。
 気持ちを全て言葉にして、シシーに告げてしまえば、きっとヴィンセントとの接触さえ禁じたくなってしまう。
 シシーがなにに苦しんでいるのか知りたい。そしてその原因を取り除きたい。
 そう思うのに、その原因を知ってしまうのが怖い。
 どんな顔をしてシシーに会えばいいのだろう。
 どんな言葉をかければいいのだろう。
 なにも思いつかない。
 ひとりになる時間が必要だ。
 ふと、スノーグローブが目に入る。
 この球体部分はこんなにも青みがかかっていただろうか?
 思わず手に取ると、ずっしりと重みを感じた。
「……こんなに、重かったか?」
 オルゴール仕掛けで、液体が詰まっているのだからある程度の重さはあるだろう。そう思いつつも、違和感を覚えた。
 ぜんまいを回せば、難度も聞いた歌曲が流れる。
 どうしてだろう。
 シシーが泣いているような気がする。
 そうだ。このオルゴールを鳴らす度に、シシーが苦しんでいるような気がする。
 シシーはなぜ俺にこれを贈ったのだろう。
 彼女の姿を思い浮かべれば、馬車の中で視線が合わない姿が真っ先に浮かぶ。
 最後に彼女と見つめ合ったのはいつだっただろう。
 そう考え、シシーと顔を合わせるのが恐くなった。
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