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レア1 悪い夢2
しおりを挟む息抜きという名目でセシリアを連れ出した。
午後の授業を欠席させてしまったのは申し訳ないと思うけれど、彼女にも息抜きが必要だと思った。
話を聞けば聞くほど、セシリアはアルジャンを愛していないのだと感じてしまう。
愛していないというよりも、単に諦めを感じたのかもしれない。
アルジャンが毎日セシリアへの愛の手紙を綴っていることは知っている。昔、好奇心に負けて読んでしまった時はあの弟がこれを書いたとは信じられないほどに妄想と美化に満ちたなにかだと思った。あんな手紙を送られたらセシリアでなくても付き合い方を考えたくなるだろう。勿論、終わらせる方に。
あれだけ毎日欠かさず妄想と美化に満ちた手紙を書けるくせに甘い言葉のひとつも囁けないへたれ。
わかってはいたけれど、アルジャンの愛はセシリアを向いていない。
「この呼び方はあまり好きではありません」
セシリアのその一言が全てを表しているようだった。
たまたまイルムとかいうセシリアに付き纏っている男が口にした愛称。
アルジャン以外は誰もそうは呼ばないと思っていた。勿論、アルジャンは本人の前ではそう呼ばない。
けれども、アルジャンがセシリアにそう呼びかけなかったのは救いなのだと思う。
嫌いな愛称で呼ぶなんて、きっと怒らせてしまうか失望されてしまうわ。
アルジャンはセシリアを愛している自分に酔っているだけで、セシリア自身が見えていない。だから長年彼女が嫌いな愛称を使い続けてしまっているのだろう。
この件をアルジャンに教えるべきか悩む。
セシリアが逃げ場を探しているのなら逃がしてあげるのも愛だと思ってしまうのだ。
セシリアを失えばアルジャンまで失ってしまうかもしれない。そうなる前に、セシリアとアルジャンを離すのもひとつの手段だ。
それにしても、あのイルムとかいう男は気に入らない。
一応王宮の客人なのだ。留学生という名目の。
下から数えた方が早いほど兄姉がいるけれど、仮にも王族だからそれなりの扱いをしなくてはいけない。
けれども、セシリアに近づくのは認められない。
彼は絶対にセシリアに気がある。なにか贈り物を渡していたようだし。
セシリアも、満更でもなさそうに見えたのが問題だ。アルジャンがあの場を目撃していたら、きっと嫉妬に狂っていただろう。
「しばらくセシリアを監視して頂戴」
護衛のひとりに声をかける。
私の護衛だけど、陛下には事後報告で構わない。
だって、私の言うことはなんでも聞いてくれる人だもの。
ただの夢ならそれでいい。
けれど、実現されては困る。
セシリアの心が少しでも安らいでくれればいいと思うけれど、私が努力したところで、アルジャンをそこまで改善することは出来ないだろう。
セシリアが望むなら、別の相手を探してもいい。
アルジャンは一度くらい痛い失恋を経験したっていいと思ってしまうのだ。
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