青の記憶を瓶に詰めて

ROSE

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レア1 悪い夢1

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 悪い夢を見た気がした。
 オプスキュール伯爵家からの訃報。
 可愛いセシリアが自殺したという知らせを受けた。

 アルジャンは少し、いいえ、かなり甘やかされて育った。
 玉座こそ手が届かなくても世の中の大抵の事は彼の思い通りになってしまう。なにより、才能も与えられてしまった。
 つまり、自信ばかりが暴走している。
 それ程力のない伯爵家の次女に一目惚れし強引に縁談を進めたと聞いた時はさすがに父叱りつけたが無駄だった。
 シシーという少女にすっかり熱を上げていたのだ。
 ペルフェクシオン公爵家にとってセシリアは一種の生贄だった。とりあえずアルジャンが彼女に夢中の間は他でそれ程大きな問題を起こさずにいてくれる。
 セシリア一人の犠牲で、その他多くの問題がある程度抑えられるのだ。
 セシリアのことはかわいい。けれどもアルジャンにあの子を与えておくことは国益に繋がることだと信じていた。
 きっとそれが間違いだった。
 一般的に見てセシリアに対するアルジャンの扱いは酷すぎた。
 女の価値はどれだけの男に愛されているかで決まる。目に見える形の愛情を得て、初めて価値がある。貴族の女なんてそんなものだ。
 条件のいい男からの高価な贈り物やわかりやすい愛情表現を誇示してこそ上位に立てる。
 ペルフェクシオン公爵家の跡取りという特上の価値があるアルジャンの婚約者が社交界で舐められ切っているのはアルジャンがセシリアに対する愛情を人前で見せないからだ。
 セシリアの視点に立てばまともなデートすらしたことがないのではないだろうか。
 問題は、アルジャンは自分の行動が完璧な愛情表現だと思い込んでいることだ。
 追い込みすぎた。
 二人の問題なのだから二人で解決するべきだと考えてしまったのがいけなかった。
 ぐっしょりと汗まみれになって目覚め、慌ててアルジャンに会いに学校へ向かった。
 アルジャンは私の登場に驚いたようだったけれど、気にしていられない。
 陛下ほどとは言わない。人前でみっともなく鼻の下を伸ばすような男、かわいいセシリアの隣には置きたくないもの。
 いくつか忠告はした。
 本来はアルジャン自身が自発的にしなければいけないことだと思いつつも、ドレスの贈り物を宿題とする。

 「シシーはなにを着ても世界一美しい」

 脳内で彼女になにを着せるのか考えているのだろう。
 うっとりと夢を見るような表情を浮かべる姿に呆れてしまう。
 「……アルジャン、昔から思っていたけれど、あなた、セシリアのことになると欲目が過ぎるわ」
 欲目なんて言葉で済ませられないほど彼女に惚れ込んでいるのは知っている。けれどもセシリアは世間の基準で考えればアルジャンが表現するほどの美貌ではない。
 どちらかというと控えめで柔らかな印象の可愛らしい子だ。
「シシーの美貌を理解出来ないなど残念な美的感覚だな」
「好みは人それぞれなのよ」
 求婚した時から本当に一途に真っ直ぐなのね。
 思わず頭を撫でる。
「わかってる。あの子を手放しちゃだめよ。あの子が離れたら、きっとあなたは生きられないから」
 あの夢のせい。
 セシリアが消えてしまったら、アルジャンまで失うような気がした。
 思わず、忠告してしまったのは悪夢の不安が膨らみすぎてしまったから。
 どうしてか、流れてもいない涙の感触が頬を伝っているような気がしてしまった。

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