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憤怒
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フリューゲルとひとまず別れた俺は予定通りギルドへと向かった。昼まで十分に時間はある。手頃なクエストを受けるつもりだった。
フリューゲルには気前良く俺の金を使わせているが所詮は過去の遺産。何処かで尽きる事を考えると稼げる時に稼がなければならない。
「金の為、か」
昔はただ名誉を求めてクエストを受けていた。向上を目指さず、ただ金を稼ぐ為に低難易度のクエストを受ける今の俺を、過去の俺が見たらどう思うのか。
「……いや、止めよう」
俺の全てはフリューゲルに託した、それで良い。
陰鬱な思考を振り払い、ちょうど着いたギルドの扉を開く。中の冒険者達の視線が少しの間俺に向くが、すぐに霧散する。
「あ、オーウィンさん。おはようございます」
「適当にクエストを頼む」
「はーい。ちょっと待ってくださいねぇ……」
馴染みの受付にクエストの選択を適当に選び出すように頼む。いつもよりもクエスト内容を示した紙の数が多いように見えた。
「多いな」
「ああ、はい。最近侵入数がほんと多くて……。ブルームなんて一つクエストが無くなってもすぐに発行されちゃうんです」
「……そろそろあれの時期か?」
「ご想像にお任せします。……はい、こんな感じでどうですか?」
「……これを頼む」
「はい。……オーウィン様のクエスト受諾を確認しました」
「午後にまた来る。銅の連中が持て余してそうなクエストが残ってたらその時言ってくれ」
「お、もしかしてやる気出てきました!?私は今でも――」
「じゃあな」
適当に返事をしながら受付を離れる。あいつはもっと積極的に動いていた時の俺を知っている。その頃に比べたら確かに今の俺にやる気は感じられないだろうな。
「――あっ、オーウィンさん!」
「……フェリエラ」
俺を見つけたらしいその声が聞こえた瞬間、そいつは滑り込むように俺の前に立った。
「おはようございます!朝からここに来た甲斐がありましたよ!」
「……何回か言ったよな。俺にさん付けするのもへりくだった態度を取るのも止めろって。金等級だろう、お前は」
「それは出来ません」
「……はあ」
数少ない金等級冒険者。その中でも上位に位置するのがこいつだ。そんな圧倒的実力者が、銅等級の俺に対して取って良い態度じゃない。
「私はオーウィンさんの強さを、知ってますから」
こいつも恐らく俺の経歴を知る者の一人。そして、未だにあの頃の俺を今の俺に重ねている。
今の俺の価値なんて、たかが知れてるというのに。
「……クエスト、まだ受けてるんですね」
「ん、ああ。これ以外にやれる事が無いだけだ」
「それはつまり、私の提案には乗ってくれないと?」
フェリエラが僅かに表情を歪め、不満そうな顔をした。
以前こいつからとある提案を受けた。
その内容は、専属の補佐人になってくれ、という物だった。
補佐人……クエストにおける補佐や戦い方の助言をしてくれという事だ。
「提案を受けてくれれば、私がオーウィンさんの一生を保証します。クエストを受ける必要も無い。貴方には私の側で平穏に、充実した生活を送っていただきたい」
冗談の色が一切無い顔でフェリエラはそう言い切った。
何故そうまでして俺に執着するのか分からないが、その提案を受けるのは俺にとってはあり得ない話だ。
「遠慮しておく」
「……そう、ですか。しかし、考えが変わったのであればいつでも――」
「それに、俺はもう補佐人だ」
「……それはもしかして、鉛のバンシーの事ですか?」
「お、知ってるのか。……久々に聞いたな、その異名」
「私が呼び始めましたから。あのグズにはお似合いですよ」
「……お前はそういうヤツだったな」
自身が強者だと疑わず、弱者と認識した者を徹底的に下に見る。それがフェリエラという女。その在り方はいっそ清々しい。
そしてこいつよりも弱い俺に、そんな在り方を咎める権利は無い。そもそも咎める気はそこまで無いが。
「遊びでやってるんですよね?あのグズが哀れで可哀想で、つい手を差し伸べてしまった。それだけでしょう?オーウィンさんは優しいですから」
ただ、その認識ばかりは間違いだ。
「違うな。フリューゲルの才能は本物だ。――俺はアイツに夢を託した。本気で」
「……」
「その内お前も飛び越えていくさ。楽しみにしてろ」
☆
「おっと」
「あ、すまん」
ギルドからオーウィンが出ると同時に、入れ替わるように銅等級冒険者ジョンは中へと入った。その後、すれ違ったオーウィンの背中を見るように振り返る。
「……今日はフリューゲルちゃん居ねえのか」
オーウィンと同じく早朝からクエストを受けようとやって来たジョンは、オーウィンの近くにフリューゲルの姿が見えない事を残念に思いながらも、受付へ向かうべく前を向いた。
「あーもう一回くらい話してみて――ええ!?」
ジョンが驚いたのは無理もなかった。目の前にはこのギルドの冒険者であれば誰もが知る金等級冒険者であるフェリエラが無造作に立っていたからだ。
