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イルム1 贈り物2
しおりを挟む背後で瓶が砕け散る。部屋の中で青い液体が飛び散った。
棚に並んだ瓶を確認し、空いた部分を確認する。
ラベルは【セシリア・オプスキュール】。
まさか。
慌てて瓶を確認する。
セシリアが限界を迎え、自ら命を絶ったらしい。
一体なにが彼女をここまで追い詰めたのだろう。
青い液体に触れ、探る。
瓶詰めの青はセシリアの苦しみだ。
一体なにが起きたのだろう。
他者の記憶を覗くのは褒められたことではないが原因を突き止めなくてはならないという使命感に突き動かされた。
「つまらない」
アルジャンの声が響く。
悲しみを押し殺し、青の雫が落ちる。
「今すぐアルジャン様に頭を下げ婚約解消を取り消して貰ってこい!」
怒鳴り散らした声はセシリアの父親だろうか。
セシリアの感情は失望さえ感じておらず、ただ目の前の光景が通り過ぎていくのを待っているように感じられた。
男が、セシリアから楽器を取り上げ、それを力尽くで叩きつけ砕いてしまう。
「期待している」
上から目線の偉そうなアルジャンの声が、砕け散る。
これは、きっとセシリアの心情だ。
期待されることのなかった彼女の唯一の支えだったのだろう。
彼女の軸を、父親が砕いてしまった。己の欲を優先させたばかりに。
瓶は雫を受け止めきれず、蓋を弾き飛ばして青の液が溢れ出す。
待て。
やめろ。
止めようとしたところで、それはセシリアの記憶でしかない。
彼女はそのまま自ら命を絶ってしまった。
なんてことだ。別の時間軸の俺は失敗したらしい。
はっきりと意識する。アルジャンの手に渡ってしまった秘術は一応作用したのかもしれない。不完全な形ではあるが。
それでも、早めに対処しなくては。
なんとかセシリアにお守りを渡して、少しでもその苦しみを和らげてやりたい。
あの愚かなアルジャンからセシリアを守らなければ。
彼女には幸せになって欲しい。アルジャンから奪うことだって考えた。
シシー。
あの男が呼ぶ愛称で接近しようと思った。
けれども、セシリアはあまりその呼び方を気に入ってはいないようだった。
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