青の記憶を瓶に詰めて

ROSE

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アルジャン3 伝えられない1

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 リィウスは〝巫女〟という言葉に気を引かれ、あらためてエリニュスを見た。この女が神に仕える仕事をしていたとは、とうてい思えない。
 だが、トュラクスの侮蔑をこめた非難の言葉は、かえってエリニュスを面白がらせたようだ。
「ほほほほほ」
 エリニュスは白い手を口に添えて、わざとらしげに笑いころげる。
「どうやって覚えたのだと思う? 神官や他の年長の巫女が、手取り足取り教えてくれたのよ。いいえ、参詣や祈願に来る裕福な信者たちも熱心に教えてくれたものよ。そのなかには貴族や皇族もいたわよ」
「あきれたな。ウェヌスの巫女は男を知らぬ乙女でなければならないはずだろう?」
 ウェヌスの巫女。トュラクスの言葉にリィウスは耳を疑った。
 ローマでもっとも格式高い神殿の巫女だったとは。何よりも純潔を重んじ、巫女がその掟に違反すれば、死刑と決まっていることは誰もが知っていることだ。
「お、おまえは本当にウェヌスの神殿に仕えていたのか?」
 驚愕をかくせないでいるリィウスにエリニュスは、ふん、と鼻を鳴らした。
「そうよ。五歳のときに神殿にあずけられ、毎日のように神官たちに身体をまさぐられ、十二になったときは、熱心な信者の貴族に売られたわ」
 リィウスはふたたび耳を疑った。神官も巫女も不犯を誓っているはずなのに、そういうことがあって良いのだろうか。
「信じられない……。神官が本当にそんなことをしているのか?」
「皆がやっているわけではないけれど、どういうわけか私は物心ついたころから、そういう男を惹きつけるようなのよ。言っておくけれど、ほとんどの巫女は神殿を出るまでは処女よ。けれど、なかには、私のように似非えせ神官に選ばれてしまい巫女くずれとなる者がいるのよ。私を抱いた男たちに言わせれば、私には天性の淫婦の質があるのだそうよ」
 笑ってあっさり言いながらも、その淫婦の横顔に、ちらりと翳が走ったのをリィウスは見た。
「男たちに言わせれば、私の全身から男を誘う匂いのようなものが滲み出ているですって。ほんの五歳の頃から、目つきに媚びるようなものがあったとその神官が言っていたわ」
 今の目の前のエリニュスが色情狂であることは確かだが、だが、五歳の子どが媚態びたいをそなえている、というのは、その神官の言い訳に過ぎないとリィウスは思う。己のなかにある卑しい欲望を認めず、相手を悪者にしているのだ。

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