しかし、ジョンはその事だけに驚いた訳ではない。その時、ジョンが人生で初めて至近距離で見る事になったフェリエラの顔は――。
「……は?」
憤怒の色に染まっていた。
フリューゲルには気前良く俺の金を使わせているが所詮は過去の遺産。何処かで尽きる事を考えると稼げる時に稼がなければならない。
「金の為、か」
昔はただ名誉を求めてクエストを受けていた。向上を目指さず、ただ金を稼ぐ為に低難易度のクエストを受ける今の俺を、過去の俺が見たらどう思うのか。
「……いや、止めよう」
俺の全てはフリューゲルに託した、それで良い。
陰鬱な思考を振り払い、ちょうど着いたギルドの扉を開く。中の冒険者達の視線が少しの間俺に向くが、すぐに霧散する。
「あ、オーウィンさん。おはようございます」
「適当にクエストを頼む」
「はーい。ちょっと待ってくださいねぇ……」
馴染みの受付にクエストの選択を適当に選び出すように頼む。いつもよりもクエスト内容を示した紙の数が多いように見えた。
「多いな」
「ああ、はい。最近侵入数がほんと多くて……。ブルームなんて一つクエストが無くなってもすぐに発行されちゃうんです」
「……そろそろあれの時期か?」
「ご想像にお任せします。……はい、こんな感じでどうですか?」
「……これを頼む」
「はい。……オーウィン様のクエスト受諾を確認しました」
「午後にまた来る。銅の連中が持て余してそうなクエストが残ってたらその時言ってくれ」
「お、もしかしてやる気出てきました!?私は今でも――」
「じゃあな」
適当に返事をしながら受付を離れる。あいつはもっと積極的に動いていた時の俺を知っている。その頃に比べたら確かに今の俺にやる気は感じられないだろうな。
「――あっ、オーウィンさん!」
「……フェリエラ」
俺を見つけたらしいその声が聞こえた瞬間、そいつは滑り込むように俺の前に立った。
「おはようございます!朝からここに来た甲斐がありましたよ!」
「……何回か言ったよな。俺にさん付けするのもへりくだった態度を取るのも止めろって。金等級だろう、お前は」
「それは出来ません」
「……はあ」
数少ない金等級冒険者。その中でも上位に位置するのがこいつだ。そんな圧倒的実力者が、銅等級の俺に対して取って良い態度じゃない。
「私はオーウィンさんの強さを、知ってますから」
こいつも恐らく俺の経歴を知る者の一人。そして、未だにあの頃の俺を今の俺に重ねている。
今の俺の価値なんて、たかが知れてるというのに。
「……クエスト、まだ受けてるんですね」
「ん、ああ。これ以外にやれる事が無いだけだ」
「それはつまり、私の提案には乗ってくれないと?」
フェリエラが僅かに表情を歪め、不満そうな顔をした。
以前こいつからとある提案を受けた。
その内容は、専属の補佐人になってくれ、という物だった。
補佐人……クエストにおける補佐や戦い方の助言をしてくれという事だ。
「提案を受けてくれれば、私がオーウィンさんの一生を保証します。クエストを受ける必要も無い。貴方には私の側で平穏に、充実した生活を送っていただきたい」
冗談の色が一切無い顔でフェリエラはそう言い切った。
何故そうまでして俺に執着するのか分からないが、その提案を受けるのは俺にとってはあり得ない話だ。
「遠慮しておく」
「……そう、ですか。しかし、考えが変わったのであればいつでも――」
「それに、俺はもう補佐人だ」
「……それはもしかして、鉛のバンシーの事ですか?」
「お、知ってるのか。……久々に聞いたな、その異名」
「私が呼び始めましたから。あのグズにはお似合いですよ」
「……お前はそういうヤツだったな」
自身が強者だと疑わず、弱者と認識した者を徹底的に下に見る。それがフェリエラという女。その在り方はいっそ清々しい。
そしてこいつよりも弱い俺に、そんな在り方を咎める権利は無い。そもそも咎める気はそこまで無いが。
「遊びでやってるんですよね?あのグズが哀れで可哀想で、つい手を差し伸べてしまった。それだけでしょう?オーウィンさんは優しいですから」
ただ、その認識ばかりは間違いだ。
「違うな。フリューゲルの才能は本物だ。――俺はアイツに夢を託した。本気で」
「……」
「その内お前も飛び越えていくさ。楽しみにしてろ」
☆
「おっと」
「あ、すまん」
ギルドからオーウィンが出ると同時に、入れ替わるように銅等級冒険者ジョンは中へと入った。その後、すれ違ったオーウィンの背中を見るように振り返る。
「……今日はフリューゲルちゃん居ねえのか」
オーウィンと同じく早朝からクエストを受けようとやって来たジョンは、オーウィンの近くにフリューゲルの姿が見えない事を残念に思いながらも、受付へ向かうべく前を向いた。
「あーもう一回くらい話してみて――ええ!?」
ジョンが驚いたのは無理もなかった。目の前にはこのギルドの冒険者であれば誰もが知る金等級冒険者であるフェリエラが無造作に立っていたからだ。
しかし、ジョンはその事だけに驚いた訳ではない。その時、ジョンが人生で初めて至近距離で見る事になったフェリエラの顔は――。
「……は?」
憤怒の色に染まっていた。
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